なぜ任天堂の株価は下がっているのか?絶好調に見える「スイッチ2」の裏に隠された意外な真実

2017年の発売から7年以上が経過した今もなお、世界で売れ続ける「ニンテンドースイッチ」。累計販売台数は1億5000万台に迫り、任天堂は今期の販売予測を上方修正するなど、その勢いは衰えを知りません。しかし、それとは裏腹に任天堂の株価はピーク時から3割も下落しています。

出典:Google

なぜ、これほどの好材料がありながら、市場の評価は冷ややかなのでしょうか?

この一見不可解な現象の裏には、単純な業績数字だけでは見えてこない、いくつかの重要な要因が隠されています。今回はその意外な真実を解き明かしていきます。

絶好調の売上、しかし利益は伸び悩む「コスト上昇の罠」

株価下落の背景にある最も直接的な要因の一つが、売上の伸びに利益の伸びが追いついていないという現実です。

任天堂は今期のスイッチ2本体の販売台数予測を、当初の1500万台から1900万台へと大幅に引き上げました。これに伴い、売上高予測も18.4%増へと上方修正されています。

しかし、注目すべきは営業利益の伸びです。こちらは15.6%増に留まっており、売上高の伸び率を下回っています。通常、売上が増えれば固定費の割合が下がり、利益はそれ以上に伸びるのが一般的ですが、任天堂では逆の現象が起きています。

この主な原因は、2つの想定外のコスト上昇です。

一つは、世界的なAIブームによるメモリ価格の高騰ですスイッチ2にも使われるメモリの価格が急騰し、製造原価を押し上げています。
もう一つは、アメリカでの関税です。これも当初の想定にはなく、利益を圧迫する要因となっています。

結果として、「売上は絶好調なのに、思ったほど儲からない」という構造が生まれているのです。

任天堂の「本当の収穫期」は発売から7年後にやってきた

多くの人が、ゲーム機は発売された時が最も儲かると考えがちですが、実はその逆です。ゲーム機ビジネスの本当の収穫期は、ハード(本体)が広く普及した後に訪れます。

その証拠に、2017年に発売された初代スイッチの業績がピークに達したのは、なんと発売から7年後の2024年でした。これは、ハードの普及台数が増えることで、利益率の高いソフトの販売が本格化するためです。ユーザーは魅力的なソフトで遊ぶためにハードを購入し、ハードが普及すれば、さらに多くのソフトが開発・販売されるという好循環が生まれます。

このビジネスモデルは任天堂の強みですが、投資家の視点から見れば、発売から7年が経過したハードが業績のピークにあるということは、今後の成長の伸びしろが限られているとも解釈できます。市場はすでに、次の成長サイクルに目を向けているのです。

初代スイッチの成功には「コロナ禍」という特別な追い風があった

初代スイッチが全世界で累計1億5000万台に迫る驚異的な販売台数を記録したことは、任天堂の大きな成功事例です。しかし、この成功の裏には、見落としてはならない特別な要因が存在します。

スイッチの業績が最も大きく伸びた2021年から2024年の期間は、世界的なコロナ禍による「巣ごもり需要」の時期と見事に一致しています。多くの人々が外出を控え、家庭で楽しめるエンターテインメントを求めた結果、スイッチの需要が爆発的に高まったのです。

この「特別な追い風」がなければ、ここまでの歴史的な大成功にはならなかった可能性があります。つまり、スイッチ2が初代の驚異的な記録を超えることは、当時とは社会状況が異なる現在において、非常に高いハードルであると市場は冷静に分析しているのです。

「Wii Uの失敗」がもたらした、革新へのジレンマ

任天堂がスイッチ2を開発する上で、過去の苦い経験が戦略的なジレンマを生んでいます。

任天堂はかつて、大ヒットした「Wii」の後継機である「Wii U」で大きな失敗を経験しました。この失敗の反省から、スイッチ2ではスイッチとの互換性を維持し、ユーザーがスムーズに移行できる「堅実な戦略」を選ぶ可能性が高いと見られています。

しかし、この堅実さが、皮肉にも「わざわざスイッチ2を買う必要がない」という状況を生み出すジレンマにつながっています。既存のスイッチで遊べるソフトが多いままでは、ユーザーが積極的に新機種に買い替える動機が生まれにくいのです。結局のところ、スイッチ2の成否は、「スイッチ2でしか遊べない、魅力的な専用ソフト」がどれだけ登場するかにかかっています。

スイッチ2の初期ブームは「品薄」が生む心理バブルの危険性をはらむ

スイッチ2が発売された際、熱狂的なブームとなりました。しかし、その熱狂は、スイッチ2の魅力だけでなく、品薄状態が生み出す心理効果によるものである危険性を投資家は警戒しています。

この状況は、株式市場における「IPO(新規株式公開)」の性質に似ています。供給が限られている中で多くの人が欲しがると、一種の心理効果が働きます。

抽選に外れると「何が何でも欲しい」という気持ちになる。「逃した魚は大きい」という心理が働き、本来の価値以上に需要が膨らんでしまうのです。

この種の初期ブームは、製品の真の評価を反映しているとは限らず、生産が安定し始めると急速に沈静化するリスクがあります。市場は、このような一時的な熱狂ではなく、持続的な需要と収益性を見極めようとしているため、将来への期待だけで株を買い進めることに慎重になっているのです。

任天堂が次に打つべき一手とは?

ここまで見てきたように、好調な売上の裏で任天堂が直面している課題は、コスト上昇、過去の成功体験がゆえの高いハードル、そして革新へのジレンマと、非常に複雑です。

アナリストの中には、任天堂が取るべき次の戦略として「MacやiPhoneのような、ハードを毎年少しずつアップデートしていくモデル」を提案する声もあります。ハードの世代交代のたびに大きなリスクを取るのではなく、安定したプラットフォームとして進化させていくという考え方です。

任天堂はこれからもハードが世代交代するたびに大きな「ギャンブル」を続けるのか、それとも安定したプラットフォームへと進化する道を選ぶのか。その答えは、これから登場するソフトのラインナップと、スイッチ2への移行戦略が示してくれるでしょう。

長期投資家としての判断:買い時なのか?

現在、上方修正後のPERは約35倍となっています。これからの業績拡大を考えれば妥当という見方もありますが、足元の利益が伸び悩むリスクを考慮すると、「必ずしも割安とは言えない」というのが現時点での見方です。

任天堂の強みである強力なIP(マリオ、ポケモン、ゼルダ等)は健在ですが、ハードが新しくなるたびに「ギャップ」が生じるビジネスモデル特有のリスクもあります。スイッチ2専用のビッグタイトルが続々と登場し、長期的な収益の柱が見えてきた時こそが、本当の投資チャンスになるかもしれません。

執筆者

執筆者:栫井 駿介

栫井 駿介(かこい しゅんすけ)

つばめ投資顧問 代表
株式投資アドバイザー、証券アナリスト
ビジネス・ブレークスルー(株)「株式・資産形成実践講座」講師

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