タカラトミーの株価は、実は2022年頃から非常に大きく上昇してきましたが、2025年に入ってからは下落している状況です。なぜタカラトミーの株価がこれほどまでに大きく上昇し、そして足元で下落しているのか、さらにタカラトミーがどのように市場で戦ってきたのか、その特徴的な戦略について解説します。
目次
2024~2025年のタカラトミー株価推移
まず、タカラトミーの株価の推移を見ていきましょう。
2020年頃からじっくりと上昇を続け、2023年から2024年にかけて急激に火がついたような動きを見せました。ピーク時には2022年末の約5倍、1,000円台から5,000円台をタッチするまでに上昇しています。
株価上昇の原動力:「キダルト戦略」と業績拡大
なぜタカラトミーの株価はこれほどまでに上昇したのでしょうか。タカラトミーの業績変動、特にコロナ禍以降の株価上昇期を見ると、営業利益も売上も大きく伸びていることが分かります。2023年3月期から2025年3月期にかけての利益の伸びは顕著で、利益が倍近くになっています。
この時期の中期計画の大きなキーワードは、「キダルト(キッズ+アダルト)層」の獲得でした。キダルトとは、子供のような心を持った大人のことで、この層をターゲットに商品を開発・販売していこうという方針が掲げられました。大人は子供と比べて購買力が高いため、この層が本格的に商品を購入し始めたことが、大きな利益成長につながったと考えられます。

具体的な事例として挙げられるのが、「ベイブレードX」です。これは、昔からあるベーゴマの進化版のような玩具で、カスタマイズ性が高く、子供だけでなく大人も楽しめるように開発されました。ベイブレードXは2025年3月期に発売され、第1四半期、第2四半期は非常に好調でした。
下落の要因:期待値とのギャップと外部環境
しかし、その後5,000円から3,000円台まで下落しています。この下落は、特に2025年3月期の第3四半期決算が発表されたタイミングで顕著になりました。決算発表後、株価は下がり続け、5月に出た通期決算でも状況はあまり変わっていません。
株価下落の主な要因は、この「ベイブレードX」の伸び悩みにあります。タカラトミーにとって、2025年3月期第3四半期(10月から12月)は年末商戦という重要な時期でしたが、この時期に期待されたほどの伸びが見られず、失望感から株価が下落してしまいました。

さらに、2026年3月期の業績予想では営業利益がマイナスになる見込みです。これには複数の理由があります。一つは、タカラトミーがアメリカ市場でも事業を展開している中で、中国で製造した商品をアメリカに輸送する際に関税の影響を受けることです。また、期待されていたベイブレードやトレーディングカードゲーム(特にディズニーのトレーディングカードゲーム)の販売が伸び悩む見込みであることも織り込まれています。
タカラトミーの歴史と主要商品:定番品とボーイズアクション
タカラトミーは非常に歴史のある会社です。始まりは1924年の「トミー」と、1961年にプラレールやリカちゃんを発売した「里藤ビニール工業」(後のタカラ)の合併によって、現在のタカラトミーが誕生しました。
プラレールやリカちゃん、トミカなどは、今でも販売が続く昔ながらの日本の定番玩具です。トミーは1970年代から80年代にかけて積極的に海外展開を進めましたが、プラザ合意による急激な円高でダメージを受けた過去もあります。
現在のタカラトミーの売上構成を見ると、「ボーイズアクショントイ」が圧倒的に売上を伸ばしています。

これにはベイブレードやトレーディングカードゲーム、そしてトミカなども含まれます。一方で、リカちゃんなどのガールズファッションや、プラレールを含むプリスクール向け玩具は、ボーイズアクションほどの伸びは見せていません。
大人が牽引する「キダルト市場」の拡大
タカラトミーの成長を支えた「キダルト」というキーワードは、実はタカラトミーだけの話ではなく、日本全体の玩具市場で顕著なトレンドとなっています。2023年度には、日本の玩具市場規模が初めて1兆円を超えました。
この市場拡大は驚くべきことです。なぜなら、15歳未満の人口は少子高齢化の中で減少し続けているからです。この人口減少と逆行するように市場規模が拡大しているのは、明らかに大人が玩具を購入するようになったためと考えられます。

