今回は、直近最も注目されているテーマの一つであるペロブスカイト太陽電池について、その高い期待の背景、技術的な特長、克服すべき課題、そして関連銘柄を現実的な観点から詳しく解説します。
ペロブスカイト太陽電池については、高市氏が総裁選の時に強く推進していたこと、また直近で発表された内閣府の成長戦略のエネルギー項目でも推進が盛り込まれていることから、つばめ投資顧問にも問い合わせが多く寄せられています。
このテーマを深く掘り下げ、今後の日本経済を支えうるビジネスに発展するのか、関連銘柄が飛躍できるのかどうかを見ていきましょう。
目次
ペロブスカイト太陽電池への期待が高まる背景
ペロブスカイト太陽電池は、日本が発明した技術として、政策面からも強く後押しされています。
政策による強力な推進
高市氏は、シリコンの太陽パネルを美しい山を切り開いて並べるのではなく、「日本が発明したペロブスカイト太陽電池をまず活用すべき」「技術で勝ってビジネスで負ける、そんなもったいないことを繰り返さない」と発言し、その重要性を強調しています。
さらに、先日発表された内閣府の成長戦略では、「資源エネルギー安全保障GX」の項目において、ペロブスカイト太陽電池の研究開発や国内外への本格的な展開を促進することが明記されており、政策ベースでの強い推進が期待されます。
市場の急拡大予測
富士経済によると、ペロブスカイト太陽電池の世界市場は、2030年、2035年、2040年となるにつれて、急拡大していくと予測されています。
設置自由度と発電量のポテンシャル
この新しい太陽電池は、設置可能な場所が格段に広がるという大きな特長を持っています。将来的には、既存の太陽電池の2023年時点の発電量の約25倍を発電できる可能性があると試算しているコンサル会社もあります。
日本政府も、太陽光発電によるエネルギー構成比を、足元の約10%から2030年には14~16%、2040年には23~29%程度まで高める目標を公表しており、ペロブスカイト太陽電池の活用が視野に入っていると考えられます。
ペロブスカイト太陽電池の革新的な特長
ペロブスカイト太陽電池の最大の魅力は、その物理的特性と製造方法にあります。
薄くて軽くて曲げられるフレキシブル性
ペロブスカイト太陽電池は、薄くて軽いのが特徴で、物によっては曲げることも可能です。山を切り開いて設置されるシリコン製の既存の太陽電池と比較すると、この特性により設置場所の自由度が飛躍的に高まります。
具体的には、ビルの壁面、ガラス窓(素材を混ぜ込んで窓自体を太陽電池化)、さらには電柱のような曲面にも貼り付けることが可能になります。
日本の技術が活きる製造工程
ペロブスカイト太陽電池は、非常に小さな結晶(ペロブスカイト)薄く塗り広げて発電できる膜にする構造です。この膜の厚さは髪の毛よりもずっと薄く、1μm(マイクロメートル)以下であり、プラスチックシートで挟んでフィルムのような太陽電池にできます。
この「塗る技術」は、日本が得意とする印刷技術に基づくものであり、元々日本が研究開発して生み出した技術であるため、今後の日本産業を支えるものとして期待されています。
原料調達の強固なサプライチェーン
既存のシリコン系太陽光パネルは、原材料(シリコン)の多くを中国に依存しています。一方、ペロブスカイト太陽電池は主にヨウ素から作られ、そのヨウ素の生産国シェアは、チリが65%ですが、日本が世界第2位の26%を占めています。
このため、ペロブスカイト太陽電池は、原材料の確保という側面から、強固なサプライチェーンを構築できるという期待もされています。
ペロブスカイト太陽電池が抱える五つの主要課題
高い期待が寄せられるペロブスカイト太陽電池ですが、実用化と普及に向けてはいくつかの大きな課題が山積しています。
耐久性と発電コスト
最も大きな課題の一つは、既存のシリコン系太陽電池と比較して、発電コストが高いことと耐久性が低いことです。
- 発電コスト:2030年時点の予測では、既存のシリコンパネルの発電コストが約6円/kWhであるのに対し、ペロブスカイト太陽電池は約14円/kWhと、2倍以上になると見込まれています。しかもこの14円という数字は、政府の補助金を前提として、政策の力を借りてどうにか達成できる水準です。政策の後押しがなければ、競争力のあるコストにはなりません。
- 耐久性:ペロブスカイト太陽電池は薄い分、耐久性が既存のものよりかなり落ちます。最新のものでようやく10年から15年程度の耐用年数ですが、ほんの数年前までは5年から10年程度でした。既存のシリコン製太陽電池の耐用年数が20年から30年であることを考えると、設置する側にとっては、頻繁な取り替え作業のコストが大きな問題となります。なお、コストを14円/kWhまで持っていくための前提条件として、20年以上の耐久性確保が必要とされています。
生産技術の壁
ペロブスカイト太陽電池を大規模かつ大面積で製造しようとする際、結晶を均一に薄く塗り付ける塗布技術が非常に難しく、現状では大面積のパネルをなかなか作りきれていない側面があります。実用化に向けては、研究開発コストや政府の補助金が必要となり、乗り越えるべき壁が多く残されています。
