【トヨタ】ROE20%目標の重大性とは?初心者にもわかるようにやさしく解説

今回は、アシスタントのユウくんに来てもらって、トヨタがROEを20%にするという日経新聞の記事を初心者にも分かりやすく解説したいと思います。

ROEは特に長期投資をする上で非常に重要な指標なので、しっかりと理解して投資に役立ててください。

ROEとは?

栫井:トヨタがROE目標を20%にするというニュースが出ています。

出典:日本経済新聞

公式では決定した事実ではないと言っていますが、日経新聞が記事を出したということは何らかの議論が行われていることは確かなのではないかと思われます。これまでのROEは10%前後で推移してきたので、倍増ということでかなりセンセーショナルに受け止められています。

ユウくん、この記事を見て率直にどう思いましたか?

ユウ:まず僕は投資なんて全然やったことないですし、大学の学部も関係ないので、「ROE」が分からないです。

栫井:それはごもっともですね。投資関係の話ではよく出てくるアルファベット3文字ですが何のことか分からないですよね。まずはそこから説明しましょう。

「ROE」はReturn On Equityの略で、日本語にすると自己資本利益率となります。「自己資本」は何か分かりますか?

ユウ:持っている製造設備とかですか?

栫井:製造設備はバランスシートで言う左側の「資産」に含まれます。その資産のお金がどこから出ているかというのがバランスシート右側にあって、負債と自己資本からなります。

家を買う時の頭金みたいなものが自己資本です。自己資本が100億円だったとして、利益が10億円だったらROE(自己資本利益率)は10%となります。この数字がどういう意味を持つかはピンとくるかな?

ユウ:いや、まだ分からないですね。利益が大きくなればROEは大きくなるから、いっぱい稼いでるのかな、というくらいですね。

栫井:”いっぱい稼いでる”という感覚は正しいと思います。ビジネスなのでやっぱり稼ぐために設備とか工場を買うわけだよね?例えば自分が会社を作ったとして、借金もしつつ資本100億円を出して製造設備を買い、事業を行ったところ、ある年に10億円の利益が出たということになります。すごくシンプルに言うと、普通の投資の利回りと同じです。それを資本家的な観点で言うとROEということになります。

ユウ:出した分に対する戻る率がROEということですね。

栫井:その通りです。それを会社ベースで見たということです。会社というものの根本は、お金を投資してそこからさらにお金を生む装置であって、少ないお金でたくさん儲けられた方がお金を生む装置としては優秀ということで、ROEが大事ということになります。

どうやって上げる?

栫井:ROEの平均は8~10%くらいで、トヨタは10%くらいなのですが、これを20%にするということです。ROEを上げるにはどうしたら良いと思いますか?

ユウ:単純に分数なので、分子の利益を上げるか分母の資本を小さくするかどっちかですよね。

栫井:素晴らしい!その通りです。トヨタがどっちをやるかは分からないですが、おそらくどっちもやると思います。トヨタほどの大きさがあって利益を倍にするというのは現実的ではないからです。資本をある程度減らしていくんだろうと思います。資本を減らす時に何をやるか分かりますか?

ユウ:さっきの話でいくと、資産を買ったりするのが資本なので、”ものを買わなくなる”とかですか?

栫井:それは一つ正解ですね。バランスシート左側が膨らまないようにするということですね。他には?

ユウ:資産に「人」が含まれているとすれば”給料を下げる”とかですかね?

栫井:人件費は実は利益側に関わってくるんだよね。

ユウ:そうか、売上から払うものだからか。

栫井:利益を増やすために人件費を減らすということがあります。他に何かありますか?

ユウ:会社に雇われて働いている身としてはこのくらいしか思いつかないですね。

栫井:知らないと分からないと思うので説明すると、実はこの資本を直接減らすことができるんです。この「資本」ってそもそも誰のものでしょうか?

ユウ:会社のものじゃないんですか?会社を作った人のものというか…

栫井:会社を作る時にお金を出した人のことを一般的になんて言いましたっけ?

ユウ:株主ですか?

栫井:その通り!資本は株主のものなんです。株主のものである資本をそのまま株主に返すことができるんですね。「株主還元」って聞いたことありますか?

ユウ:言葉は聞いたことあります。意味は分からないですが…

栫井:これには2つあって、1つは「配当」です。

ユウ:配当は分かります!

栫井:この配当は資本を減らして出しているという話なんです。もう1つは「自社株買い」です。自分の会社の株を株主から買い戻すというものがあります。このいずれかによって資本を減らすことができます。トヨタはおそらくこのどちらかをすると思います。

では利益を増やす方も考えてみましょう。1つはさっき言ったコスト(人件費含む)を減らす方法です。他の方法はあるでしょうか?

ユウ:利益を増やすんだから、普通にいっぱい売るとかですかね?

栫井:そう、売上を増やすということが間違いなくあります。じゃあトヨタはどれができそうかという話になります。コストを減らすことはできそうかな?

ユウ:難しいんじゃないですか?

栫井:たくさんはできないよね。自動車はすごく競争になってて、電気自動車なんかも作らないといけないし、そもそもギリギリのコストで車を作っています。

ユウ:そうですね、もう結構コストは減らしているイメージがありますね。

栫井:そうだよね。ここはちょっと難しいね。売上を増やすのはどうかな?

