排ガス不正問題で揺れるフォルクスワーゲンはどうなるか

排ガス不正問題で揺れるフォルクスワーゲン(VW)。株価は不正の発覚により大きく下落しています。ドイツを代表する自動車メーカーはこれからどうなってしまうのでしょうか。

10兆円の負担との報道も

まず、排ガス不正問題について整理します。

自動車を販売する時は各国の規制をクリアする必要があり、排ガス規制に関して米国は世界で最も厳しいと言われています。VWはその米国で自社のディーゼル車の排気基準を満たすために、検査の時に「だけ」窒素酸化物の排出を抑えるプログラムを組み込んでいました。

これは明らかな故意であり、今後米国等の政府による制裁金やリコール費用、さらに米国らしく多額の賠償金がかかり、その金額は10兆円以上とも報道されています

制裁金などの金額についてはいまだに未知数なため、この事件がVWに与える定量的な影響を正確に測ることは現段階では困難です。しかし、この機会に世界的な大企業について学ぶことは、グローバルな投資を行う観点から大きな意義があります。

欧州と中国がメイン、米国はサブ

今回問題の中心は米国です。VWはドイツの企業ですが、全世界に展開しており、年間約1,000万台の自動車を販売しています。これはトヨタに次ぐ世界2位の台数です。地域別販売台数の内訳はグラフのとおりになります。

フォルクスワーゲン

出典:Volkswagen Annual Report 2014

グラフを見ればわかるように、北米での販売比率は8.8%にすぎません。多くは欧州アジア太平洋(大半は中国)での販売となっています。

今回の事件を受け、VWは米国で激しいバッシングを受けています。しかし、米国で売れなくなったところで、その影響は大きくありません。むしろ、今最も市場が成長しているのは中国が重要であり、VWは中国での販売シェアトップを誇ります。

VWの価値はアウディ、ポルシェにあり

VWは実に12ものブランドを傘下に抱えています。トヨタが「トヨタ」「レクサス」の2種類に絞っているのとは対照的です。最も販売台数が多いのは「フォルクスワーゲン」ですが、その他に「アウディ」「ポルシェ」「ベントレー」など、日本でのおなじみの、それも高級車に分類されるブランドを持っています

下のグラフは、ブランド別の営業利益率の比較です。これを見ると、ポルシェの営業利益率が15.8%、ベントレーが9.7%、アウディが9.6%です。一方、フォルクスワーゲン(VW Passenger)は2.7%しかありません。

ブランド別営業利益率

出典:Volkswagen Annual Report 2014

つまり、VWの収益源は最大ブランドのフォルクスワーゲンではなく、ポルシェ・アウディなどの高級車ブランドだということです。売上高を販売台数で割った1台あたり販売金額は、フォルクスワーゲン約280万円に対しポルシェが約1,200万円、アウディが約500万円、ベントレーは約2,000万円にもなります。

ポルシェのような高級車を買う人が、排ガス規制に敏感になるとは思えません。今回の不正でフォルクスワーゲンブランドの販売台数が減少したとしても、高級車ブランドで手堅く稼ぐでしょう。これから高級車が伸びる中国で基盤を築いていることも大いに期待が持てます。

制裁金や賠償費用の支払いで経営が大きく揺らぐことさえなければ、VWの価値は盤石と言えそうです。VWは3月の決算発表を延期し、4月中に行うことを公表しています。その際は上記のことを頭に入れてニュースを見るとおもしろいかも知れません。

Print Friendly, PDF & Email

執筆者

執筆者:栫井 駿介

栫井 駿介(かこい しゅんすけ)

つばめ投資顧問 代表
株式投資アドバイザー、証券アナリスト
ビジネス・ブレークスルー(株)「株式・資産形成実践講座」講師

詳細はこちら
サイト訪問者限定プレゼント
あなたの資産形成を加速させる3種の神器を無料プレゼント

プレゼント①『株式市場の敗者になる前に読む本』
プレゼント②『企業分析による長期投資マスター講座』第一章
プレゼント③『YouTubeプレゼン資料』

メールアドレスを送信して、特典をお受取りください。
メールアドレス *
※送信したメールアドレスに当社からのお知らせやお得な情報をお送りする場合があります。

※個人情報の取り扱いは本>プライバシーポリシー(個人情報保護方針)に基づいて行われます。
※送信したメールアドレスに当社からのお知らせやお得な情報をお送りする場合があります。
※上記は企業業績等一般的な情報提供を目的とするものであり、金融商品への投資や金融サービスの購入を勧誘するものではありません。上記に基づく行動により発生したいかなる損失についても、当社は一切の責任を負いかねます。内容には正確性を期しておりますが、それを保証するものではありませんので、取扱いには十分留意してください。

気に入ったらシェアしてもらえると嬉しいです!

コメントを残す

Popular Article - よく読まれている記事Popular Article

  • 銀行株は今後どうなる?そろそろ売り時?
    今回は銀行株についてです。 銀行株が上がりましたが、もう売るべきなのか、まだ持ち続けるべきなのか、悩んでいる方はぜひお読みください。 売るか...
  • 【紅麹問題の小林製薬】株価20%下落はチャンスか? 過去の成功・失敗事例から学ぶ
    騒動の発端は2016年に遡る 紅麹は米などで紅麹菌を繁殖・発酵させたもので赤い色をしています。コレステロールの抑制作用や血圧低下、リフレッシ...
  • 三井E&Sは割安?「造船」「港湾関係」好調の恩恵はあるか?
    先日公開した記事の中で、さくらインターネット、住石ホールディングス、三井E&Sを「仕手株」として取り上げました。
  • 株価20%上昇の大林組 3倍になった配当金は続くのか?今から投資するべき?
    大林組はゼネコン業界のNo.2の企業である 大林組はいわゆるゼネコン業界に属している企業です。 ゼネコンとは、ゼネラル・コントラクターの略称...
  • 【アステラス製薬の下方修正】1年で株価40%下落 営業利益90%減少の理由。今は買い?売り?
    アステラスの業績の変化 2024年4月12日、アステラス製薬は下方修正を発表しました。   その内容は、 「24年3月期第4四半期...

Article List - 記事一覧Article List

カテゴリから記事を探す