いま世界の四大リスクとして挙げられているのが「ABCDショック」です。Aはアメリカ大統領選挙におけるトランプ候補の勝利(America)、BはイギリスのEU離脱(Brexit)、Cは中国の経済成長鈍化(China)、そしてDはドイツ銀行の経営リスクです(Deutsche Bank)。
トランプもブレグジットも経済への影響は限定的
アメリカ大統領選挙におけるトランプ氏の勝利は、テレビ討論会を受けてかなり可能性が低くなってきたと言えます。しかし、イスラム過激派によるテロの発生など、ナショナリズムを掻き立てるような事件が起きた場合、まだトランプ氏が大統領になってしまう可能性もゼロではないと考えています。
トランプ氏はインテリ層からの受けが良くありませんから、万が一大統領になった場合、リスクを意識して株価が大きく下落する可能性があります。しかし、それが実体経済に与える影響は必ずしも大きくないでしょう。誰が大統領になったとしても、これまで築き上げてきた経済を覆すような制度の変更を行うのは容易ではなく、最終的にはトランプ氏の支持層(白人労働者)に対する一時的なばらまき政策で終わる可能性が高いと考えています。
ただし、イスラム世界とアメリカの対立構造の激化は世界情勢を不安定化させる可能性があり、より注意深くなる必要があります。それでも経済的な影響としては大きなものではなく、もし株価が大きく下落した場合はバリュー株投資家にとって買いの好機となるでしょう。
イギリスのEU離脱についてはすでに過去のことになりつつあります。国民投票の結果が判明した直後は株価が大きく下落しましたが、結果的に影響はさほど大きくなく、株価は元の水準を取り戻しました。
結果的にはブレグジットによる株価下落は投資の大きなチャンスでした。
チャイナリスクは長引く可能性
四つのリスクの中で、世界経済に最も影響が大きいのがチャイナリスクです。中国経済はこれまで政府主導の投資によって経済成長を遂げてきましたが、それが過剰な生産能力を生み、すでに民間セクターは供給過剰による景気悪化を目の当たりにしています。昨年のいわゆる「チャイナショック」は本格的な成長鈍化の序章に過ぎなかったと考えています。
中国では、不動産価格を中心に再びバブル活性化の様相を呈しています。このバブルが崩壊し、中国の経済成長の鈍化が明らかになった場合は、世界中で投資が冷え込み、再びリーマン・ショックに近い状況が起こる可能性も否定できません。その場合、回復までは時間がかかるでしょう。
それでも、リーマン・ショック後の景気回復局面において大きく株価が上昇したことからもわかるように、長期的には投資のチャンスであることには変わりありません。重要なのは、バブルが崩壊する前の高値に手を出すことなく、その後の下落局面において価値あるものに投資することです。
ドイツ銀行はリーマン・ブラザーズにはならない
そして今、最も市場を賑わせているのがドイツ銀行です。2008年のリーマン・ショック時の違法行為をアメリカ当局に指摘され、最大約1.4兆円の和解金が課されるとされています。さらに悪いことに、ドイツ政府がドイツ銀行が経営危機に陥ったとしても救済しないと宣言、更なる不安を誘っています。
しかし、私はドイツ銀行がリーマン・ブラザーズのように破綻する可能性は非常に低いと考えています。リーマン・ショックの際は、多くの投資不適格な証券化商品が投資商品に組み込まれていて、それを保有していた多くの投資銀行が危機に陥りましたが、ドイツ銀行の場合はそのような爆弾を抱えているわけではありません。
問題は巨額の和解金に加えて、EU域内のマイナス金利などを要因とする収益性の低下です。低い収益性によって経営状況が苦しくなり、株価は低迷するでしょうが、それだけでは巨大な銀行が潰れるようなものではありません。
もしドイツ銀行の問題が原因で過小評価されている銘柄があるとすれば、投資のチャンスかもしれません。当社でもそのような銘柄を探しています。
似たようなケースでは、数年前にギリシャの債務問題に関連して欧州債務危機が叫ばれましたが、結果的に世界経済に大きな影響を与えることはなく、今ではほぼ沈静化しています。その時、南欧国債は売り込まれて信じられないような高い金利がついていました。それらを購入した投資家は大きく儲かったことでしょう。
「ピンチはチャンス」と思っていれば必ずいい投資の機会が見つけられるはずです。もし「ABCDショック」に関連した動きがあったら、冷静に判断してそう多くは訪れないチャンスを活かしましょう。
※本記事は会員向けレポートの一部を抜粋したものです。
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