この現象の背景には、コロナ禍でアニメを見る時間が増えたり、トレーディングカードゲーム、たまごっちのリメイク、ガンプラなどが好調だったことが挙げられます。また、自分と向き合う時間が増え、子供の頃好きだった趣味に再び没頭する大人が増えた影響もあるかもしれません。結婚や子育てにお金を使わない分、ホビーに資金が流れているという見方もできます。
ベイブレードの大会では、6歳から12歳の子供だけでなく、大人も参加可能な大会が開かれ、アジア各国で人気を博しています。人気YouTuberのはじめしゃちょーもベイブレードの大会に出場するなど、子供だけでなく大人にも影響力が広がっていることが分かります。
競合との比較:バンダイナムコとタカラトミーの戦略の違い
おもちゃ業界におけるタカラトミーの主要な競合として、バンダイナムコが挙げられます。両社を比較すると、その違いが明確になります。
【バンダイナムコ】
おもちゃだけでなく、ゲームや映画など幅広いコンテンツを手掛ける総合エンターテイメント企業。ガンダムやアイドルマスターが主要なIPであり、ドラゴンボール、ワンピース、ウルトラマンなど他社IPの玩具も多く製造しています。売上高は1兆2,400億円で、タカラトミーの約4~5倍の規模を誇る「王者」と言える存在。
【タカラトミー】
玩具が事業の中心です。トミカ、リカちゃん、ベイブレードといった自社独自の商品が強い。ポケモン、ディズニー、サンリオ、スターウォーズなどの他社IPの商品も手掛ける。売上高は2,500億円。
規模の面では、タカラトミーはバンダイナムコには及びません。他社IPの視点から見ても、規模が大きく、コンテンツの幅も広いバンダイナムコと組む方が、IPホルダー側にとってはメリットが多いように見えます。
タカラトミーの「弱者の戦い方」:ランチェスター戦略
このような中で、タカラトミーはどのように戦ってきたのでしょうか。それは、まさに「ランチェスター戦略」と呼ばれる「弱者の戦略」を採っていると分析できます。
タカラトミーは、「オリジナル玩具をコアファンに届ける」という方向性をとっています。トミカ、ベイブレード、プラレールといった自社IPに焦点を絞り、これらの分野に関してはバンダイナムコに負けないという戦略です。
具体的な戦い方としては、自社のオリジナル玩具と他社IPを巧みに組み合わせることで、コアファンに響く商品を展開しています。例えば、エヴァンゲリオンとコラボしたトミカや、ルパン三世のベンツのトミカなどがあります。これらは「トミカというジャンルだからこそ作れる」商品であり、バンダイナムコには真似できない領域と言えるでしょう。

トミカやプラレールは、その商品自体に特定の強い世界観がないため、良い意味で汎用性が高く、様々なコラボレーションがしやすいという特性があります。これにより、「このIPとのコラボならトミカしかない」というニッチな市場で、深いファン層を獲得しているのです。
ランチェスター戦略とは、強大な相手に対して全方位で戦うのではなく、特定のごく狭い領域に集中し、そこで圧倒的な優位性を築いて勝つという戦略です。織田信長が今川軍に勝利した桶狭間の戦いも、これに例えられます。タカラトミーはこの戦略により、規模では劣るものの、特定の分野で強固な地位と利益率を確保していると考えられます。
今後の展望と投資戦略
今後のタカラトミーですが、直近ではベイブレードや新しいトレーディングカードゲーム(ディズニーのTCG)への期待が高まっていましたが、足元では期待を下回る結果となりました。トレーディングカードゲームは、初期のヒットがその後の成功を左右する傾向があるため、再起は難しい状況かもしれません。
エンターテイメント業界は「当たり外れ」の予測が難しく、事前にヒットを予想するのは困難な部分があります。しかし、タカラトミーはトミカやプラレールといった非常に強い基盤となる商品を持っています。もし今後、再びヒット作が生まれれば、大きく業績を伸ばす可能性は十分にあります。
タカラトミーへの投資戦略を考えるなら、2つのアプローチが考えられます。
割安株投資
ヒットが生まれず株価が下がり、PERが割安になったタイミングで投資するアプローチです。プラレールなどの安定した売上とそれに伴う配当が期待できることに加え、もしベイブレードのようなヒット商品が再び生まれれば、株価が大きく上昇する「カタリスト」となるでしょう。現在のタカラトミーのPERは約20倍で、エンタメ系の企業としては比較的低い水準にあります。
コアファン視点での投資
ホビーや玩具に詳しい方が、「これは今、密かにヒットしつつある」と敏感に気づいたタイミングで投資するアプローチです。アナリストが数字を分析するだけでは見えない、現場での熱量や流行の兆しを捉えることができるかもしれません。
タカラトミーは、キダルト戦略とランチェスター戦略を巧みに組み合わせることで、独自の強みを発揮してきました。足元では一時的な伸び悩みが見られますが、そのユニークな戦い方と強固なブランド力は依然として健在です。今後の動向に引き続き注目していきましょう。
執筆者

佐々木 悠(ささき はるか)
つばめ投資顧問 アナリスト 1級ファイナンシャル・プランニング技能士
東北学院高校、東京理科大学経営学部卒業。
協同組織金融機関へ入社後、1級ファイナンシャル・プランニング技能士を取得。
銀行勤務時は投資信託を用いた資産形成提案や多重債務者への債務整理業務に従事。
2022年につばめ投資顧問へ入社。
プレゼント①『株式市場の敗者になる前に読む本』
プレゼント②『企業分析による長期投資マスター講座』第一章
プレゼント③『YouTubeプレゼン資料』
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