資源株・商社株は買い?原油高下の投資戦略と長期投資の銘柄選び

現在の株式市場は、原油価格の高騰という非常に厳しい環境下に置かれています。イランを巡る情勢は、解決の糸口がますます見えなくなっており、投資家はかつてない地政学的リスクに直面しています。

出典:Investing.com

このような環境では、原油高の恩恵を受ける企業がある一方で、大多数の企業にとってはコスト増に苦しむ厳しい局面となります。

私たち株式投資家は、単に不安に陥るのではなく、この状況下でどのような戦略を立て、どの銘柄に注目すべきか、あるいは避けるべきかを冷静に判断しなければなりません。

1970年代の石油危機は再来するのか

今、市場で最も恐れられているキーワードの一つが「スタグフレーション」です。
これは、景気が後退しているにもかかわらず物価が上昇し続けるという、最悪の経済状態を指します。

通常のインフレは、需要が旺盛になることで物価が上がる「デマンドプル型」であり、これは好景気と連動しやすいものです。

しかし、今回のインフレは、コストの上昇によって無理やり物価が押し上げられる「コストプッシュ型」の色が強まっています。

ホルムズ海峡周辺では、すでにペルシャ湾の精油所などが破壊される事態が起きており、原油の供給そのものが物理的に減少しています。

さらに地政学的リスクの高まりは海上保険料を跳ね上げ、あらゆる物流コストを増大させています。

このように、需要に関係なく物価だけが上がれば、人々は財布の紐を固くし、消費を抑えます。
その結果、景気がますます悪化するという、1970年代の石油危機の際に見られた悪循環が再現されることが懸念されているのです。

AIブームが景気の下支えとなるか

一方で、1970年代と決定的に異なる要素が「AI」の存在です。

たとえ物価が上がり、一般の消費が冷え込んだとしても、AIの進化は止まりません。
GoogleやMicrosoftといった巨人は、物価に関係なくデータセンターの建設に莫大な投資を続けています。
この勢いが続く限り、ハイテク分野が景気を下支えし、経済がうまく回り続けるというシナリオも考えられます。

しかし、ここにも大きな死角があります。

AIを動かすには膨大な電力が必要であり、原油高は電力コストの直撃を意味します。
エネルギーコストの増大はデータセンターの採算を悪化させ、もしAIのマネタイズ(収益化)が思ったように進まないという懸念が広がれば、現在唯一の希望であるAI関連投資までもが冷え込んでしまう可能性があります。

そうなれば、経済全体が総崩れになるという「八方塞がり」の状態にもなりかねません。

原油高で「避けるべき銘柄」の共通点

投資家がまず警戒すべきは、いわゆる「景気敏感株」や、コスト増を価格に転嫁しにくい企業です。

自動車、家電、家具といった耐久消費財は、物価高によって人々の買い控えが起きやすく、特にガソリンを直接消費する自動車は、今の時期に積極的に買おうという心理にはなりにくいでしょう。

また、化学素材メーカーも厳しい立場にあります。

原油由来の「ナフサ」を原料とするため、原料高がダイレクトに利益を圧迫します。
三菱ケミカルの株価が3月に入ってから軟調なのは、こうした背景を市場が読み取っているからです。

外食産業においても、スカイラークのように今のところ粘っている銘柄もありますが、原料高を価格に転嫁するまでのタイムラグの間、業績が一時的に悪化することは避けられません。

特に「お値段以上」というブランドポリシーを掲げるニトリなどは、コストが増大しても簡単には価格を上げられず、結果として利益が削られる構造にあります。
同社の株価が3月以降に下落し、PERが14.3倍程度まで下がってきたのは、次の決算で見えてくる厳しい見通しを投資家が警戒し始めた証拠と言えるでしょう。

JALとANAの燃料費感応度を徹底比較

原油高の影響を最もダイレクトに受けるのが航空業界です。

飛行機を飛ばすための燃料費は営業費用の約2割を占めており、原油価格の変動は死活問題となります。
国際線では燃油サーチャージによってある程度コストを転嫁できますが、価格変動を柔軟に反映しにくい国内線の比率が高いと、その分ダメージが蓄積します。

特に注目すべきはJAL(日本航空)とANA(全日本空輸)の違いです。

JALは中東を通る長距離路線の比率が相対的に高く、燃料コストの増大だけでなく、紛争地を回避するためのルート変更によるコスト増の影響も受けやすいと見られています。
ANA側の試算では、原油が1バレル1ドル上がるごとに年間で約2億円の純利益がマイナスになるとされています。
今期の予想純利益1,450億円に対して100億円程度の減益要因となり、一見小さく見えますが、これはサーチャージでの回収を前提とした数字です。
サーチャージによる回収前の数字で見れば、JALは月間で300億円もの利益が削られるという算出もあり、年間では経常利益を全て吹き飛ばしてしまうほどのインパクトになり得るのです。

中国路線の”棚ぼた”特需

航空株のチャートを見ると、2月に一時的に大きく上昇する場面がありました。

これには、中国との政治的な緊張関係から生じた奇妙な特需が関係しています。
中国政府が日本への旅行を事実上自粛するよう求めている影響で、中国の航空会社は日本への便を大幅に減らしています。
しかし、それでも日本に行きたいという中国人の需要は根強く、彼らは日本の航空会社、つまりJALやANAを利用するしか選択肢がなくなっているのです。