ユウ:売上を増やすのも難しいんじゃないでしょうか?もう自動車っていっぱいありますもんね。

栫井:そうなんだよね。トヨタは世界で1000万台売ってるんだけど、自動車の台数が世界で増えてるかというとそんなことはなくて、中国だけは増えているけど中国の自動車は電気自動車になってて、トヨタは電気自動車市場に必ずしも入れてないので伸ばすのが難しくなっています。売上を増やすのも難しそうとなると、トヨタがROEを伸ばそうとすると資本の側で調整しなければならないということになります。

 

栫井:株主還元は、簡単ではないですがやろうと思えばできます。お金を株主に戻すということなので、手元に現金があればそれを渡せばいいわけです。

出典:マネックス証券

これはトヨタのバランスシートですが、現金預金が11兆円あります。もちろん日々やっていくためのお金や金融サービスのためのお金もありますが、単純にこの分の自己資本を減らすことはできます。しかも、配当が増えるということは、株主はどう思うかな?

ユウ:もらえるものが増えるから喜びますよね。

栫井:そうです。だからもしROEを20%にしようとするとおそらく株主還元は増えてくるだろうと思われます。となると株価はどうなるでしょうか。

ユウ:株価は上がりそうな感じがしますね。

栫井:そうです。本当にROE20%の目標を掲げるならおそらく株価は上がるでしょう。実際に今回のニュースを受けてトヨタの株価は上がりました。

低資本で高利益を目指す

栫井:もう1つ重要な観点として、さっき”ものを買わない”という話がありましたね。これもできる話だし、トヨタの経営において一番と言っていいほど今重要なポイントです。トヨタは自動車を作る会社なので、工場とかの”もの”が必要です。逆にそういった設備などの元手が要らないビジネスもあるよね?

ユウ:Webデザインとかですか?

栫井:そう、プログラミングとかのソフトウェア系の会社は元手が要らないからROEが高いんです。トヨタ自身も、車屋さんじゃなくて自動車のモビリティサービス会社になると言っています。自動車を作るだけではなく、”移動を提供する”ということです。トヨタは一時期エンジニアをたくさん雇ったことがあって、具体的にはまだ分からないけど、サブスクサービスみたいなものがどんどん出てくるんじゃないかと考えられます。既にやっている「KINTO」だったり、カーナビの開発もやっているという話もあるし、カーシェアなんかもやって、車関連のサービスをトータルでパッケージングしていくような会社になっていくのかなというところです。それができればROEは自ずと上がっていくでしょう。

出典:マネックス証券

トヨタの売上高利益率は8~10%といったところだけど、サービスは原価がかからないから基本的に利益率が高く、サービスが増えていくと売上高利益率が上がって結果的にROEも上がってくると考えられます。

トヨタのこの動きは、日本の会社にとって大きな革命になると思います。ROEを意識することで、より少ないお金でたくさん稼ぐということを考えるようになって、今持っているトヨタのブランドや知名度を活かしてさらに大きなサービスをできるようにもなると思います。ROEを上げることを考えると、ただの車屋さんというところから大きな発想の転換を起こすことができるわけです。

ROEと株価の関係

栫井:利益が増えれば株価も上がるということはなんとなく分かるよね?

ユウ:そうですね。

栫井:実際にそうなので、ROEが上がることはそれ自体良いことなんだけど、ROEの数字自体が何を意味するのかというところを説明します。

資本100億円の会社のROEが10%だとすると、利益は翌年の資本に上乗せされるので、1年後には資本が110億円になります。

ユウ:10億円が足されているわけですね。

栫井:次がいくらになるかというと、110億円のさらに10%だから、11億円が足されることになり、121億円になります。同じように3年目には12.1億円を足すことになるので133.1億円…というように増えていきます。これがいわゆる”複利効果”です。

ユウ倍率は変わらなくても元の額が上がるから増える額が上がるんですね。

栫井:これが株価にどうつながるかという話だけど、株価の評価方法はいろいろあるけど、一番シンプルなのはPBRかなと。簡単に言うと資本の数字で株価を評価しましょうというものです。資本が100億円あったらこの会社は100億円くらいの価値があるだろうという見方です。PBR1倍(資本=時価総額)が基本となって、これより低いと安すぎるということになります。この考え方だと、資本と株価が連動することになって、最初株価が100円だっだとすると1年目には110円、2年目には121円になるわけです。1年後には株価が10%上がるということで、この10%というのは…

ユウ:ROEですね!

栫井:端的に言うと、あなたが会社に投資したお金はROEの水準ずつ増えていくということになります。

ユウ:それは大事ですね!株がどれくらい増えるかというそのものを表してくれているわけですもんね。

栫井:現実には、特に短い期間ではこんなにROEと株価がマッチすることはないんだけど、これは時間が長くなればなるほどROEの水準と株価の水準は近づいてきます。だから、長期の投資ではROEが大事になります。

ROEは特定の年度の利益を使って算出するので、ある時利益がポンと高いと異常値みたいなものが出ることがあって、大事なことはROEがずっと高いまま維持されることです。そういう企業は高い利回りを安定して出し続けてくれるという安心感があります。


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執筆者

執筆者:栫井 駿介

栫井 駿介(かこい しゅんすけ)

つばめ投資顧問 代表
株式投資アドバイザー、証券アナリスト
ビジネス・ブレークスルー(株)「株式・資産形成実践講座」講師

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