国の漢方薬政策も追い風!医療用漢方薬シェア85%を占めるツムラを長期投資の観点で分析

本日は、漢方薬で有名な企業「ツムラ」に焦点を当てて深掘りしていきます。

最近、株価が大きく変動しているツムラですが、一体何が起きているのでしょうか?そして、ツムラが手掛ける漢方事業は今後どのように成長していくのでしょうか?その秘密に迫ります。

突如の株価乱高下!ツムラの直近業績に何が?

ツムラの株価は、2024年3月頃に大きく跳ね上がった後、直近で急落するという特徴的な推移を見せています。この株価の動きは、ツムラの直近の業績と深く関連しています。

実は、この1年でツムラの業績は利益が倍近くにまで大きく上昇しました。しかし、今期の業績見通しは、増収ではあるものの減益予想となっており、これが市場に悲観的に受け止められている側面が大きいと考えられます。

では、なぜこのような急激な利益増加と、その後の減益予想という流れになったのでしょうか?

利益急増の背景:国による「薬価改定」の恩恵

この業績変動の最大の要因は、ツムラが処方する漢方薬の薬価改定にありました。薬価は国が定めており、ツムラの漢方薬に対して約2割の値上げが実施されたのです。当然、薬価が上がればツムラの利益は増加し、前述の直近業績の大幅な上昇につながりました。

しかし、この薬価改定による恩恵は一時的なものでした。1年が経過し、その効果が一巡したことに加え、今期はコスト増などにより減益予想となっています。つまり、国が薬の価格を決める「薬価」がツムラの業績に大きく影響しているということになります。

ドラッグストアではない?ツムラの知られざる事業構造

多くの方がツムラと聞くと、ドラッグストアで売られている漢方薬をイメージするかもしれません。しかし、ツムラが提供する漢方薬の売上の大半は、医師が処方する医療用漢方が占めています。市販薬は売上構成のわずかな部分に過ぎません。

国内の漢方市場を見ると、医療用漢方市場は約1,700億円と、一般用の約436億円と比べてはるかに大きいことが分かります。そして、この医療用漢方市場において、ツムラは驚くべきことに約85%もの圧倒的なシェアを占めているのです。一般の医療用医薬品であれば、特定の疾患に効く「ブロックバスター」と呼ばれる薬であれば見られる独占的なシェアですが、漢方という幅広い分野でこれほどのシェアを占めているのは非常に異例です。

ツムラの圧倒的シェアを支える「参入障壁の高さ」

なぜツムラは漢方市場でこれほどまでに独占的な地位を築いているのでしょうか?その背景には、漢方薬事業特有の高い参入障壁があります。

【原料の確保と品質管理の難しさ】
漢方の原料は、主に植物性由来の生薬です。これらの生薬の栽培から収穫、加工、輸送に至るまで、品質のばらつきをなくし、安定的に供給することが非常に難しいのです。ツムラの原価率が5割を超えるのも、この原材料費の高さに起因しています。

【エビデンス確立の困難さ】
漢方薬は、特定の症状だけでなく体全体の調子を整えるといった特性を持つため、「これを飲むとこういう効果がある」というエビデンス(科学的根拠)を立証する作業が非常に困難です。ツムラは古くからこの地道な作業を続け、現代医学の視点から漢方薬の効果を証明することに注力してきました。

苦難の歴史を乗り越え、現代医療に漢方を普及させたパイオニア

ツムラは、設立当初から生薬由来の漢方薬を扱い、西洋薬だけでなく東洋医学も処方薬として普及させるという強い信念のもと、長年にわたり活動を続けてきた歴史があります。

 

ツムラの歴史は平坦ではありませんでした。1990年代には、漢方薬に対するネガティブな情報(飲み合わせによる副作用など)が出回り、「自然由来で安全だと思っていた漢方が実は怪しいのではないか」という風潮が広まりました。これにより、漢方市場は一時的に売上が半分にまで縮小するという危機に直面しました。

さらに、1993年頃のバブル崩壊時には、当時の社長が海外事業や不動産事業など、本業以外の事業に手を広げていたことで関連会社が赤字に陥り、会社全体が非常に危険な状況にありました。

この危機を救ったのが、1995年に就任した新たな社長です。創業家ではない外部からの社長が就任し、コアコンピタンス(会社の最も強い強み)に全集中するという方針を打ち出しました。漢方薬の品質向上とエビデンス構築に徹底的に取り組み、漢方医学教育を全医学部・医学大学で実施されるようになるなど市場拡大に向けた活動を推進しました。

この粘り強い活動の結果、漢方薬の正しい知識が普及し、医師が処方し、患者が服用することでエビデンスが蓄積され、市場は再び拡大していきました。

漢方のメリットと国策による追い風

漢方薬は、現代の医療ニーズに合致し、国の政策からも追い風を受けている側面があります。

【「未病」へのアプローチ】
西洋薬が特定の病気に対して対処療法的なアプローチを得意とするのに対し、漢方薬は「体全体がだるい」「原因不明のめまい」といった「未病」(病気になる前の不調)や、体全体の調子を整えることを得意とします。

