サイバーエージェントの一人勝ち?インターネット広告代理店業界を分析

インターネット広告業界は、国内経済が停滞する中で数少ない成長産業です。海外ではすでにテレビ広告を上回り、国内でも2020年にそうなると予想されています。

従来の広告代理店とは求められる能力が異なる

スマートフォンを1人1台保有する時代となり、テレビよりスマートフォンを見る時間の方が長くなりつつあります。人の目が届くところには広告需要が生まれる、至極真っ当な流れです。

インターネット広告業界において活躍するのは、かつてのテレビと同じように「広告代理店」です。しかし、電通や博報堂に代表される従来の広告代理店とはいささか特徴が異なっているようです。

従来の広告代理店は、テレビなどのメディアを抑え、その力を持って広告主に営業するスタイルが強みを持ちました。そこで要求されるのは、見た目の華やかさと営業力、メディア関係者との人脈でした。

しかし、インターネットの世界におけるメディアはテレビと異なり多種多様であり、GoogleやFacebookに代表されるように、どのような広告主に対しても広告枠を開放しています。

ユーザー側を見ても、大衆にまとめて訴えかけるマス広告の手法ではなく、特定の分野に興味・関心のある人に絞ったターゲティング広告が主流です。ユーザーの行動を「追跡」することで、広告効果も明確に数字となって表れます。

オープンかつ分散し、結果が明確なインターネット広告の世界では、従来の漠然とした「華やかさ」「営業力」「人脈」はさほど力を持たなくなり、代わって大切になるのが「データの蓄積」 「提案力」 「広告運用力」です。

これらの能力は、一朝一夕に身につけられるものではありません。日々進化するインターネットの世界において、様々なトラフィックを分析し、より効果の高い方法を開発し続けなければならないのです。

特に、大企業を広告主に抱える代理店は、最新の広告手法を提案し続けられなければ、あっという間に競争からふるい落とされていくでしょう。

インターネット広告代理店は二極化する

一方で、インターネット広告は中小企業へも広告の門戸を開きました

誰にでもばらまくマス広告とは異なり、必要な人にだけ届けるニッチ広告が可能となります。これは圧倒的に低予算で、代理店を挟まなくてもその気になれば今すぐに始めることができます

ただし、それなりのノウハウは必要となるため、この分野で活躍する中小代理店にも活躍のフィールドは残されているでしょう。

したがって、生き残るインターネット広告代理店はこれから二極化すると考えます。

一つの極は最新の技術の蓄積を続け、大手広告主のニーズを掴み続けるガリバー、もう一つの極はニッチ需要に応える特化型代理店です。

【出典】シンアド転職

圧倒的な力をつけるサイバーエージェント

前者の代表格といえば、紛れもなくサイバーエージェント(4751)です。シェアはトップで、業界平均を上回る成長を続けます。

特に「データの蓄積」に関しては、数をこなせばこなすほど力が強化されるものです。

業界最大手のサイバーエージェントの強みは、時間が経つごとに薄れるどころかますます強まると考えます。従来の広告代理店や競合が手をこまねいている間に、圧倒的な地位を築く可能性が高いと言えるのです。

その他のインターネット広告代理店も、売上高こそ伸びてはいるものの、利益は鳴かず飛ばずという場合がほとんどです。それもそのはずで、この業界は参入障壁が低く、競争が絶えません。近年の利益低迷は、価格競争が激化が業績に表れているためと考えます。

独自の道を見つける企業が現れるか

価格競争に陥らないためには、各社は特徴を出さなければなりません。サイバーエージェントに挑む覚悟が無いのなら、バッティングしない分野を徹底的に磨くことが収益性向上への近道です。

サイバーエージェントに次ぐ規模のオプトHD(2389)セプテーニHD(4293)はどっちつかずの中途半端な印象を受けます。

両社とも電通(4324)と提携するなどして追いつこうとしているのでしょうが(オプトは2017年に解消)、それがかえって各社の特徴を出しにくくしている可能性があります。

市場は大きくなくても、ニッチな分野でトップシェアを築ければ、インターネット広告へのシフトに伴い当面は高収益・高成長を遂げられる可能性があります。現段階ではそのような戦略を取っている企業は見つけられませんが、継続して探していきたいと思います。

現時点において、残念ながらはっきりおすすめできる会社はありません。サイバーエージェント以外で力強い成長が期待できる企業が見当たらず、どの会社もPERは低くありません

【PER】(2019年1月24日時点)
サイバーエージェント(4751):104倍
オプトHD(2389):22.9倍
セプテーニHD(4293):20.3倍
電通(4324):18.5倍

一方のサイバーエージェントは、赤字のAbemaTVへの投資注力により投資判断が難しくなっています。圧倒的な地位を持つ広告代理手は評価できるため、その他の様々な事業を含めて別途分析を続けたいと思います。

