ソフトバンクグループ(SBG)は、日本の個人投資家から絶大な人気を誇る銘柄です。
その人気の根源には、カリスマ経営者である孫正義社長に対する深い尊敬の念があります。
「孫さんに自分のお金を預けてみたい」と語る投資家は少なくありません。
かつては日本のインターネット革命を牽引し、一時的な停滞期を経て、現在は「AIへの投資」という新たな旗印を掲げて再び息を吹き返しています。トランプ大統領とも渡り合うような孫社長のバイタリティは、多くの人々に未来を感じさせています。
しかし、その輝かしい未来の裏側には、投資家として冷静に見極めなければならない複雑な構造が隠されています。
目次
利益3兆円は無意味?損益計算書より重要な「NAV」の罠
SBGの直近の第3四半期累計決算を見ると、売上高5兆7000億円に対し、税引前利益が4兆1000億円、当期利益が3兆1000億円という、一見するとわけのわからないほどの巨大な数字が並んでいます。
利益が2兆5000億円も増えているのですが、ここで注意すべきは、SBGが今や完全な「投資会社」であるという点です。
投資の損益が直接PLに反映されるため、一般的な事業会社と同じように損益計算書を比較してもあまり意味がありません。
投資会社としての吉凶を判断するのに最も重要な指標は、利益以上には「NAV(ネット・アセット・バリュー)」と呼ばれる時価純資産の状況です。
保有している株式の時価から、借入金を差し引いた「正味の価値」こそが、SBGという会社の真の実力を表すものだからです。
「10兆円割安」は本物か?33兆円の純資産に潜む不確実性
現時点において、SBGのNAVは33.1兆円に達しています。
これに対し、市場で評価されているSBG自体の時価総額は約20兆円に留まっています。
つまり、理論上の価値であるNAVに対して、実際の株価は10兆円以上も低く評価されていることになります。
この「10兆円以上の乖離」を目の当たりにすると、多くの投資家は「ものすごく割安なのではないか」という感想を抱きます。
孫社長が投資している素晴らしい資産を、実質的に3割から4割引きで買える計算になるからです。
株価がピークから半値近くまで下がっている現状を見れば、今こそが押し目買いのチャンスではないかと考える人が多いのも頷けます。
しかし、この「33兆円」という純資産の中身、特に「未上場株」の評価については極めて慎重な精査が必要です。
OpenAI評価額のカラクリと“自己売買”に近いかさ増し疑惑
SBGが保有する資産の内訳を見ると、上場しているアーム(ARM)やソフトバンク(国内通信子会社)、Tモバイルなどは市場価格で評価されるため、その価値は比較的正確です。
問題は、ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)に含まれるOpenAIなどの未上場株です。
OpenAIはまだ上場していないため、市場での客観的な取引価格が存在しません。
それにもかかわらず、SBGの利益の多くは「OpenAIの評価額が上がったこと」によって生み出されています。
未上場株の評価は、一般的に「ラウンド」と呼ばれる外部資金調達の際についた価格で行われます。
例えば、最初に1株100円で出資した会社が、成長して次の資金調達で1株1000円の価値があると認められれば、評価額は10倍になったと計算される仕組みです。
ここで、SBGによるOpenAI評価のプロセスにおいて、ある種の「おや?」と思わざるを得ない事象が浮かび上がります。
第3四半期の決算説明会を精査すると、どうやら評価額の向上は、OpenAI内部での「セカンダリー取引」によって決められた側面があるようです。
OpenAIのようなベンチャー企業は、優秀な従業員に多額の給料を払う代わりに自社株を渡します。
SBGは今回、この従業員が持っている既存の株式を買い取ることで、持ち株比率を上げる動きを見せました。
そして、その「従業員からの買い取り価格」を上げることで、自ずとOpenAI全体の評価額を釣り上げてしまったのです。
これは自分でお金を出して高い価格で買い取り、その上がった価格で自分の持っている全株を評価し直して「利益が出た」「資産が増えた」と発表する、いわば「マッチポンプ」に近い状況です。
