【学習シリーズ②】ROIC分析で探す「すごい企業」

学習シリーズ第2回です。第1回はこちらからご覧ください!

【学習シリーズ】ROIC(投下資本利益率)とは?ROEとの違い、重要性、そして企業価値を測る最強の分析手法「ROICツリー」を徹底解説

今回は、長期投資において非常に重要な指標であるROIC(投下資本利益率)について、その意味と構造を深掘りし、具体的な企業分析への活用方法を解説します。

ROICは、単に数字の良し悪しを判断するだけでなく、詳細に分解することで、企業のビジネスモデル、強み、そして長期的な価値を築くための具体的な方法を理解するのに適した指標です。本気で投資を勉強したい方は、ぜひこの機会に学んでみてください。

投資判断の要諦:過去の分析から未来を類推する

投資の本質は、足元の状況を分析することはもちろんですが、過去を分析することによって、将来どのような状況になるのかを類推することにあります。

過去が良かったからといって将来も良いとは限りませんし、その逆も然りです。しかし、過去に優れた実績を持つ企業は、そうでない企業に比べて将来も良い可能性が高いと言えるため、過去の分析には大きな意味があります。

ROICの基本構造:財務状況に左右されない真の事業の強さ

ROICとは何か?

ROIC(Return on Invested Capital)は、日本語では投下資本利益率と呼ばれます。これは、事業に投じたお金(資本)に対して、どれだけのリターン(利益)が返ってくるかを示す指標であり、不動産投資など一般的な投資でいう「利回り」のようなものだと捉えることができます。

ROEとの決定的な違い

ROICは、ROE(自己資本利益率)と非常に近い指標ですが、ROEには「株主資本」の部分が企業の財務状況によって意図的に増減させられる可能性があるという問題点がありました。

ROICはこの問題を解消するために登場しました。ROICは、あくまで事業として強いかどうかを判断するために、財務状況の影響を除いて考えられるよう設計されています。

ROICの計算式

ROICは以下の式で計算されます。

ROIC=NOPAT÷投下資本

1. NOPAT(Net Operating Profit After Tax):みなし税引後営業利益
営業利益から、みなしで税金を引いたものとして考えます。これは、税金や借入など財務状況の要因を除き、純粋に事業が生み出す利益を評価するためです。

 

2. 投下資本 (Invested Capital)
投下資本は「有利子負債 + 株主資本」で計算され、その事業に投じられたお金の総額を示します。
この分子に有利子負債と株主資本の両方を含めることで、負債を増やして株主資本を小さくすることでROEを意図的に高く見せるような財務的テクニックの影響を排除できます。

 

3. ROICの分解:利益率と回転率でビジネス構造を理解する

ROICをさらに深く理解するためには、以下の通り分解することができます。

ROIC=税引後営業利益率×投下資本回転率

この分解により、企業が「高い利益率」で儲けているのか、それとも「高い回転率」で儲けているのか、というビジネスの構造を浮き彫りにできます。

 

① 税引後営業利益率 (NOPAT ÷ 売上高)
税引後の営業利益が売上高のどれだけの割合を占めるかを示すものです。

② 投下資本回転率 (売上高 ÷ 投下資本)
投下資本(投じたお金)に対して、どれだけの売上高を上げられたかを示す指標です。つまり、投じた資本が何回転して売上を生み出したかを意味します。

回転率が高いということは、少ない資本で多くの取引や生産を効率よく行えていることを示します。例えば、同じ工場で自動車を1台作るより2台作れた方が、利益が上がるという話です。

典型的なROIC構造に見る3つのビジネスパターン

この「利益率」と「回転率」の組み合わせによって、企業のビジネスモデルは大きく3つのパターンに分類できます。

パターン1:高利益率・低回転型(厚利少売)

これは、利益率は非常に高いが、大量には売れないビジネス構造です。

  • 特徴:高い利益率を確保するために、少量生産や付加価値の高い商材を扱う。
  • 例:高級品(フェラーリなど)、不動産(特に賃貸)、製薬、インフラ。
  • 具体例(不動産):1棟マンション(投下資本)は高額(1億円など)だが、家賃収入が自動的に入るため営業利益率は高い(50%超えもあり得る)。しかし、回転率は非常に低い(0.1など)。
  • 課題:設備や投資額が大きく、事業拡大が難しい面がある。

【注目すべき点】
本来、低回転型のビジネスにおいて、何らかの要因で回転率が劇的に高くなると、その企業は爆発的に儲かります。例えば、半導体の製造装置企業(投資額が巨額で本来低回転)が、市場の需要急増により高回転率を実現した状況がこれに該当します。

