2025年は、日経平均株価が約30%も上昇し5万円の大台を突破するなど、日本株市場にとって素晴らしい一年となりました。しかし、その華々しい市場全体の動きとは裏腹に、多くの投資家が知る有名企業や大型株の中には、株価が大幅に下落した銘柄も存在します。
今回は、東証プライム上場で時価総額1000億円以上の企業の中から、2025年の下落率ワースト5社をピックアップし、その株価下落の裏にある真相を深掘りします。株価が下がったからといって、必ずしもその会社がダメになったわけではありません。この下落から、投資家として学ぶべき貴重な教訓を探っていきましょう。
(営業日数242日時点)
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順位 |
銘柄名 |
下落率 |
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1位 |
シスメックス |
-46.56% |
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2位 |
北越コーポレーション |
-41.53% |
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3位 |
タカラトミー |
-40.75% |
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4位 |
武蔵精密工業 |
-36.99% |
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5位 |
ペプチドリーム |
-35.14% |
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6位 |
JVCケンウッド |
-32.44% |
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7位 |
ユニ・チャーム |
-31.93% |
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8位 |
さくらインターネット |
-31.37% |
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9位 |
セイコーエプソン |
-29.93% |
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10位 |
アピアグループ |
-28.32% |
※11位には注目度の高いニデックもランクインしています。
目次
1. シスメックス (下落率 -46.56%) — 好業績なのに株価が半減した「評価されすぎ」の罠
血液検査装置の分野で世界的な評価を受けるシスメックスが、2025年の下落率トップという不名誉な結果に終わりました。驚くべきことに、その背景に業績悪化の影は見当たりません。事業は堅調に成長を続けています。
ではなぜ株価は半減したのか?答えは、コロナ禍で生まれた「過剰な期待」にあります。2020年から2022年にかけて市場の熱狂は同社のPERを80倍超という異常な水準まで押し上げました。現在の46.56%の下落は、事業の失敗ではなく、この極端なバリュエーションがPER約21倍という正常な水準へと回帰する、必然の調整だったのです。
【学び】
ファンダメンタルズが強く安定した企業であっても、市場の期待が実態からかけ離れると、その反動で株価は大きく下落します。シスメックスの株価下落は、事業の失敗ではなく「正常な評価への回帰」でした。現在のPER水準は、むしろ割安に見える局面に入ってきたと捉えることもできるでしょう。
2. 北越コーポレーション (下落率 -41.53%) — インフレがもたらした「ボーナスタイム」の終わり
国内大手の製紙会社、北越コーポレーションの株価を押し下げたのは、営業利益が前期の190億円から今期予想80億円へと半減以下になるという急激な業績の落ち込みでした。
しかし、これは同社のような市況商品を扱うビジネス特有のサイクルがもたらした、ある意味で予測可能な現象です。インフレ初期段階(2021年〜2022年)では、過去の安い時期に仕入れた原材料在庫を使いながら製品価格を先に引き上げたため、一時的に異常なほど高い利益率が生まれる「ボーナスタイム」を享受していました。
しかし、このボーナスタイムは長くは続きません。やがて在庫を補充するために高騰した原材料を仕入れなければならなくなり、コストの上昇が販売価格に追いついてきました。その結果、利益率は圧迫され、利益水準も過去の平均的なレベルへと戻っていったのです。株価の下落は、このサイクルの終わりを正確に織り込んだ動きと言えます。
【学び】
