投資をしている人なら、一度はジョージ・ソロスの名前を聞いたことがあると思います。英ポンドに空売りを仕掛けて15億ドル(1,700億円)もの利益をあげ、「イングランド銀行を潰した男」とも言われます。
その投資手法から、「投資」よりも「投機」を行う人物として知られ、一見バリュー株投資とは無縁に思えます。私も少なからずそう思っていました。しかし、彼の著作を読むごとに彼の考え方がまっとうであることがわかり、同時に彼の人間性に思いを馳せざるを得ません。
基本概念は「再帰性」
ソロスの投資に対する基本概念は、自身が「再帰性」と呼ぶ性質です。「再帰性」とは、簡単に言うと「正のフィードバック」のことで、「人々が株価上昇を期待すると、買い手が増えることによりさらに株価が上昇する」というものです。この概念にしたがうと、株価は本質的な価値に関係なく上がり続けることになります。(その反対、つまり下がる場合も同じことが言えます。)
「株価が本質的な価値と乖離し続ける」という概念は、近代の金融理論とは相容れないものです。金融理論では「株価は価値に収束する」とされていますから、価値から乖離を続けることはあってはならないのです。
しかし、今年のノーベル経済学賞も受賞した「行動経済学」により、ソロスの考え方も見直されるでしょう。従来の経済学は「人の行動は総体的には合理的である」という前提に立っていますが、行動経済学はそれが必ずしも正しくないことを証明してきました。私がよく言う「群集心理」もその考え方を取り入れています。
最近になって明らかにされている説を、ソロスは60年以上も前から唱えていたのです。学説にとらわれず本質を考え続けたからこそ導き出されたものであり、学問として確立されるずっと前からファンドマネジャーとして投資の現場で実践したからこそ、多額の利益をあげられたと言えるでしょう。
「可謬性」−人間は必ず間違える
ソロスが再帰性の問題にたどり着いたのは、彼が哲学を学んでいたからに他なりません。彼自身も、本当は哲学者になりたかったと言っています。
哲学を通して彼が学んだことは、人間は必ず間違うという「可謬性」です。人間は世界の一部であるがゆえに、世界を「完全に」理解することはできないという論理学の概念が、「再帰性」の出発点となっています。これは、「人間は合理的である」と考える従来の経済学とは異なる見地を与えてくれます。
しかし、再帰性により価値から離れた株価も、やがてバブルが弾ける場面が訪れます。すると、今度は負の再帰性により必要以上に株価は下がるでしょう。
ソロスはそのようなバブルの生成と崩壊のメカニズムを研究することで、バブルの崩壊を見据えて投機を仕掛けていたのです。つまり、株価などには「再帰性」により本質的な価値から乖離することもありながら、バブルの崩壊を通じて最終的には価値に収束するということを行動で示しているのです。
ソロスも未来を予知できるわけではない
本を読んで驚いたのは、ソロスも決して未来を予知できているわけではないということです。再帰性によるバブルはいつ弾けるから分からず、特に日記調で書かれたは短期の予想はかなり外れていました。
ポンド売りで成功したのは、自身の哲学に基づいてはいたものの、「たまたま」タイミングが良かっただけかも知れません。実際に、その後巨額の損失を出す場面も少なくありませんでした。これが「投資」ではない「投機」の難しいところとも言えます。
また、世界的な投資家たるもの数字には強いと思っていたら、むしろ数学は苦手だと言うのです。金融の最前線では高度な数学を駆使し、新たな金融商品が生み出されていますが、それを使って「投資で」成功した例は記憶にありません。
彼らが稼いでいるのはあくまで投資家への金融商品の販売による「手数料」です。ノーベル賞受賞者による高度な金融理論を駆使して運用されたファンド(LTCM)は、ロシア危機であっけなく破たんしてしまいました。
投資哲学を確立する
ソロスの考え方をなぞると、投資で重要なのは数学ではなく哲学ということになります。つまり、哲学を確立できれば、数学ができなくても投資で成功できる可能性があるということです。バフェットも「25以上のIQがあれば投資での成功は頭の良さとは何ら関係ない。」と言っています。(IQ25はさすがに低すぎるとは思いますが。)
ソロスもバフェットも、投資で成功するのは哲学者のように内省的な人物が多いように思います。市場の未来を読むことも大切ですが、最終的には投資は自分との戦いであり、それに勝つには哲学を身につける必要があるのでしょう。
当社では、投資に必要な哲学を皆さまに身につけていただくべく、今後も精進してまいります。引き続きよろしくお願い申し上げます。
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