今回は、ホテル「ドーミーイン」の運営で知られ、株主優待の充実度から個人投資家にも人気が高い共立メンテナンスを取り上げます。
コロナ禍を経て人流が回復し、最近ではインバウンドの恩恵を受けて業績は堅調に推移していますが、株価は2023年7月のピーク以降、振るわない状況が続いています。株価が下落している今、買時ではないかと検討されている方も多いでしょう。
共立メンテナンスの事業構造から株価低迷の原因、そして中期経営計画に見る将来の成長性と潜在的なリスクについて詳細に解説します。
目次
事業概要:V字回復を遂げた主力事業
共立メンテナンスの主力事業は、主に以下の2つです,。
主力事業①:ホテル事業
ホテル事業にはビジネスホテル(ドーミーインなど)とリゾートホテルが含まれますが、足元では売上・利益の大半をビジネスホテル事業が占めています。
コロナ禍では大きなダメージを受けましたが、その後見事なV字回復を果たし、現在ではコロナ以前よりも収益性が高まっている状況です。
主力事業②:寮事業
学生寮や社員寮の運営管理を行う事業です。寮には寮長・寮母が常駐し、食事提供などを行っています。
寮事業もコロナ禍でダメージを受けましたが、ホテル事業と比較すると下落率は抑えられました。しかし、直近の状況を見ても、営業利益高はコロナ以前の水準までは回復しきっていません。
なお、同社の売上と営業利益の推移は、コロナ禍を除けば右肩上がりで着実に業績を伸ばしており、直近2〜3年間は成長スピードが加速しているように見えます。
ドーミーインの驚異的な収益力:高単価と高稼働率
ホテル事業の収益性が高まっている背景には、ドーミーインの評判の良さと運営力の高さがあります。
業界平均を大きく上回る客室単価と稼働率
- 客室単価の上昇:コロナ前の2019年第1四半期に約11,000円だった客室単価が、コロナ禍を経て足元では16,000円を超える状況となっています。単価を上げることに成功しています。
- 高い稼働率:客室の稼働率も非常に高く、直近では90%を超える状況です。この稼働率の高さは特筆すべき点です。業界平均(ビジネスホテル)の客室稼働率が75%前後であるのに対し、共立メンテナンスのドーミーインは業界平均よりも約15%ほど高い稼働率を誇っています,。これはユーザーからの人気の高さを反映していると言えるでしょう。
株価下落の複合的な要因分析
好調な業績とは裏腹に、株価は2025年7月にピークをつけて以降、下落が続いています。
要因①:第1四半期決算の進捗遅れ
同社は、通期で売上高+20%、営業利益+22%など、強気の業績予想を出していました(決算期は3月)。
しかし、8月上旬に発表された第1四半期決算では、営業利益と経常利益は前年比でプラス20%程度と良好だったものの、通期予想に対する進捗率が20%にも満たない状況でした。この進捗の遅れがネガティブに受け取られ、株価下落の要因の一つとなりました。
要因②:地政学的な外部要因によるキャンセルの発生
続く第2四半期決算(11月7日発表)では、累計進捗率が50%弱まで回復し、強気予想の達成への期待から株価は一時的に上昇しました。
ところが、その後の11月14日頃、高市氏の中国に対する強硬姿勢に関連した報道を受け、中国側で日本へのツアーキャンセルが相次ぐ事態が発生。これが株価をさらに急落させる決定的な要因となりました。
インバウンド影響の過剰反応の可能性
中国からの観光客キャンセルの影響について、冷静な分析が必要です。
- ホテル事業におけるインバウンド比率は18.8%。
- 訪日外国人のうち、中国人(人数・消費額ベース)は約25%弱。
これらの数字に基づき試算すると、中国人観光客の減少がホテル事業全体に与える影響は、全体収益の約5%程度にとどまると予測されます。このことから、11月以降の株価の急落は、業績への影響に対してやや過剰に反応しすぎているという見方もできます。
中期経営計画に見る成長戦略の転換
現在、株価はPER13.4倍程度まで下がり、割安感が出てきている状況ですが、今後の成長性については中期経営計画から読み解く必要があります。
リゾート事業を新たな成長軸に
同社は2028年3月期に売上高2,800億円、営業利益280億円を目指しています。
意外なことに、この中期経営計画で最も売上高の伸びが計画されているのはリゾート事業です。