コモディティ関連ビジネスにおいて、インフレは一時的な利益ブームを生み出しますが、コストの上昇が追いつくことで急激な利益収縮が起こり得ます。株価の下落は、このサイクルの終わりを反映した、本来の収益力への回帰と見ることができます。
3. タカラトミー (下落率 -40.75%) — 好調な業績でも株価は下がる?「行き過ぎた期待」の反動
有名玩具メーカーのタカラトミーは、2024年に株価が大きく飛躍しましたが、2025年にはその上昇分の多くを失う結果となりました。
シスメックスのケースと似ていますが、こちらも事業の根幹は揺らいでいません。「キダルト(おもちゃを買う大人)」といった力強いトレンドに支えられ、業績は堅調に推移しています。下落の主な理由は、やはり株価の「行き過ぎた期待」の修正でした。
2024年の急騰局面でPERは30倍を超えていましたが、現在は17倍程度という、より穏当な水準に落ち着いています。今期の業績予想がわずかに減益となったことも売り材料となりましたが、事業を取り巻くトレンド自体は引き続き良好です。今回の下落は、事業のトラブルというよりは、過熱した期待が冷める健全な調整局面と捉えるのが妥当でしょう。
【学び】
株価は「実績」と「期待」の両方で動きます。期待が実績を大きく追い越してしまった場合、たとえ優良企業であっても、株価は大幅な調整を余儀なくされることがあります。重要なのは、その調整が事業の悪化によるものか、単なる期待値の正常化かを見極めることです。
4. 武蔵精密工業 (下落率 -36.99%) — 「テーマ株」になった老舗企業の光と影
主にホンダ系の自動車部品サプライヤーである武蔵精密工業は、2024年後半に急騰し、2025年に急落するという極めて激しい値動きを見せました。このジェットコースター相場の背景には、事業の「光」と市場の「影」が交錯しています。まず「光」の部分は、中国の大手EVメーカーBYDを含むホンダ系以外の顧客から新規受注を獲得したという、事業基盤の拡大を示すポジティブなニュースでした。
しかし、株価を熱狂させたのは、より投機的な影の側面でした。同社が手掛ける蓄電デバイスが「データセンター関連」、AI技術を活用した自動化が「AI関連」といった、市場で人気の「テーマ」と結びつけられ、投機的な資金が殺到したのです。その後の急落は、この熱狂的な期待の反動に他なりません。中核事業の評価以上に「テーマ株」として扱われたことで、株価は市場のセンチメントに激しく揺さぶられる運命を辿りました。
【学び】
伝統的な企業がAIやEVといった人気の投資テーマと関連付けられると、投機的な資金が流入し、株価が乱高下しやすくなります。中核事業が堅実であっても、株価は実態とはかけ離れたジェットコースターのような動きを見せることがあるのです。
5. ペプチドリーム (下落率 -35.14%) — 業績悪化と不祥事が重なった最悪のシナリオ
創薬ベンチャーのペプチドリームは、かねてからの長期的な株価下落トレンドが2025年にさらに加速しました。その背景には、投資家が最も嫌う2つの問題が同時に発生するという最悪のシナリオがありました。
第一に、事業面での深刻な後退です。製薬パートナーからのマイルストーン収入に依存するビジネスモデルの中、ある大型案件の契約が後ろ倒しになったことで売上収益予想が大幅に下方修正され、営業赤字へと転落しました。
第二に、さらに深刻な問題として、役員による横領疑惑というコーポレート・ガバナンス上の不祥事が発覚。この「業績悪化」と「経営への不信感」という組み合わせは、投資家の信頼を根底から覆す猛毒です。これまでの開示情報すら疑わしく見え、会社全体が「うさん臭い」という印象を与えかねません。市場の信頼を完全に失い、株価が底なし沼に沈んでいく典型的なパターンです。
【学び】
変動の激しいビジネスモデルはそれ自体がリスクですが、それに深刻なガバナンス不全が加わると、市場の信頼は完全に崩壊します。業績と信頼の両方を同時に失った企業の株価が、いかに厳しい状況に追い込まれるかを示す強力な教訓です。
まとめ
今回、下落率ワースト5社の事例を分析して見えてきたのは、株価が下がる理由は決して一つではない、ということです。シスメックスやタカラトミーのような健全な「評価の正常化」もあれば、北越コーポレーションのような予測可能な「業界サイクル」、武蔵精密工業のような「テーマ株化による乱高下」、そしてペプチドリームのような深刻な「事業とガバナンスの複合危機」まで、その背景は多岐にわたります。
最も重要なメッセージは、「株価が下がったからといって、その会社が悪いというわけではない」ということです。なぜ株価が動いたのか、その「なぜ」を深く探求することが、賢明な投資判断には不可欠です。
この下落銘柄リストの中に、未来の勝ち組は隠れているでしょうか?重要なのは、数字の裏にある物語を読み解くことです。
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