絶好調の三菱重工。まだ伸びる?

今回は、株式市場で今注目されている三菱重工について、直近の決算内容や好調の背景、そして今後の見通しを詳しく解説したいと思います。投資をご検討の方だけでなく、同社のビジネスに興味がある方も、ぜひ最後までお読みください。

直近の決算ハイライト:全ての指標がプラス!

直近で発表された三菱重工の決算は非常に好調です。

出典:三菱重工 決算説明資料

  • 受注高: 2024年度(2025年3月期)は2023年度比で6%プラス。
  • 売上収益: 8%プラス。
  • 事業利益(営業利益): 非常に大きく増え、36%プラス。
  • 当期利益: 11%プラス。

この通り、主要な損益計算書の指標は全てプラスとなっており、業績の好調ぶりが伺えます。

 

三菱重工の好調な業績は、実は最近始まったものではなく、以前から続いています。

コロナ禍やMRJ(三菱リージョナルジェット)の開発中止といった出来事があった2022年3月期には、大きく赤字を計上していました。しかし、その後は一気に業績が回復。2023年から2024年度(2025年3月期)にかけて、業績は力強く伸びてきています。

なぜこんなに好調なのか?二つの牽引役

三菱重工の好調を支える主な要因は二つあります。

  1. ガスタービン事業(GTCC)の絶好調
  2. 防衛関連事業の拡大

それぞれ詳しく見ていきましょう。

牽引役その1:世界一の技術を誇るガスタービン事業

特に業績に貢献しているのが、ガスタービン事業(GTCC: ガスタービン・コンバインドサイクル)です。三菱重工のガスタービンは、世界一の技術を持っていると言われています。
このガスタービンの需要が非常に高まっていることが、好調の大きな理由です。その背景には、いくつかの要因があります。

【エネルギー転換の動き】
石炭火力発電から天然ガス火力発電への転換が進んでいます。天然ガスは石炭や石油よりも効率が良く、CO2排出量も少ないため、電力供給の選択肢として重要視されています。

【再生可能エネルギーの補完】
太陽光や風力などの再生可能エネルギーは供給が不安定です。ガスタービンは、こうした再生可能エネルギーの出力変動を吸収し、安定した電力供給を支える役割を担っています。

【電力需要自体の増加】
世界的に電力需要が増加しており、特に米国でのデータセンター建設ラッシュが需要を押し上げています。AIを動かすためのデータセンターは膨大な電力を消費するため、新たな発電能力が求められています。原子力発電所のように建設に時間がかかるものや、クリーンエネルギーのように安定供給が難しい中、ガスタービンによる火力発電が現実的な選択肢となっています。

【天然ガスの供給増加】
米国でのシェールガス革命により、天然ガスの供給が増えたことも追い風となっています。

 

こうした強い需要に支えられ、三菱重工は大型ガスタービンを25台受注し、受注高は過去最高を更新しました。また、本体受注に加えて長期アフターサービス契約を締結するケースが多く、これも将来の安定した収益確保につながっています。需要増加に対応するため、ガスタービン部品の増産体制も構築中です。

牽引役その2:政府予算拡大の恩恵を受ける防衛関連事業

もう一つの好調要因は防衛関連事業です。こちらは比較的シンプルで分かりやすい理由です。

【政府の防衛予算拡大】
日本政府がGDP比1%という防衛予算の上限を撤廃し、予算を約2倍に拡大したことが最大の要因です。

【日本の防衛装備品分野での最大シェア】
三菱重工は、ミサイルシステム関連をはじめとする防衛装備品分野で日本国内最大のシェアを持っています。IHIや川崎重工といった他の企業と比較しても、そのシェアは高いです。

 

防衛予算が2倍になったことで、三菱重工への受注も同じように、あるいはそれ以上に伸びたと見られます。その結果、ミサイルシステム関連の複数の大型案件を受注し、防衛関連の受注高は過去最高、前年度並みの水準となりました。これに伴い、飛行機非体、艦艇、特殊機械などを中心に売上も大幅に増加しています。