成田空港の運行状況を見ても、中国便の欠航が相次ぐ中で、日本の航空会社がその枠を代替して「漁夫の利」を得ている状況があります。
こうした「棚ぼた」の利益によって一時的に救われている面はありますが、その後の原油高の影響を考えると、現在の株価はやや楽観視されすぎているという印象を拭えません。

原油高で「得をする銘柄」:INPEX、JAPEX、商社

逆に、この環境下で利益を伸ばせるのは、資源を供給する側の企業です。

代表的なのは、原油を掘って売る「上流事業」を手掛けるINPEX石油資源開発(JAPEX)です。
採掘コストは急激には上がらないため、原油の売り値が上がれば、その分がほぼダイレクトに利益として積み上がります。
INPEXの株価が3月以降、3,700円付近から4,600円超へと急騰しているのは、まさにこの「資源高の恩恵」を反映した動きです。

総合商社についても、資源に強みを持つ三井物産三菱商事には強い追い風が吹いています。

三井物産は商社の中でも特に資源特化型であり、株価も右肩上がりを続けています。
一方で、同じ商社でも「非資源」を掲げる伊藤忠商事は、どちらかと言えば消費財やサービスに力を入れているため、景気後退や消費冷え込みの懸念から株価がガタガタと不安定な動きを見せています。

ただし、これらの資源関連銘柄への投資には注意が必要です。
すでに市場は多くの情報を折り込んでおり、現在の価格は「高値掴み」になるリスクも孕んでいます。
もし情勢が急転して和解が進めば、期待が剥落して株価が逆回転する可能性も常に想定しておくべきでしょう。

銀行株と不動産株の行方

銀行株への投資判断も複雑です。

インフレになれば利上げが行われ、銀行の利ざやが拡大するというポジティブな側面は確かにあります。
しかし、スタグフレーション、つまり「不況下の物価高」になれば、融資先の業績悪化による貸し倒れや、不動産市場の冷え込みという大きなリスクが浮上します。

歴史を紐解くと、リーマンショック直前の2008年頃、原油価格は1バレル125ドルを超える記録的な高値をつけていました。
当時は資源高に沸いていましたが、その後の景気後退で銀行株は凄まじい下落を経験しました。
三菱UFJなどのメガバンクも当時は赤字に転落し、株価が3分の1以下になる局面もありました。
金利が上がるから銀行は安心だ、という単純な発想は、有事の景気後退局面では非常に危険です。

歴史に学ぶ生存戦略

私たちは今、大きな転換点に立っています。

かつての石油危機の際、資源のない日本は「省エネをしないと生き残れない」という極限状態に追い込まれました。
しかし、そこでの努力と工夫が、結果として世界最高の低燃費技術を生み出し、日本の自動車産業がアメリカ市場を席巻するきっかけとなりました。

現代において、この「省エネ・効率化」が最も求められている場所こそがデータセンターです。
AIブームを継続させるためには、膨大な電力をいかに効率的に使い、冷却するかが経済の大きな鍵となります。この分野で独自の技術を持つ企業こそが、次の時代の主役になるはずです。

電力不足を救う「効率化技術」を持つ企業:三菱重工、ダイキン…

具体的には、三菱重工のガスタービン技術などが挙げられます。
同社の発電機は、少ない燃料で大量の電力を生み出す世界最高水準の効率を誇っており、電力不足が懸念される中でそのニーズはますます高まっています。
株価がPER60倍超と割高に見えても、業績が絶好調なのはこうした「省エネ・高効率」という国策的なテーマに乗っているからです。

また、サーバーを冷やす技術も重要です。
エアコンによる冷却は効率が悪いため、これからは水で直接冷やす「液冷」方式が主流になると見られています。
ダイキン工業などがこうした技術を持つ企業の買収を進めており、今後いかにこの市場でプレゼンスを発揮できるかが注目されます。

さらに、半導体そのものの消費電力を抑える材料や技術を持つメーカーも、日本の得意分野として大きな投資チャンスを秘めています。

まとめ

現在の相場は、何が起きるか予測できない「不確実性」に満ちています。
このような時、安易に資源高にベッドしたり、逆にパニックになって投げ売りをしたりするのは賢明ではありません。
ウォーレン・バフェット氏も、最近のインタビューで「株価が下がったとはいえ、まだ十分に安くないから下手には買わない」という趣旨の発言をしています。
私たちはもっと深い「ゲリラ豪雨」のようなバーゲンセールを待つ忍耐強さを持つべきでしょう。

長期投資において最も大切なのは、目先のイベントに一喜一憂することではなく、その企業が「努力と工夫」を続けているかを見極めることです。
かつて石油危機を乗り越えて世界トップになったトヨタのように、現在のエネルギー危機や電力不足という壁を、技術と知恵で乗り越えようとする企業こそが、真の強者となります。

私たちはそうした企業をじっくりと探し出し、いい企業である限りはどっしりと持ち続ける、そんなスタンスでこの困難な時代を歩んでいくべきなのです。

執筆者

執筆者:栫井 駿介

栫井 駿介(かこい しゅんすけ)

つばめ投資顧問 代表
株式投資アドバイザー、証券アナリスト
ビジネス・ブレークスルー(株)「株式・資産形成実践講座」講師

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