環境面のリスク(鉛の使用)
製造過程で鉛を使用しない素材での量産化が課題となっています。
制度・規制の整備
ペロブスカイト太陽電池を設置するための法規制や制度を今後整備していく必要があります。
中国リスク(競争の脅威)
最も注視すべき課題が、中国との国際競争です。
既存の太陽光パネル市場では、かつて日本が世界シェアの40%以上を誇り、ピーク時には50%に迫る勢いでしたが、2000年代後半以降、中国が技術を取得し量産化に成功した結果、現在では中国が80%を超えるシェアを占め、日本はほぼゼロに等しい状況に追いやられました。
ペロブスカイト太陽電池についても、同じ轍を踏まないよう注意が必要ですが、実際には中国も活発に開発を進めています。
- 特許申請数:中国のペロブスカイト関連の特許申請数は非常に多く、年間で日本の20倍以上に達しています。
- 国策としての推進:中国政府は国策としてこの分野を強化しており、決定から補助金支給、民間企業のサポート、そして現場での研究開発のスピードが日本とは比較にならないほど速い状況です。
- 技術レベル:中国のペロブスカイト太陽電池の発電効率は、もはや日本と遜色がないレベルにまでなってきています。
- 量産化の脅威:中国は、電池関係やバッテリーなどの量産化と低コスト製造を得意としています。多くの中国企業が開発に取り組んでいる現状(プレイヤーの多さ)から見て、ペロブスカイト太陽電池の汎用モデルについては、今後中国が覇権を握る予兆があります。
ペロブスカイト太陽電池関連銘柄3選
ペロブスカイト太陽電池は、単一の企業で全てを製造するわけではなく、フィルムや基盤、原料などを組み合わせるため、原料や材料を提供する企業に有望な企業が存在する可能性があります。
以下に、現時点で注目されている関連銘柄を3社紹介しますが、現時点では、これらの企業がペロブスカイト関連で大きな収益を上げている状況にはないことに留意が必要です。
日本板硝子(5202):薄膜用ガラスのメーカー
- 事業内容:薄膜太陽電池パネル用ガラス(TCOガラス)を製造しています。TCOガラスとは、ガラスの上に電気を通す透明な膜を形成したもので、ペロブスカイトの材料を水や外から守る高級バリアフィルムのような役割を果たします。
- 業績への影響:TCOガラスが含まれる事業の売上高は伸びていますが、事業全体の営業利益は下がっており、現時点ではTCOガラスが業績を牽引する状況にはなっていません。収益貢献度はまだ高くないと言えます。
積水化学(4204):ハイエンドなフィルム型を開発
- 事業内容:ペロブスカイト太陽電池の種類のなかでも、最も薄く、軽く、曲げられるフィルム型の開発を手掛けています。フィルム型は、設置の自由度が最も高く、耐久性とコストが改善されれば、非常に期待されるハイエンドな種類です。
- 業績への影響:現在、100MW分の生産ラインを新設中で、2027年稼働予定です。2028年にフル稼働した際に黒字転換できるよう事業を推進する計画ですが、現時点では収益化には至っていません。
伊勢化学工業(4107):ヨウ素を製造
事業内容:ペロブスカイトの原料であるヨウ素を製造しており、世界シェア約15%を持つ大手です。
業績への影響:ヨウ素関連の事業の売上・営業利益は右肩上がりで伸びていますが、その要因は、ペロブスカイトの恩恵ではなく、販売数量が伸びていないにもかかわらず、ヨウ素の国際市況の高騰と円安によるものです。
成長戦略:同社は中長期的成長を医療用途(レントゲン造影剤、医薬品など)が担っており、ペロブスカイト太陽電池への依存度は低いと考えられます。
まとめ:投資の検討における注意点
ペロブスカイト太陽電池は、日本の技術優位性と政策推進の背景から大きな期待が集まっていますが、技術的な課題(コスト、耐久性)や、中国との熾烈な国際競争といった現実的な壁を認識する必要があります。
現時点では、調査した関連銘柄のほとんどが、ペロブスカイト関連で目立った収益貢献を得ている状況にはありません。今後、政府の補助金や設備投資によって収益が伸びてくる可能性はありますが、まだ見通しが立てづらい段階です。
過去のシリコン系太陽光パネルの例を振り返ると、市場の盛り上がり(一人歩き)に対して、投資家は冷静に俯瞰して見る姿勢が重要です。関連銘柄に投資する際は、全社収益に占めるペロブスカイト関連の貢献度がどれくらいあるのかを注意深く分析する必要があります。
執筆者
元村 浩之(もとむら ひろゆき)
つばめ投資顧問 アナリスト
県立宗像高校、長崎大学工学部卒業。
大手スポーツ小売企業入社後、店舗運営業務に従事する傍ら、ビジネスブレークスルー(BBT)大学・大学院にて企業分析スキルを習得。
2022年につばめ投資顧問に入社。
長期投資を通じて顧客の幸せに資するべく、経済動向、個別銘柄分析、運営サポート業務を行っている。
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