パターン2:低利益率・高回転型(薄利多売)

これは、利益率は低いものの、販売量が多く、資本の回転が速いビジネス構造です。

  • 特徴:薄利で大量に売りさばく。低価格の商品が多いため、世の中に受け入れられやすく、新しい店舗などを出せば成長を続けやすい。
  • 例:卸売業、小売業、商社、一時期の家電量販店。

【ROIC向上戦略】
パターン2の企業がROICを向上させるには、弱い方である利益率を上げることが有効です。例えば、卸売業者が、既存の顧客基盤を活かして自社製品を開発し、利益率を向上させることで、劇的な業績の伸びが期待できます。

パターン3:高利益率・高回転型

これは利益率と回転率の両方を兼ね備えた、理想的なビジネス構造です。

  • 特徴:非常に強力であり、長期投資において大きな強みとなる。
  • 例:プラットフォーマー(Googleなど)、現在の市場環境における一部の半導体関連企業。
  • 事例:ビジネスエンジニアリング
    過去に、元々低利益率・高回転型だったソフトウェア導入支援会社(ビジネスエンジニアリング)が、自社製品の開発・投入により高利益率・高回転型へと移行し、業績が劇的に伸びた事例が確認されています。

戦略的投資判断:増分ROICと未来の成長性

企業分析において重要なのは、過去のROICが高いことだけではありません。より重要視すべきは未来の成長性です。

成長の限界と増分ROIC

企業が過去にどれだけ高いROICを上げていても、それ以上の高いROICを生む追加的な事業に、さらなる資本を投下できなければ、成長は限界を迎えます

この未来の投資先から得られるリターンこそが増分ROIC(Incremental ROIC)の概念です。

投資家は、企業が現在行っている投資(投下資本)の先が、企業の強みなどを活かして高いリターン(ROIC)を生むところなのか、それとも現状維持のための投資にすぎないのか、を見極める必要があります。

企業価値の最大化とWACC

企業価値は、以下の数式で表現されます。

企業価値∝(ROIC−WACC)×投下資本

WACC(ワック:加重平均資本コスト)は、資本調達にかかるコスト(割引率)を示します。

企業価値を最大化するには、ROICが高い方が良いのは当然ですが、(ROIC – WACC)がプラスでなければなりません。もしROICがWACCを下回るような事業に資本を投下(投資)し続けた場合、投下資本が増えるほど企業価値は毀損されてしまうからです。

Microsoftの事例

Microsoftはかつてオフィス事業の成長限界が見え始めた時、将来的に高いROICを生むと判断したクラウドビジネス(Azure)に巨額の資本を投下しました。この未来への戦略的な投資が、現在の大きな成長を支えています。

Jカーブ効果:目先の利益操作を見抜く

現在のROIC(利益)を無理に高く見せようとする操作は、将来の成長の種を摘み、将来のROICを下げる原因となります。

目先の利益を上げる操作の例

1.分子(NOPAT)の操作:

  • 研究開発費(R&D)の削減:目先は利益が上がるが、将来の商売の種がなくなる。
  • ブランドや人材育成費の削減。

2.分母(投下資本)の操作:設備投資の先送り:将来的な競争優位性を失う。

再建途中の企業(例:日産)などは、苦境から脱するためにコスト削減や投資見送りをせざるを得ない場合がありますが、これは中長期的な成長を犠牲にしている可能性があります。

Jカーブ効果に見る最高の買い時

将来のために設備投資や人材投資を行う企業は、一時的に利益が減少し、株価が下がる(Jカーブの谷)ことがあります。

しかし、投資家がその投資が将来的に高いROICを生むと確信できれば、その株価が下がったタイミングは最高の買い時となり得ます。なぜなら、その投資は競争優位性を確保し、将来の成長分が乗っかることで、長期的に高いリターンが得られるからです。

長期投資においては、ROICが高いリターンを生む事業に投資を続ける企業こそが最も強い企業だと言えます。

まとめ:概念を捉え、企業の方向性を見極める

ROICを分析する上で、数字を厳密にチェックすることよりも、将来どのような方向性(ベクトル)に向かうのかという概念を捉えることが非常に重要です。

利益率と回転率の分解を通じて企業の強みや弱みを理解し、さらにその企業が未来の増分ROICを高めるような戦略的投資を続けているかを見極めることが、長期的な企業価値を見抜く鍵となります。

執筆者

執筆者:栫井 駿介

栫井 駿介(かこい しゅんすけ)

つばめ投資顧問 代表
株式投資アドバイザー、証券アナリスト
ビジネス・ブレークスルー(株)「株式・資産形成実践講座」講師

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