投資家が語る三菱重工の「意外な」過去と企業体質

最近の好調ぶりを見て、「三菱重工は素晴らしい会社だ」「ブランド力も高いし、ずっと買っておけばいい」といった声も聞かれるようになりました。しかし、昔から投資をしている投資家の中には、「いやいや、そんな単純な話ではない」と感じている人もいます。

なぜなら、実は三菱重工には”うだつの上がらない企業”だったという過去の事実があるからです。
過去には、前述のMRJの開発失敗で多額の赤字を計上しました。さらに、それよりも前に建造しようとした大型客船事業でも失敗し、散々な赤字を出した経験があります。

また、三菱重工の利益率は決して高いとは言えませんでした。売上高経常利益率が5%や6%程度だったり、ROE(自己資本利益率)も高い時で10%程度、平均すると7%以下、低い時には3%という水準でした。一般的にROEは8%以上が一つの目安とされる中で、なかなかその水準をクリアできない状況でした。

これらの実績から、正直言って”重くて鈍い”会社というイメージがあり、投資家からも敬遠される時期がありました。格式の高い企業であることは間違いありませんが、何か素晴らしい商品を開発したり、大きな市場を自ら開拓したりといったイメージは乏しく、むしろ官僚的で、昔ながらのビジネスや組織構成の会社である、という認識が持たれていました。

今の好調は「変わった」結果なのか?

最近の業績好調を見て、「時代に合わせて三菱重工も変わって良くなってきたのではないか」という見方もあります。株主からのプレッシャーなどもあり、経営陣も色々と考えて取り組んでいる部分はあるだろうとは言えます。

しかし、この好調は、三菱重工が自ら何かを根本的に変え、その結果として成功したという道筋では必ずしもありません。むしろ、皮肉にも、変わらなかった、あるいは変われなかったからこそ今の業績がある、という見方もできます。

ガスタービン好調の「偶然性」

ガスタービン事業の好調はいくつかの偶然が重なった結果であると言えます。

この事業は元々、日立との合弁会社「三菱日立パワーシステムズ(MHPS)」として運営されていました。両社が共同で事業を行っていましたが、技術競合や南アフリカでの火力発電事業の損失負担を巡る係争が発生しました。この係争をきっかけに合弁が解消され、結果として三菱重工がこの事業を100%傘下に収める形になったのです。

つまり、三菱重工がこの事業を完全に傘下に収めたのは、これからガスタービンが花盛りになると戦略的に判断したからではなく、こうした係争の経緯の中で結果としてそうなったという側面があります。

さらに、当時世界的にはグリーンエネルギーへの注目が集まり、シーメンスやGEといった海外の大手企業も火力発電事業から手を引き始めていた時期でした。そんな中、三菱重工は比較的この分野に残り続けていたと言えます。そこに、AI需要によるデータセンター向け電力需要増加という流れが来て、三菱重工に残っていたガスタービン事業と電力事情が「出合い頭の事故的」に合致し、業績が大きく跳ねた、という部分が正直あります。

もちろん技術力があったことは否定しませんが、自ら積極的に市場を開拓したというよりは、世の中がグリーンに向かう中で火力発電分野に残り続けたことによる「残存者利得」という側面もあります。

防衛事業好調の「外部環境依存」

防衛事業の好調も、国(政府)の予算次第という側面に大きく依存しています。三菱重工がこの分野から撤退しなかった(撤退できなかった)からこそ、今回の防衛予算拡大の恩恵を受けることができたと言えます。日本の防衛を国内企業で支えるためには、収益性に関わらずこの分野に残り続けなければならないという事情もあったのでしょう。

 

このように見ていくと、三菱重工の現在の好調の要因は、自社の努力や戦略的な方向転換というよりも、外部環境(電力需要の増加、防衛予算の拡大)に大きく左右されているという側面が浮かび上がってきます。

自社で新しい事業を生み出す難しさ

一方で、三菱重工が自社で新しい事業や製品を作ろうとする際には、苦戦するケースが多いです。前述のMRJや大型客船の失敗がその例です。

しかも、これらの事業からの撤退も、戦略的に「ここで撤退しよう」と決めたというよりは、ずるずると失敗を続けてうまく行かない状況に追い込まれてから、ようやく撤退せざるを得なくなった、という経緯がありました。これは、企業の動きの遅さを示しているとも言えます。