一方、高収益を誇る現在の主力事業であるドーミーイン事業は、大きな成長の伸びは期待されていません。また、寮事業についても、大幅な拡大を見込む計画にはなっていません。
ドーミーイン事業の出店戦略と制約
なぜ、業界平均より高単価・高稼働率を達成しているドーミーイン事業の拡大を抑制しているのかが、大きな疑問点となります。
ドーミーイン事業の今後の開発計画は、「全国47都道府県未出店エリアに新規開業し、全国展開する」という方針です。人が集まる都市部(関東、関西など)に集中して出店するのではなく、全国に満遍なく展開する計画に見えます。
これは、ドーミーインの売りの一つである「大浴場」の存在が、都市部での積極的な出店に制約を与えている可能性がある、という仮説が立てられます。
広々とした大浴場(男女2箇所)を建物内に設ける必要があるため、そのために必要な土地の形状や広さの制約を受けやすく、出店フォーマットが画一的にならざるを得ない側面があるのかもしれません。結果として、最も高い稼働率を確保できる都市部への集中出店が難しく、地方を含めた分散的な出店をせざるを得ない状況にある可能性があります。
成長の鍵を握るリゾート事業の収益性
ドーミーイン事業の成長余地が限定的であるとすれば、リゾート事業を新たな成長軸とするのは理解できます。
しかし、足元のリゾート事業は収益力が非常に低いという課題を抱えています。
直近の第2四半期までの累計実績では、売上高272億円に対し、営業利益はわずか3.6億円しか出ていません。これは、ドーミーインの稼ぐ力と比較して圧倒的に利益率が低い状況です。
リゾートホテル業界は競争が激化しており、高品質なサービスや初期投資、運営コスト(食事、人件費など)が高くつくハイリスクなビジネスです。この低収益性を改善できない場合、中期経営計画で掲げた利益目標を達成するのは難しいのではないかという懸念が生じます。
投資上の重要リスク:セール&リースバック
共立メンテナンスに投資する上で、把握しておくべき構造的なリスクが「セール&リースバック」というビジネスモデルです。
セール&リースバックとは
同社はホテルなどの建物を建てた後、自社で保有せず、一旦第三者に売却し、それを賃借(リースバック)して運営を継続するというビジネスモデルを展開しています。
- メリット:建物売却により現金(売却益)を確保できるため、その現金を次の開発資金に充てることができ、資金繰りが良く、ハイペースで高効率な成長を実現してきました。
- リスク(デメリット):賃借により賃料(家賃)という固定費の支払いが発生し続けます。そのため、収益性が稼働率に大きく依存します。コロナ禍のような外部環境の変化や何らかの理由で稼働率が大きく落ち込んだ場合、固定費の負担により一気に赤字に転落し、業績が悪化する危険性が伴います。
足元ではドーミーインのブランド力により高い稼働率を誇っていますが、今後、地方都市など稼働率維持が難しい可能性のあるエリアに展開していく中で、高い水準を維持できるかが焦点となります。
まとめ:現在の評価と今後の視点
足元の株価は下落し、PERは13.4倍まで下がってきており、割安と見ることもできます,。
しかし、同社が不動産ビジネスに近い側面を持つため、不動産系の類似企業(例:PER11.4倍のヒューリック)と比較した場合、特に割安とは言い切れない面もあります。
現在の株価には、強気の業績予想に対する進捗遅れや、中国関連のキャンセル報道による過剰な懸念が反映されている可能性があります。
投資判断においては、短期的な株価の動向だけでなく、長期的な成長戦略を評価することが重要です。具体的には、高い収益性を誇るドーミーイン事業の成長が限定的である点、そして、今後の成長軸とされているリゾート事業が、低収益体質から脱却し、中計の利益目標を達成できるのかという点を注視する必要があります。また、セール&リースバックによる固定費リスクについても常に認識しておくべきでしょう。
執筆者
元村 浩之(もとむら ひろゆき)
つばめ投資顧問 アナリスト
県立宗像高校、長崎大学工学部卒業。
大手スポーツ小売企業入社後、店舗運営業務に従事する傍ら、ビジネスブレークスルー(BBT)大学・大学院にて企業分析スキルを習得。
2022年につばめ投資顧問に入社。
長期投資を通じて顧客の幸せに資するべく、経済動向、個別銘柄分析、運営サポート業務を行っている。
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