【副作用の少なさ・予防医療としての期待】
西洋薬の副作用を避けたい、あるいは悪くなる前に予防したいと考える患者が増えており、自然由来の漢方薬への支持が集まっています。

【メンタルヘルスへの貢献】
イライラや情緒不安定といったメンタル不調に対して効能が認められている漢方薬も存在します。精神系の薬に抵抗がある人にとって、依存性のない漢方は新たな選択肢となっています。

【妊婦・授乳婦にも安心】
妊婦や授乳中の女性は西洋薬の服用が難しい場合が多いですが、漢方薬であれば服用できるケースもあり、特に体が小さい女性からの需要が高いです。

 

また、国は増大する医療費を抑制したいと考えており、初期症状の段階で患者自身が対応する「セルフメディケーション」を推進しています。漢方薬がこの選択肢の一つとして認識されており、ツムラの薬価が大幅に改定されたことも、国が漢方薬を推進している証拠と見ることができます。漢方薬が国民の健康維持に貢献し、結果的に医療費の抑制につながるという期待があるのです。

パテントクリフとは無縁?ツムラの安定性

一般的に、製薬会社は新薬を開発し特許期間中は高い利益を得ますが、特許が切れるとジェネリック医薬品が登場し、売上が急減する「パテントクリフ」という問題に直面します。

しかし、ツムラの漢方薬は、一度効能が認められれば、安定的な業績を積み上げていけるという特徴があります。研究開発費は必要ですが、西洋薬のような大規模な開発パイプラインは不要であり、どちらかというと原材料の栽培に費用がかかります。これにより、ツムラはパテントクリフの問題とはほとんど無縁と言えるでしょう。

他の企業がツムラと同じような漢方薬を製造しようとしても、数百種類に及ぶ生薬の確保と品質の安定化、そしてエビデンス構築という地道な活動は、非常に高いハードルとなります。さらに、市場規模自体がそこまで巨大ではないため、85%のシェアを既に持つツムラの牙城を崩すのは極めて困難です。

次なる成長の目:漢方の本場「中国」への挑戦

ツムラの今後の大きな成長ドライバーとして注目されているのが、中国市場への展開です。中国は漢方の本場ですが、これまでは患者の症状を聞いてその場で生薬を調合する「個別対応型」の流通形態が主流でした。

しかし、人口増加と多様な患者ニーズに対応するため、中国政府も日本のように「この漢方薬はこういう効能がある」と明示された標準化された漢方薬の流通体制を求めています。さらに、日本と同様に成分のばらつきをなくし、厳格な規制(薬典改定)を定めていこうとしています。

この中国の動きに対し、ツムラは中国の大手保険会社である平安保険と提携し、合弁会社を設立しています。平安保険の資金力と政府とのパイプを活用し、ツムラの漢方薬を中国市場に広げるとともに、ツムラが生薬の調合・加工で培った技術を他社にも提供していくことを目指しています。

中国の漢方薬市場は巨大であり、ツムラは中国事業で年間30%以上の成長を目指していることから、大きなポテンシャルを秘めていると言えるでしょう。

中国も高齢化が進み、医療費抑制の局面を迎える中で、漢方薬の役割がさらに重要になると考えられます。

今後のツムラの業績見通しと投資妙味

ツムラの今期の業績は減益予想ですが、これは中国への先行投資費用が大きく影響しており、今後の成長を高めるための一時的な減益と見ることができます。その後の1〜2年で、売上高は5〜10%程度の成長を見込んでいます。

現在のツムラの株価は、PER11.2倍、配当利回り3.98%と、割安感があります。薬価改定の影響が一巡したとはいえ、大きくマイナスに振れることは考えにくく、現在の業績水準は比較的維持しやすいと見られます。ただし、生薬の原材料価格の高騰など、コスト増が収益を圧迫するリスクは存在します。

 

日本の高齢化がさらに進む中、医療は長期的に成長しやすい分野であり、その中で医療用漢方薬市場で85%もの圧倒的なシェアを持つツムラは、非常に高い独自性を持っています。政府の政策に影響されやすいという側面はあるものの、長期的な視点で見れば、安定性と成長性を兼ね備えた魅力的な投資先と言えるでしょう。特に、中国事業の成否が今後のツムラの成長を大きく左右する鍵となります。

執筆者

執筆者:元村 浩之

元村 浩之(もとむら ひろゆき)

つばめ投資顧問 アナリスト
県立宗像高校、長崎大学工学部卒業。 大手スポーツ小売企業入社後、店舗運営業務に従事する傍ら、ビジネスブレークスルー(BBT)大学・大学院にて企業分析スキルを習得。
2022年につばめ投資顧問に入社。 長期投資を通じて顧客の幸せに資するべく、経済動向、個別銘柄分析、運営サポート業務を行っている。

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