ドナルド・トランプの本質は「究極の自己愛」である

この数ヶ月、トランプ大統領の言動が市場の動きを左右しています。従来の大統領であれば、分析すべきはその政治信念ですが、彼の場合その特異な性格を分析した方が行動原理がわかりやすいでしょう。トランプ大統領の性格とは「究極の自己愛」です。

自己愛とは何か?

彼は「決して誰にも負けず、1番になること」を良しとする教育を受けて育ちました。少年時代は全く言うことを聞かない問題児であったため、見かねた親から全寮制の軍隊学校に入学させられます。

軍隊学校では、軍人上がりの教員による軍隊式のスパルタ教育が行われました。トランプ少年は最初こそ圧倒されたものの、力による上下関係の強さを思い知り、「誰にも負けない」という思いをより強くしたと考えられます。

「負けないこと」を何よりも重視したため、彼の性格は極端な方向に向かいます。そうして生まれたのが「究極の自己愛」です。

自己愛とは、異常なまでに自分のことを愛する精神状態のことです。自分が全て正しく、世の中から尊敬されるべき存在であると本気で考えています。自分に従わなければ、どんな方法を使ってでも徹底的に相手を攻撃します。反対に、自分に従う人間には異常なほど優しくすることもあります。

自分をよく見せるためには、嘘や誇張を厭いません。彼はこれまでもたくさんの嘘や誇張を繰り返してきました。厄介なのは、自分がついた嘘を半ば本当だと自分でも思い込んでしまうことです。人間の記憶はそもそも曖昧なものですが、自己愛はそれをより自分の都合の良いものに捻じ曲げてしまうのです。

自己愛こそがビジネスを成功させた

彼が「1番になる」のに選んだ場所はビジネスでした。不動産業やカジノ経営で財をなし、ニューヨークに絢爛豪華な「トランプ・タワー」を建設しました。お金を湯水のように使う生活ぶりは、マスコミの格好のネタになりました。

しかし、それだけで彼を「優秀な経営者」と考えるのは誤りです。彼がビジネスに成功したのは、ニューヨーク市などに取り入って自分の会社に都合いいのように利権を勝ち取ってきたことが要因です。決して素晴らしい製品を開発したり、活発な組織を作り上げたわけではないのです。

その後、彼は自分の会社を何社も破産させています。それにもかかわらず、あらゆる手を使って自分の財産を確保したことに関しては、ある意味天才的な才能があると言っていいかも知れません。

マスコミは、彼のビジネスと自己愛を満たすのに非常に都合の良い存在でした。豪華な生活ぶりは、自らの名を冠した「トランプ・タワー」をはじめとする、あらゆるビジネスの宣伝になりました。マスコミに取り上げられることにさぞご満悦だったようで、自分のことを特集した記事は必ず隅々まで目を通したと言います。

私生活ではスキャンダルにまみれた人生を送っています。2回の離婚を経験し、今の妻は3人目です。そこに至るまでも、離婚や不倫に関してワイドショーで度々報じられてきました。しかし、スキャンダルを起せば起こすほど自分の名前が売れるので、それすらビジネスの宣伝に一役買ったのです。要するに、「目立ったもの勝ち」ということです。

目立って1番になることが自己愛の本質ですから、大統領選への出馬はまさに彼の自己愛を満たす最上の出来事だったに違いありません。そして、臆面もなくマスコミを活用して目立ってきたことで一般庶民の目に多く触れることになり、「単純接触効果」により世紀の番狂わせを引き起こしたと考えられます。

窮地に立たされた自己愛はどこへ向かうか?

トランプ大統領の「究極の自己愛」は、アメリカ、そして世界をどこへ向かわせるのでしょうか。

これまでの経緯から考えると、彼が本当にアメリカを良くしようと考えているとは考えにくいです。選挙中に掲げた政策も人気取りばかりで一貫性に欠ける支離滅裂なものですし、彼のビジネスがそうであったように、安定して組織を運営する能力を持っているわけでもありません。

希望的な観測をすると、彼自身はあくまで広告塔になり、優秀なブレーンが彼を正しい方向に導いてくれればそれなりの政権運営ができるでしょう。しかし、残念ながら、入閣予定者は身内や彼にとって都合のいい「お友達」ばかりで、筋のいいものとは言えません。

周囲が少しでも気に入らない進言をすれば、すぐに自分の出演していたテレビ番組さながらに「お前はクビだ」と宣告するでしょうし、すでにそのような兆候も見られています。これが続けば、「裸の王様」になるのは時間の問題です。

そんなトランプ大統領も、安倍首相と友好関係を演出したり、ロシアのプーチン大統領を持ち上げたりと、自分以外にも敬意を示すことがあります。外交に関しては、望みがありそうにも見えますが、私はそうは考えていません。

自己愛が他人を持ち上げるのは、(1)自分(自己愛)にとって都合が良いイエスマン(2)自分のテリトリーに関係のない権力者です。(1)は安倍首相、(2)はプーチン大統領があてはまります。

しかし、どちらにしても自分と対立したり、自分のテリトリーに踏み込んできたら、途端に態度を翻して、まともな交渉にならないでしょう。そのような相手と正面から付き合うのは決して利口ではありません。

少なくとも政策的には、遅かれ早かれ行き詰まるでしょう。民衆の支持も、いつまでも続くとは思えません。窮地に立たされた時に、彼の自己愛がどこへ向かうのか、注意深く見ておく必要があります。彼が大統領でいる限り、アメリカの政治から目を離せなさそうです。

(参考文献)熱狂の王 ドナルド・トランプ

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執筆者

執筆者:栫井 駿介

栫井 駿介(かこい しゅんすけ)

つばめ投資顧問 代表
株式投資アドバイザー、証券アナリスト
ビジネス・ブレークスルー(株)「株式・資産形成実践講座」講師

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2 件のコメント

  • 大変参考になりました。いずれ破たんは必至ですね。意外に早く失脚ないし、いきズまりが来る時に備えます。

  • 清水 正基  1936年12月3日生まれ 79歳 へ返信するコメントをキャンセル

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