上場市場でやれば相場操縦にもなりかねない自己売買に近い行為が、NAVの数字を支えている可能性を否定できません。
孤立無援のスポンサー。Amazon・NVIDIA参戦の裏にある「複雑な利害」
OpenAIは現在、恐ろしい勢いで外部から資金を調達していますが、実はこの1年で行われた投資の多くはSBGによるものです。
かつての主要スポンサーであったマイクロソフトは最近では追加の投資を行っていません。
SBGはファーストクロージングで1.5兆円、その後さらに4.5兆円といった具合に、巨額の資金をOpenAIに投じ続けています。
外部投資家も一部含まれてはいますが、大部分はSBGの出資であり、まさにSBGがOpenAIの屋台骨を一人で支えているという、極めて依存度の高い構図が見えてきます。
直近(2月)ではAmazonやNVIDIAも出資に加わりました。(OpenAI発表:https://openai.com/ja-JP/index/amazon-partnership/)
これは一見、外部からの正当な評価(フェアバリュー)がなされた証拠のように見えますが、その中身を詳しく見ると単純な「投資で儲けるための投資」ではないことがわかります。
例えばAmazonの場合、単なる出資だけでなく、OpenAIとAWS(Amazon Web Services)との戦略的パートナーシップという契約がセットになっています。
OpenAIが将来的にAmazonに支払うインフラ利用料などの契約も込みで、先にお金を回したという見方もできます。
また、NVIDIAについても、本来15兆円を投資する計画だったものを、わずか300億ドル(約4.5兆円)で打ち切り、「これが最後かもしれない」と早期に手を引く姿勢を見せています。
これらは純粋な期待だけではなく、互いのインフラを使い合うといった複雑な利害関係、あるいは競争激化による撤退の匂いが漂う、非常に不透明な投資なのです。
「アーム」を手放す日?孫正義の“危険な大博打”と究極のリスク
孫社長は、AIの未来について非常に熱く語っています。
チップ数、チップ性能、モデル性能がそれぞれ10倍になれば、AIの力は1000倍になるという理論です。
しかし、なぜ「AIが勝つ」ことが「OpenAIが勝つ」ことと直結するのかについては、論理的な説明が不足しているようにも感じられます。
本来、投資の世界では分散投資が鉄則ですが、SBGは現在、エヌビディア株を売却してまでOpenAIへの集中投資を加速させています。
これは、AIという巨大な潮流の中で、SBGが主導権を握れる場所がここしかなかったという「孫社長のエゴ」が色濃く反映されたギャンブルにも見えます。
SBGの財務状況について、日本の格付け会社JCRは「A」という比較的安全な評価をしていますが、海外のS&Pは「BB」という投機的な、いわゆる「ジャンク債」扱いの評価をしています。
一見すると安全性は確保されているように語られていますが、海外からは極めて厳しい、ギャンブル的な投資をしているという目で見られているのが現実です。
唯一の強力な盾はアーム(ARM)です。
低消費電力の半導体設計において圧倒的な優位性を持つアームの価値は本物と言えますが、もしSBGがOpenAIへの投資資金を捻出するために、この「宝物」であるアーム株まで手放すような事態になれば、それは取り返しのつかない危険信号となるでしょう。
SBGへの投資は、単なる企業の株を買うという行為を超えて、OpenAIと心中する「運命共同体」になることを意味しています。
NAVと時価総額の乖離という「数字上の割安さ」だけに目を奪われてはいけません。
もしOpenAIが将来的に150兆円規模の価値で上場できれば、現在のSBG株はとてつもなく割安だったということになります。
しかし、未だ赤字を垂れ流し、競争が激化する中で、その賭けが当たる保証はどこにもありません。
孫正義という不世出の経営者が描く夢と、その「引き換え」にある極めて高いリスク。
それらを天秤にかけ、不確実性を受け入れた上で、それでも孫正義に賭けてみたいと思えるかどうか。
それがSBG投資の究極の問いなのです。
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