現役・元社員の生の声から見える企業文化

転職サイトのOpenWorkに掲載された社員や元社員のコメントからも、三菱重工の企業文化や課題が見えてきます。

良い点としては、原子力や防衛といった参入障壁の高い事業を手掛けていること、信頼性の高いエネルギー供給や幅広い分野での製品製造、グローバルリーダーとしての活躍、そしてガスタービンやボイラーなどの高い技術力が挙げられています。

一方で、課題としては以下のような点が指摘されています。

  • 事業の硬直化が進んでいる。
  • 会社が大型であるため、急激な方向転換が難しい。
  • 多数の事業分野を抱えることで、経営資源(特に人的リソースや財務)が分散し、本来成長できたはずの事業の機会ロスにつながっている。

特に、最近の在籍者からのコメントは非常に辛辣ですが、本質をついています。

  • 近年の国際情勢の高まりやエネルギー関連の盛り上がりから当面は好調。しかし、社会に対してCO2を回収してどうするのか、次世代原発を作ってどうするのか、なぜ商品を作るのかという根幹の部分が欠如している。
  • 事業展望は川の流れのようである。
  • MRJや豪華客船よろしく、自社が始める事業は基本的に失敗する。
  • 昔からある製品が世の中の風(外部環境)次第で儲かるモデル。
  • 歴史を紡ぐことがこの会社の使命であると思う。

 

これらのコメントは、三菱重工が自社で何かを変革して能動的に進むというよりは、外部環境の変化に流されるように業績が左右される、という企業体質をよく表していると言えます。

今後の見通しと投資家が懸念する点

では、今後の三菱重工の業績はどうでしょうか。

2025年度の業績見通しとしては、売上や利益はさらに伸びる計画となっています(売上利益7.4%増、事業利益9.6%増)。
ただし、株式市場が特に注目し、将来の業績を示す指標とされる「受注高」の見通しが、2025年度は16.6%のマイナスとなっています。これはあくまで会社側の予想ですが、エネルギー分野(ガスタービンなど)や航空宇宙防衛分野で受注が減少すると見込んでいるようです。

この受注高のマイナス見通しを受け、決算発表が行われた5月9日以降、三菱重工の株価は下落しています。これは、今期の業績見通しに対して、市場が不安や物足りなさを感じていることの表れでしょう。

今後のガスタービン需要が現在のペースで伸び続けるかは不透明な部分もあります。また、前述のように、三菱重工は自社の力でグイグイと業績を伸ばし続けるというよりは、外部環境(「川の流れ」)に左右されやすい企業であるという特性を理解しておく必要があります。電力需要や防衛予算といったマクロ環境を継続的に見極めることが、投資判断において重要になります。

まとめ:外部環境がカギを握る三菱重工

三菱重工は、世界一の技術力や参入障壁の高い事業領域といった強みを持っているものの、その業績は外部環境の変化によって大きく左右されるという特徴を持つ企業です。現在の好調は、ガスタービン需要(特にデータセンター向け電力)や防衛予算拡大といった外部環境の好転によるところが大きく、企業自らが能動的に変化を牽引しているというよりは、外部の「風」を受けている側面が強いと言えます。

そのため、三菱重工への投資を考える際は、企業そのものの内部的な変化や成長力に期待するというよりは、電力需要や国際情勢、各国の防衛予算といったマクロ環境の動向を読み解く視点が重要になります。例えば、「データセンター需要が増えれば電力が必要になり、ガスタービン需要が増えるかもしれない。そうなると三菱重工か?」といった、連想ゲームのような思考も投資の面白さにつながるかもしれません。

高い技術力は疑いようがありません。もし今後、三菱重工がこの技術力に加え、企業として自らを強く変革していく力を身につけていけば、さらに飛躍する可能性もあるでしょう。しかし、現状ではまだその変化は明確には見えにくい、というのが正直な見方です。

執筆者

執筆者:栫井 駿介

栫井 駿介(かこい しゅんすけ)

つばめ投資顧問 代表
株式投資アドバイザー、証券アナリスト
ビジネス・ブレークスルー(株)「株式・資産形成実践講座」講師

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