現在、SBI新生銀行のIPO(新規株式公開)が注目を集めています。今日からブックビルディング期間が始まっており、投資を検討されている方も少なくないでしょう。
特に注目されるのは、先行事例である楽天銀行です。楽天銀行は上場後、株価がなんと5倍に上昇しており、今回のSBI新生銀行も同じような成長を遂げるのではないかと期待が寄せられています。
今回は、この上場案件を受けるべきかどうかについて、SBI新生銀行の歴史、ビジネスモデルの変革、業績の詳細、そしてリスク要因を徹底的に分析し、投資判断のポイントを解説します。
目次
SBI新生銀行 IPOの基本情報とスケジュール
SBI新生銀行の公開予定日は12月17日です。現在はブックビルディング期間に入っており、この期間に投資家からの需要を申告する必要があります。
ブックビルディング期間に集まった需要に応じて公開価格が最終的に決定されますが、通常は仮条件の最も高い価格に決まるのが一般的です。
- 仮条件:1,440~1,450円
- ブックビルディング期間:12月2日~12月5日
- 申込期間:12月9日~12月12日
- 上場日:12月17日
今回のIPOは時価総額で約1.3兆円となる見込みであり、これは今年最大規模のIPOとなる見通しです。
SBI新生銀行の歴史:長銀からSBIグループへ
SBI新生銀行の起源を遡ると、元々は日本長期信用銀行(長銀)というエリート銀行でした。しかし、バブル崩壊によって財務状況が深刻化し、実質的に経営破綻しました。
その後、公的資金が投入され、外資の関与や経営の不安定化が続く中で、公的資金の返済が滞っていました。
この状況に救済の手を差し伸べたのがSBIグループです。SBIグループは、メガバンクに対抗し得る巨大な金融グループを構築する戦略の下、新生銀行を傘下に収めました。SBI傘下に入った後は経営改善が迅速に進み、業績が大きく改善し、滞っていた公的資金も返済されました。
一度は非上場化されましたが、わずか4年間で再上場を果たすに至りました。上場後もSBIホールディングスは74%の株式を保有し、引き続きグループの力を借りて成長を続ける見込みです。
成長の鍵:SBI証券との連携による預金獲得戦略
銀行のビジネスモデルにおいて、いかに預金を効率よく集めるか(調達コストを下げるか)が重要です。
従来の新生銀行は、高い預金金利で資金を集めていたため、調達コストが高く、高リスク・高リターンの運用をせざるを得ないというジレンマを抱えていました。
しかし、SBIグループの傘下となった後は、この構造が劇的に変化しました。
最大のメリットは、SBI証券との口座連携による預金獲得です。SBI新生銀行は、銀行口座と証券口座を密接に連携させ、SBIで運用する投資家が面倒な資金の移し替え作業をしなくても済むようにしました。これに加えて金利優遇も行った結果、預金残高が飛躍的に伸びました。
高い金利で集めなくても資金が集まるようになったことで、調達コストが改善し、ビジネスモデルがうまく回るようになりました。
運用面の独自性:特殊な融資戦略
預金が伸びたことで、貸出・運用資産(営業性資産)も増加しました。この営業性資産は、SBIの傘下となってからは年平均20%ずつという驚異的な伸びを見せています。
SBI新生銀行の融資の特徴は、地方銀行のような一般的な法人融資だけでなく、ストラクチャードファイナンスや不動産コースローンなど、専門性が高い分野を得意としている点です。例えば、大規模な太陽光発電やデータセンタープロジェクトなど、特定の案件のために作られた特別会社への融資に強みを持っています。
また、運用では外国債券への投資比率が高めで、比較的「攻めている」運用姿勢が見られますが、分散投資によってリスク管理に努めていると推測されます。
結果として、SBI傘下化から4年で利益は4.1倍に増加しています。
業績分析:急成長の背景と潜在的なリスク
業績が飛躍的に伸びている一方で、その利益の内訳には注意が必要です。特に2024年、2025年予想で純利益が急激にジャンプアップしています。
利益のジャンプアップは一時的要因も含む
この急激な増益の大きな要因の一つは海外事業の好調です。
これは、SBIグループと連携した大口保障案件の実行による手数料収入の計上や、UDCファイナンスリミテッドの決算期変更といった要素によってもたらされています。これらは一過性の要因である可能性が高いと考えられます。
さらに、2025年の予想利益(1,000億円)についても、ベンチャー投資の回収や負ののれんの計上など、一時的な非資金利益が寄与しているとされています。
与信関連費用と消費者金融への依存
- 与信関連費用(貸倒引当金)の増加傾向:法人業務の利益は伸びていますが、貸し出しが焦げ付くリスクを示す与信関連費用を加算した業務純益は減少しています。これは、よりリスクの高い取引が増えている懸念を示唆します。与信関連費用は、銀行の決算において「認識」のタイミングによって増減が操作できる側面があるため、将来的にリスクが顕在化する可能性は念頭に置くべきです。
- 調達コストの高さ:預金残高は増えましたが、例えば年利1%といった高い金利で集めた資金も多く、調達コストが高いため、業務粗利益の増加は預金残高の伸びに比べて鈍い状況です。
- 消費者金融への依存:SBI新生銀行は、消費者金融事業であるレイクを傘下に持っています。2024年度の実績では、セグメント利益の約3分の1近くがこの消費者金融事業によって支えられています。これは安定的な収益源ですが、金利の上限が決まっているため、一般の銀行ほど金利上昇の恩恵を受けにくいという側面があります。
楽天銀行の成功モデルとSBI新生銀行への期待
IPOで大成功を収めた楽天銀行は、公開価格1,400円から現在7,400円へと5倍も株価が伸びました。
楽天銀行の成功要因は、上場当初の割安感に加え、楽天証券との強固な連携による業績の継続的な成長、そして金利上昇の追い風でした。さらに、上場後の上方修正が、流動性の低い市場で株価を急騰させる「好循環」を生み出しました。
SBI新生銀行もSBI証券との連携や金利上昇の恩恵を受ける点で共通しており、同様の期待が寄せられています。
投資判断:上昇余地とリスクの比較
成長性と金利上昇の恩恵
SBI新生銀行が今後も成長を続け、金利上昇の恩恵を受けると、業績はさらに伸びる可能性があります。AIによるシミュレーションでは、金利が1%上昇した場合、利益は約240億円増加し、これは現在の利益水準の約1.5倍に相当します。
もしこの利益増が実現すれば、株価も1.5倍程度の上昇余地があると考えられます。
また、SBIホールディングスの北尾社長が、意図的に公開価格を控えめに設定し、株価が上昇したタイミングで第2弾の株式売却を考えている可能性も指摘されています。ブックビルディングの価格が想定価格から大きく乖離しない場合、投資機会として魅力的かもしれません。
留意すべき点
- 割高感:PBRで見ると、SBI新生銀行はメガバンクと比較して割高な水準にあります。ただし、今後の成長が確実であれば割高感は解消されます。
- 利回り:高配当は期待できないため、配当ではなく成長に期待する銘柄です。
- 市場変動リスク:ストラクチャードファイナンスなどの特殊な運用内容の不透明性から、市場環境が急変した場合に突発的な大きな損失を出すリスクが、一般的な銀行よりも若干高い印象があります。
結論
SBI新生銀行は、SBIグループとの強力なシナジーと金利上昇という追い風を受けており、成長への期待は非常に高いです。一方、一時的な増益要因や特殊な運用による市場変動リスクも内包しています。
投資家は、これらのリスクとリターンを総合的に評価し、初値で売却するのか、あるいは成長を期待して長期保有するのかを検討するのが良いでしょう。
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