「PCデポ」への投資で「50%超」の利益をあげられた理由

2016年10月1日より買い推奨してきたPCデポ(7618)を8月24日に売り推奨しました。当初推奨時からの上昇率は53.5%でした。本銘柄への投資は「不祥事等により大きく値下がりした銘柄に投資する」バリュー株投資の典型例と言えます。その流れを振り返ることで、バリュー株投資のダイナミクスを実感していただければ幸いです。

悪評とは裏腹に、財務・事業内容に問題なし

PCデポは2016年の8月に、高齢顧客に高額なサービスを販売し、さらに高額な解約料を請求したことで「炎上」した銘柄です。株価は直前のピークの半値以下の水準に落ち込みました。

炎上騒ぎはやがて、「情報弱者からの搾取」や従業員への過大なノルマという「ブラック企業批判」へも拡大し、インターネット上では悪い噂が絶えませんでした。株価も低迷を続けます。

不祥事による株価低迷は、企業の実態に致命的な問題がない限り、バリュー株投資としては大きなチャンスとなりえます。そう考えて私は同社の調査を開始しました。すると、財務内容には問題がなく、しばらく業績が低迷しても倒産するようなことはないことは明らかでした。

事件は同社が単なるデジタル製品の小売業から、個人顧客に対するITサポート会社への転換を遂げようとしている最中で起きた出来事でした。小売業からサービス業へ転換できれば、利益率の向上が見込めます

外部環境に目を向けると、IT製品が急速な進歩を遂げる中で、高齢者等へのサポートニーズは拡大していくことが読み取れました。同社はそのような社会の変化を敏感に感じ取り、大きくビジネスモデルを転換しようとしていたのです。炎上事件は大きな変化の中で起きた小さなひずみにすぎなかったと言えます。

サポートの強化により利益を向上させてきた実績もあり、悪評とは裏腹に手堅い銘柄だと結論付けました。私は会社への取材なども通じて企業体質に大きな問題がないことを確認し、会員への推奨を決定しました。

その後PCデポは、契約内容の見直しや社員教育の徹底を図り、汚名返上に努めました。業績は一時的に悪化したものの、徐々に底を打ち始めました。最近では米投資信託会社のブラックロックが買い増しを行うなど明るい動きも見られ、8月に入り株価は一時ストップ高を記録するなど大きく上昇しました。

推奨開始から1年経たずに50%を超える利益を確保できたことから、会員の皆さまへは売却を推奨するに至りました。これにより、多くの会員が利益を得ています。

なかなか上がらない株価、決算発表遅延・・・

しかし、ここに至る道のりは、必ずしも平坦ではありませんでした。

推奨直後は、業績は前年対比で悪化するばかりで、株価はなかなか上昇しませんでした。推奨時の株価を下回った期間もあり、心配になった会員の方から質問攻めにあったこともあります。

追い打ちをかけたのが、決算発表の遅延問題です。

2016年度第3四半期の同社決算が当初予定日に発表されず、翌日・また翌日へと持ち越されました。決算発表の遅延でいいことが起きる可能性は低く、投資家の不安を煽りました。会員の方からも、企業体質に問題があるのではないかという厳しいご指摘も受けました。4日後にようやく決算が発表され、大きな問題が無かったことが分かると、ひとまず胸をなでおろしました。

その後の本決算では、過年度決算における細部の修正と、監査法人の交代が行われました。ここから推察するに、監査法人が急に細かな指摘を始め、現場が混乱したことが遅延の要因だったのではないかと考えます。交代前の監査法人は、東芝が会計不正を行った際に担当していた新日本監査法人でした。もう失点ができない中で、過剰に保守的になった可能性が否定できません。

経営状況に問題はないものの、危なっかしい面が残る銘柄だったため、私は机の上の調査にとどまらず、会社への取材や決算説明会への出席、店舗の観察などを通じて同社の理解に努めました。そこまでしてもなお大丈夫だと思えたことから、ここまで推奨を続けられたと自負しています。

常識を覆した妻の一言

私がPCデポを推奨したのは、妻の一言がきっかけでした。

私は以前から同社のことを知っていましたし、炎上事件のことも認識していました。株価が下がっていることも分かっていましたが、「いくら下がっても、こんなに印象の悪い会社に長期投資はできない」と、大方の意見と同じことを考えていました

ある日のテレビでも同社のニュースを取り上げていました。そこでは、従業員のノルマを記した「トウゼンカード」と呼ばれるものがネガティブな印象で報道されていました。それを見て私が「ひどい会社だね」と言うと、妻は「そうかしら?小売業ではある程度のノルマは普通のことよ」と反論しました。

妻は金融やビジネスとはほとんど縁がありませんが、かつて小売店で働いていました。現場にいた人間がそういうのですから、もしかしたら本当にそうなのかも知れないと思い、もう一度調査することにしました。そうしてフラットな目線で同社を見ると、世間で言われているほど悪い銘柄ではなかったのです。こうして私は「掘り出し物」に出会うことができました

金融の世界では、多数派と同じ動きをしていても大きく儲かることはありません。正攻法は、多数派と違う動きを採りながらも、論理的には正しい行動をすることです。妻の一言は、私が常識を疑うきっかけを与えてくれました。金脈は思わぬところに埋まっているのです。

「常識を疑う勇気」「物事を理解する知識」「上昇を待つ忍耐力」

すでに推奨を終えた銘柄について、これまでの実績を集計しました。

平均保有期間は5.3ヶ月、平均リターンは15.6%となりました。最近は銘柄を厳選していることもあり、前回報告時よりもリターンが上昇しています。推奨銘柄として紹介できる銘柄が少ないとご指摘を受けることもありますが、厳選投資するからこそリターンを上げられていると考えます。

平均保有期間は5.4ヶ月、上昇率は9.9%

2017.05.04

今回のPCデポへの投資で、私としてもバリュー株投資に対する理解がより深まりました。必要なのは「常識を疑う勇気」「物事を理解する知識」「上昇を待つ忍耐力」でしょう。この3つが揃って、はじめて投資が成功すると考えます。

つばめ投資顧問の投資顧問契約では、3つの要素を会員の皆さまにお伝えしたいと考えています。単に銘柄を推奨して終わりではなく、会員の疑問には真摯に向き合い、株価や業績などに大きな動きがあった際にはなるべく早くメールにて情報を伝えています

会員の方からは「心理的なサポートがありがたかった」というコメントが寄せられ、大変うれしく思います。投資は究極的には自分の精神との戦いです。皆さまの資産運用を精神面からサポートできる投資顧問でありたいと思います。

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執筆者

執筆者:栫井 駿介

栫井 駿介(かこい しゅんすけ)

つばめ投資顧問 代表
株式投資アドバイザー、証券アナリスト
ビジネス・ブレークスルー(株)「株式・資産形成実践講座」講師

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