EVに消極的?「全方位戦略」を貫くトヨタの戦略

トヨタは今の世の中がEV(電気自動車)全盛の中で、未だにガソリン車・ハイブリッド車にこだわる”全方位戦略”を取っています。

ガソリン車という、「オワコン」とも言われるものに執着しすぎではないかと思われがちですが、先日の決算説明会の様子を見ると、そこには何か戦略があるのではないかと感じました。

今回はトヨタの戦略を探るとともに、トヨタへの投資について考えてみたいと思います。

EV化戦略を取らないトヨタ

半導体不足が徐々に解消されてきて、ここのところのトヨタの業績は好調です。
来期は過去最高の販売台数と過去最高の営業利益(3兆円)が出せると言っています。

しかし、環境のためにEV化しようという世界的な風潮に逆行する面があり、トヨタへの風当たりは強くなっています。

EVの方も技術が進歩してきて、電池の劣化や航続距離、価格といった問題も解消されつつあります。

EVの代表格であるテスラは、これまでは利益が出ない状況でしたが、ついに損益分岐点を超えて、昨年1年間で131万台の販売台数を記録しました。(トヨタは約1000万台)
営業利益率が16%もあり、トヨタ7~8%と比べると倍以上の利益率となっています。
テスラの利益率が高い理由としては、(1)ガソリン車に比べてEVは部品数が少なく生産環境を整えれば低コスト化できる、(2)”高級車”という位置づけでアーリーアダプターに買われている、ということが考えられます。

トヨタもEVを全くやっていないということはありませんが、特別に力を入れていることはなく、ガソリン車・ハイブリッド車含めて全方位外交を行っている状況です。
決算説明会でもEVにシフトするべきだという意見も多く、当初は私もそう思っていたところがありました。
しかし、質疑応答まで見ていると、トヨタの描いている戦略が見えてきました。

ガソリン車・ハイブリッド車の持つ可能性

今、EVで先行しているのは中国で、新車販売の約2割はEVとなっています。
しかし、その中国においても未だにハイブリッド車に対する需要が根強いと、質疑応答の中で言っています。
需要の中身としては、(1)従来からガソリン車に乗っている人は引き続き使用する傾向が強いこと、(2)田舎の方では充電インフラが整っていないこと、(3)まだEVの方が高価であること、主にこの3つが考えられます。

ガソリン車・ハイブリッド車の方が比較的安く、初期費用が抑えられる、つまり、所得が低いところではガソリン車を選ぶというところに着目すると見えてくることがあります。

先進国における車のニーズは頭打ちになっていて、販売台数はなかなか増えなくなっています。
一方、これから車の販売が増えるところは、インドや東南アジアといった新興国です。
そういった地域では充電インフラも整っていないですし、高価なEVを買えるわけでもありません。
政府としても、EVを普及させるインセンティブやその余裕もありません。

今、完全にEVにシフトするということは、これから車の需要が増えるであろう市場を失うことにもなってしまいます。
売上を伸ばすという観点では、注力すべきはガソリン車・ハイブリッド車であるという可能性が十分に考えられます。

トヨタの視点はそこにあるのではないでしょうか。

今後、多くの自動車会社がEV一辺倒になった時に、EV化した会社にはガソリン車の技術が不要になり、切り捨てていくことになります。
テスラのように、EVに集中すれば利益率は上がっていくでしょう。
そうなると、ガソリン車が必要なところにおいては、トヨタが独占できるということになります。
さらに言うと、リチウムイオン電池が高騰するなど、EVの方に問題が生じた時にもトヨタの一人勝ちになります。

トヨタの全方位戦略には、需要を独占できる可能性にもベットしているという面もあるのです。

全方位戦略は決して効率の良いものではなく、利益率が急に上がるということもありませんが、トヨタの強みは、一つ一つの製造過程において効率化していく部分にあり、高い利益率は望めないものの一定の利益は出し続ける能力を持っていると捉えられます。
一見パッとしないようですが、経営の安定感という点では世界の自動車会社の中では群を抜いているように思えます。

トヨタへの投資は?

さて、トヨタへの投資を考えてみましょう。

営業利益3兆円という過去最高益を予想する中でPERが10倍程度と非常に低いです。
これはやはり、EV化していかない、テスラなどに負けてしまうのではないか、自動車の販売は増えていかないのではないかというような懸念があるからでしょう。
しかし、「安定」という観点では群を抜いています。
さらに今回の決算説明会では、「継続的な増配を行う」と言っています。
景気悪化などの一時的な理由で利益が落ちたとしても、配当は維持・増配していくということで、財務状況的にもその能力はあります。
つまり、安定的に利益を少しずつでも増やしていければ配当も増えていくということになります。
昨年の配当利回りは今の株価で約3%で、これがどんどん増えていく可能性があるということです。

急成長は望めませんが、安定感は抜群で、先々を見据えている、さすがは時価総額日本一の会社だなということが感じられる決算説明会でした。


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執筆者

執筆者:栫井 駿介

栫井 駿介(かこい しゅんすけ)

つばめ投資顧問 代表
株式投資アドバイザー、証券アナリスト
ビジネス・ブレークスルー(株)「株式・資産形成実践講座」講師

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