三菱商事と三井物産は今買うべきか?

総合商社に暗雲が立ち込めています。2強である三菱商事と三井物産がともに資源事業の減損損失を計上し、会社創設以来初の最終赤字に転落するということです。株価も先週末から三菱商事が2.7%、三井物産が4.5%下落しています。バリュー投資家としては買い時と見るべきでしょうか。

三菱商事と三井物産は似ているようで結構違う

どちらも大手総合商社と呼ばれる2社ですが、その事業構成は結構違っています。

三菱商事

三菱商事は「総合」という名にふさわしく、様々な事業を手がけています。純利益に占める割合は「生活産業」3割、「機械」2割、「エネルギー」2割、「新産業金融」1割という感じです。「エネルギー」と「金属」を合わせた資源分野は約4分の1となります。

三菱商事

2015年3月期 三菱商事純利益(出所:アニュアルレポート)

商社のビジネスは昔のように単に仕入れて売るだけではなく、物流や投資、金融などを通じて産業全体を円滑化する役割を担っています。三菱商事はそれを資源関係だけでなく、ローソンに代表される消費者ビジネスから宇宙関連まで幅広く行っています。ここでは当然「三菱」の名前が生きていることでしょう。

三井物産

一方の三井物産はというと、利益創出源が資源分野へ偏重しています。EBITDA(償却前営業利益)に占める資源分野(「エネルギー」+「金属資源」)の割合は8割に上ります

三井物産

2015年3月期 三井物産EBITDA(出所:アニュアルレポート)

資源分野への投資は最近のことのように言われることがありますが、有価証券報告書の<沿革>を見ると、1960年代から豪州の炭鉱や鉄鉱山の開発を行っていることが分かります。伝統的に資源分野を中心に取り扱っており、今後もそれが急に変わることはないでしょう。

「幅広い分野に分散した三菱商事」「資源分野に偏重する三井物産」では性質が大きく異なっているのです。

最終赤字は「お灸」程度の意味でしかない

今週発表されたプレスリリースでは、三菱商事が4,500億円、三井物産が2,600億円の減損損失を計上しています。

注意深い人なら「資源分野が少ないはずの三菱商事の方が損失が大きいじゃないか」と思うかもしれません。実はこれ、偶然にすぎません。

今回減損損失が大きかったのがどちらもチリの銅山となっており、同じ事業に投資していたのです。その出資比率が三菱商事が20.4%、三井物産が5%だったことから、出資比率の大きかった三菱商事の損失が大きくなったというわけです。

【関連記事】チリ銅山めぐり三菱商事・三井物産 リスク乗り越え資産獲得(産経ニュース)

当時から「高値づかみ」と言われていたようで、いつか減損する可能性は想定されていたでしょう。銅の価格下落により減損が避けられなくなったことで、それなら一緒に他の資源関係の減損も出してしまおうということになったと考えられます。

資源開発事業では、このような減損はよくあることです。確かに、損益計算書上は赤字になってしまいましたが、純資産がそれぞれ5.5兆円、4兆円ある会社なので、それに比べたら微々たる金額です。よほど資源価格が下落しない限り、来年度以降も同じような損失が発生する可能性は低いと言えるでしょう。今更キャッシュフローが傷むわけでもないので、今回の赤字は少し調子に乗ってしまったことに対する「お灸」程度の意味しか持ちません

商社株は割安に放置されている

商社株はそもそも低位株として知られています。PERは常に1桁、PBRは0.5倍程度です。私はこの評価は低すぎると考えています。投資資産が多く、時価評価が適用された貸借対照表における純資産の半分程度の評価しかないというのは会計的には異常です。

低評価は今回のようなエネルギー価格の下落リスクを反映しているとも言われますが、長い目で見て資源の需要がなくなることはないでしょう。その他の分野に分散していれば、業績もさらに安定してきます。

三菱商事は、資源に頼らず様々な事業へ関与しています。今回の件で資源分野の膿も出したでしょうから、今後ますます事業を広げていくでしょう。

三井物産は、資源分野偏重でリスクが高い部分もありますが、50年以上続けてきた事業がここに来て急にダメになるとは考えにくいです。資源需要に関しては中国の動向が気になりますが、長い目で見れば中国の次はインドが待ち構えています。来季の配当も営業キャッシュフロー3,500億円の25%ということで、利回りは3.6%程度が見込めます。

安定の三菱商事と爆発力の三井物産。これを機にチェックしてみてはいかがでしょうか。

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執筆者

執筆者:栫井 駿介

栫井 駿介(かこい しゅんすけ)

つばめ投資顧問 代表
株式投資アドバイザー、証券アナリスト
ビジネス・ブレークスルー(株)「株式・資産形成実践講座」講師

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