ソフトバンクの退任劇に見るカリスマ経営者の後継者問題が株価に与える影響

ソフトバンクのニケシュ・アローラ副社長が突然退任することになり、市場を驚かせました。孫社長が肝いりで連れてきたエリートの退任劇は、これからのソフトバンクにとってどのような意味を持つのでしょうか。

孫社長「まだ辞めたくない」

アローラ氏はインド系アメリカ人であり、Googleの副社長として活躍していましたが、孫社長が口説き落としてソフトバンクに連れてきました。孫社長の後継者に内定していたとも言われており、今回の退任は晴天の霹靂です。

表向きは、孫社長が「まだ辞めたくなくなった」とまるで子供のような言いぶりをしています。確かに、孫社長はまだ58歳であり、引退するには早すぎる年齢です。

しかし、これを額面通りに取る人はそういないでしょう。アローラ氏の退任が発表される前日には、匿名の投資家グループによるアローラ氏の副社長としての資質に問題があると訴える書簡をプレスリリースで否定しています。退任の発表がその翌日ですから、調べてみたら実は問題があったと考えてもおかしくありません。

アローラ氏の退任を受けて、ソフトバンクの株価は上昇しました。アローラ氏に関する不安要素が退任によって払拭されたことが理由の一つと考えられます。

ジョブズの退任後、アップルの株価は上昇

ソフトバンクのようなカリスマ的経営者がいる会社にとって、後継者は最大の課題です。最近ではセブン&アイの鈴木会長やスズキの鈴木修会長の退任が話題になりました。同じような問題を抱えるのが、ソフトバンクの社外取締役も務めるファーストリテイリングの柳井会長や日本電産の永守社長です。

後継者問題に唯一の正解はありませんが、確実に言えることはカリスマ経営者と同じような人を連れてくるのは難しいということです。仮に優秀な人材を連れてきたとしても、これまでと同じやり方というわけにはいかず、経営方針を変更せざるを得ないでしょう。これが難しいことから、「集団指導体制」により変化を緩和しようとする会社も少なくありません。

カリスマ経営者の辞任で思い出されるのが、アップルのスティーブ・ジョブズです。ジョブズは若くして亡くなり交代を余儀なくされましたが、株価は交代後に大きく上昇しています。

※ジョブズのCEO退任は2011年8月 (出典)Yahoo!ファイナンス

※ジョブズのCEO退任は2011年8月、2012年3月に配当の再開を発表
(出典)Yahoo!ファイナンス

ジョブズが稀代の経営者であることは疑う余地がありません。それなのに、なぜいなくなってから株価が上昇したのでしょうか。

「変人の会社」から「普通の会社」へ

一つの仮説として考えられるのが、カリスマ経営者から普通の経営者に交代することによって、投資家から見て「普通の会社」になることです。

カリスマ経営者は良くも悪くも常人とは違った考え方をするので、動きを予測することが難しくなります。予測できないということは「リスクが高い」ということです。もちろん、常人と違うからこそ飛び抜けた成果を上げられるのですが、人は根本的に「リスク回避的」なため、敬遠してしまう投資家が多いのです。

株主還元の考え方も独特です。自信にあふれる経営者は、株主還元にお金を回すよりも、そのお金を拡大投資に充てた方が有利だと考えています。実際に、ソフトバンクの配当性向は10%と、平均を大きく下回ります。

アップルのケースでは、ジョブズは過去の苦い経験から、できるだけ現金を手元に置いていたいと考えていたと言われています。ジョブズの死後アップルは配当を再開し、株価の上昇に大きく貢献しました

普通の経営者に交代すると、経営のリスクが下がり、株主還元が充実する可能性があります。これは会社が「開拓期」から「収穫期」になると言っていいでしょう。そして、多くの投資家にとっては収穫期の方が魅力的に映るのです。

ソフトバンクはアリババやスーパーセル、ガンホーの売却により、1か月で2兆円もの現金を手にしました。これは、アローラ氏主導によるものだと言われ、これまでの成果の一部を「収穫」したと言えます。このままアローラ氏が後を継いでいたら、本格的に収穫期に移っていたかもしれません。

孫社長の続投によりソフトバンクの収穫期は当分先になりそうですが、その分まだまだ市場を賑わせてくれそうです。

ソフトバンクという会社

2016.06.11
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執筆者

執筆者:栫井 駿介

栫井 駿介(かこい しゅんすけ)

つばめ投資顧問 代表
株式投資アドバイザー、証券アナリスト
ビジネス・ブレークスルー(株)「株式・資産形成実践講座」講師

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