「トランプ経済学」を現代経済史から読み解く

アメリカ大統領選挙では市場やマスコミの事前予想に反し、ドナルド・トランプが次期大統領になることが決定しました。株式市場は乱高下し、これから起こることについて多くの人が頭を悩ませています。選挙中の発言を実行したらアメリカ経済に何が起きるのか、現代の経済史から読み解きます。

企業活動に国境は関係なくなった

時代が進むに連れて、企業の経済活動は国境に制限されないようになってきました。かつては自国で生産した製品を海外に輸出することが中心でしたが、1980年代後半の日米貿易摩擦において、アメリカは日本からの自動車や電気製品の輸入を制限しようとしました。

すると、日本企業はアメリカの中に工場を建設し、輸出を回避することで生産活動を続けました。これが輸出だけでなく、生産も海外に移管することの先駆けとなりました。

その後、中国が経済開放政策を進めると、豊富で安い労働力が得られることから世界中の企業が生産拠点を移しました。当初は繊維製品など簡易なものが中心でしたが、やがて精密機械にも進出しました。経済特区の深センなどでは様々な企業が生産拠点を構え、中国が「世界の工場」としての地位を確立しました。

今ではiPhoneをはじめとするハイテク製品のほとんどは中国で製造されています。アメリカ発のアップル社製品だろうと関係ありません。生産地も消費地も簡単に国境を超える時代になっているのです。

保護主義は労働者のためにならない

そのような状況で、トランプは「日本や中国からの輸入に多額の関税をかけろ」「TPPやNAFTA(北米自由貿易協定)から離脱する」と、現在の世界経済とは相容れない発言をしています。

その根拠は、日本や中国・メキシコの製品や安い労働力がアメリカの雇用を奪っているという主張です。これが職を奪われた白人労働者層の共感を呼び、支持を伸ばして当選するまでに至りました。

しかし、もし関税を大幅に上げ、自由貿易協定から脱退したとしても、労働者の生活が豊になるわけではありません

グローバル化した企業が今からわざわざ今から賃金の高いアメリカに工場を建設する合理的な理由がありません。それならばと最低賃金を引き下げることは、トランプの支持層からすれば最も受け入れがたいことです。

さらに、関税を引き上げたとしたら、アメリカの労働者たちはバカ高いiPhoneを購入しなければならなくなります。しかし、アップルを例に取ったとしても米国外の売上のほうが多く、主要な生産拠点をアメリカに移すようなことはしないでしょう。

中国やインドの台頭を許す結果に

アメリカがいまさら保護主義経済を取ったとしたら、漁夫の利を得るのが中国やインドです。中国が世界最大の経済大国になるのはもはや時間の問題であり、グローバル企業はビジネスがやりにくいアメリカではなく、中国を中心とした戦略を取るようになるでしょう。

最近は中国も労働者の賃金上昇により、企業の工場撤退が相次いでいますが、一方で上述した深センは単純労働の工場ではなく、IoTを中心とする新産業の拠点となりつつあります。いまやアメリカのシリコンバレーをしのぐ勢いです。同じく、成長が著しい国でIT産業の拠点となりつつあるのがインドのバンガロールです。

保護主義政策を実行したら、このような流れが加速するだけです。かつてグローバル企業が日本を飛び越してしまう「ジャパン・パッシング」が起きましたが、そのうち「アメリカ・パッシング」も十分起こりうるでしょう。将来振り返ってみたら「あれが転換点だった」と言われることになるかもしれません。

トランプが上記の発言をそのまま実行したとしたら、アメリカが世界経済から取り残され、自分で自分の首を絞める結果になるだけでしょう。ちゃんとした人ならそれを十分に理解しているはずですが、トランプの頭の中はいまだに1980年代のままという気がしてなりません。

※本記事は会員向けレポートの一部を抜粋したものです。

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執筆者

執筆者:栫井 駿介

栫井 駿介(かこい しゅんすけ)

つばめ投資顧問 代表
株式投資アドバイザー、証券アナリスト
ビジネス・ブレークスルー(株)「株式・資産形成実践講座」講師

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