チャート画像
Print Friendly, PDF & Email

執筆者

執筆者:栫井 駿介

栫井 駿介(かこい しゅんすけ)

つばめ投資顧問 代表
株式投資アドバイザー、証券アナリスト
ビジネス・ブレークスルー(株)「株式・資産形成実践講座」講師

詳細はこちら
サイト訪問者限定プレゼント
あなたの資産形成を加速させる3種の神器を無料プレゼント

プレゼント①『株式市場の敗者になる前に読む本』
プレゼント②『企業分析による長期投資マスター講座』第一章
プレゼント③『YouTubeプレゼン資料』

メールアドレスを送信して、特典をお受取りください。
メールアドレス *
※送信したメールアドレスに当社からのお知らせやお得な情報をお送りする場合があります。

※個人情報の取り扱いは本>プライバシーポリシー(個人情報保護方針)に基づいて行われます。
※送信したメールアドレスに当社からのお知らせやお得な情報をお送りする場合があります。
※上記は企業業績等一般的な情報提供を目的とするものであり、金融商品への投資や金融サービスの購入を勧誘するものではありません。上記に基づく行動により発生したいかなる損失についても、当社は一切の責任を負いかねます。内容には正確性を期しておりますが、それを保証するものではありませんので、取扱いには十分留意してください。

気に入ったらシェアしてもらえると嬉しいです!

4 件のコメント

  • CAの売上には、ソシャゲやメディア売上が入ってますね。。。なので、他のネット広告会社と単純に比較できないかと。。。

    • もちろん単に売上高で比較しているわけではありません。広告事業だけを切り出してもサイバーエージェントの売上高は2400億円と他社を圧倒しています。傾向を見ても、この差は今後ますます拡がる可能性が高いと考えています。

  • 広告業界関係者ですが興味深い記事だったのでコメントさせてください。

    私も記事にあるようにインターネット広告業界において、サイバーエージェントの一強は今後も続くと思います。

    先に業界全体の話を整理すると、現在業界内ではファイブフォース分析で言うところの、「買い手交渉力」と「代替え品脅威」がポイントになってきています。
     ・買い手交渉力:広告主のマージン値下げ交渉(テレビも数十年かけてマージンが下がっており同じことが起こっている)が進んでいる
     ・代替え品脅威:広告主が直接媒体に出稿するケースが増えている

    ここ数年の媒体の進化によって今まで代理店が提供してきた広告運用業務が必要なくなってきた結果、広告主がコスト削減に動いたということです。(アメリカではより顕著だそうです)

    これを踏まえ代理業の提供する価値を広告運用から広告の制作にシフトさせることを各社考えていますが、最も積極的なのが業界トップのサイバーエージェント(自社にスタジオを設けるなど)です。

    サイバーエージェント自体を評価するのは上の方のコメントにもあるように広告以外も上する必要がありますが、少なくともサイバーエージェントの広告事業としてはしばらく安定した成長が見込めるのではないかと思います。

    • ありがとうございます。業界の方のコメントということで、私も大変勉強になります。
      今後不況が訪れて広告主が予算を絞った場合、ますますネットへのシフトが加速すると考えています。その時は再編を含め、業界が大きく動くでしょう。その中で勝ち組の選別や、隠れた価値を探していければと思います。
      今後ともよろしくお願い申し上げます。

  • ビタミンC へ返信するコメントをキャンセル

    Popular Article - よく読まれている記事Popular Article

    • 銀行株は今後どうなる?そろそろ売り時?
      今回は銀行株についてです。 銀行株が上がりましたが、もう売るべきなのか、まだ持ち続けるべきなのか、悩んでいる方はぜひお読みください。 売るか...
    • 【LIXIL】配当利回り4.75%の裏にあるヤバい現実
      LIXILは住宅設備の最大手である LIXILの中核事業会社、株式会社LIXILは、2011年に国内の主要な建材・設備機器メーカーのトステム...
    • REITの利回り4.65%!今買うべき?
      今、株式市場で流行っているものといえば半導体株です。 半導体株が上昇し、それにつられて日経平均株価も上昇しています。 しかし、今、半導体に投...
    • 【さくらインターネット/住石ホールディングス/三井E&S】売るべきか買うべきか
      今回は「仕手株の流儀」についてお話します。 最初に断っておきますが、つばめ投資顧問では仕手株を推奨していま...
    • 日の丸半導体ルネサス 時価総額6倍は達成可能か?AI半導体ブームに隠れたリスク
      ルネサスは、日本を代表する半導体製造メーカーであり近年業績を拡大させています。 一方で、2010年代の初頭は赤字が続く厳しい時期もありました...

    Article List - 記事一覧Article List

    カテゴリから記事を探す