投資家の皆さんは、投資を行う際にどの指標を最も重要視するでしょうか?利益、売上高、営業利益率など、多くの指標がありますが、長期投資家として企業の分析を行う中で、結局これが一番大事だと確信している指標があります。それが、ROIC(ロイック)と呼ばれるものです。
本シリーズの第1回目は、ROICがなぜそれほど重要なのか、そしてどのように見ていけば良いのかについて詳しく解説します。本格的に投資を学びたい方、ご自身で勉強したい方はぜひこのシリーズを通じて知識を身につけてください。
目次
投資家が最も重視すべき指標、ROICとは何か?
ROICは、日本語では「投下資本利益率」と呼ばれます。
ROICは、分母に「投下資本」を、分子に「NOPAT」(みなし税引後営業利益)を用いて計算されます。
これはトータルで見たときに、出来上がりの数字として「これを抑えておけば間違いない」と言える指標です。
企業の成長サイクルとROICの概念
企業は一度利益を出して終わりではなく、ゴーイングコンサーン(継続企業)の前提のもと、営業活動を続け、大きく成長していくことが前提とされます。企業が大きく成長するメカニズムは、稼いだ利益を再度事業に投資し、さらに大きな利益を稼ぐというサイクルを繰り返すことで、雪だるま式に大きく(複利的に)なっていくという考え方に基づいています。
この「稼いだ利益を再投資して稼ぐリターン(利回り)」を簡単に示したものが、ROICなのです。ROICが高いほど、その企業は投じたお金に対して効率よく利益を稼いでいる、つまり企業の投資リターンが高いことを意味します。
ROEとの決定的な違いとROICの優位性
ROICは、皆様にも馴染みのあるROE(Return on Equity:株主資本利益率)と非常に似た指標です。
ROEの概要と弱点
ROEは、エクイティ(株式資本、株主資本)に対してどれだけ利益を生んだかを示します。企業の資本がどれだけ効率的に稼がれているかを示す重要な指標です。
しかし、ROEには大きな弱点があります。それは、財務テクニックで操作可能という点です。
例えば、自己資本比率50%でROEが5%の企業が、自己株式取得によって自己資本比率を25%に半減させたとします。この場合、計算式の分母(自己資本)が半分になるため、ROEの数値は自動的に2倍、つまり10%になってしまいます。このように、ROEは財務的な手法によって見かけ上引き上げることが可能であり、必ずしもフェアな指標とは言えません。
ROICの優位性
これに対し、ROICは「本当の実力」を表します。
ROICは、上記のような財務テクニックによって数値が変動しないため、財務に関係なく「投じたお金がどれだけ利益を稼いでいるか」という、企業の本質的な投資リターンを示すことができます。
高いROICが実現する複利的な成長
ROICが高い企業は、低い企業に比べて、より大きな資本に効率よく利益を再投資できるため、複利的に企業価値や利益が大きく成長していきます。
ベンジャミン・グレアムが述べたように、企業の株価は短期的に見れば「人気投票」ですが、長期的には「重量計」であり、価値のある企業、たくさん利益を産む企業が最終的に株価も伸びます。私たち長期投資家は、この高いROICを出し続けられる企業を探し出すことが重要となります。
企業の実態を深く知る「ROICツリー」の分析手法
ROICが優れているのは、単に数字の良し悪しを判断するだけでなく、その企業の何が一体強いのかを分解し、企業の実態を全体像として把握できる点です。この分析手法を「ROICツリー」と呼びます。
ROICの計算式(みなし税引後営業利益 ÷ 投下資本)は、以下のように分解することができます。
ROIC=営業利益率×投下資本回転率
1. 営業利益率(売上高営業利益率)
- 売上高に占める営業利益の割合を示します。
- さらに、売上高原価率や売上高販管費率(研究開発費、人件費、広告宣伝費など)に分解されます。
2. 投下資本回転率
- 売上高 ÷ 投下資本で計算されます。
- 投じた金額(資本)に対し、年間で何周分の売上を上げられたかを示します。
- さらに、運転資本回転率(売上債権、棚卸資産、仕入資産)と固定資産回転率(無形資産、有形固定資産)に分解されます。
分析の応用例:商社のビジネスモデル
例えば、商社(卸売業など)の業界は、一般的に営業利益率が非常に低い傾向にあります。しかし、商社は大量のものを仕入れ、薄利多売で販売するビジネスモデルのため、「投下資本をめちゃくちゃ回す」こと(高い投下資本回転率)によって、結果的に低い営業利益率であってもROICを高く保つことができるのです。
この分解を見ることで、企業活動は「いかにそれぞれの項目を工夫して最終的にROICを高めるか」に集約されるべきであることが理解できます。企業は、営業利益率を上げる戦略(例:自社製品開発)や、投下資本回転率を上げる戦略(例:顧客を増やし回転を速める)の両方を取ることが可能だとわかります。
ROICを重視する3つの理由
ROICを分解・分析することには、以下の3つの大きな強みがあります。
1. 強みの源泉に直結する
- ROICツリーで分解することで、他の企業と比べて高い部分(その企業の強み)がどこにあるのかを見抜くことができます。
- 逆に弱い部分を認識することで、その改善が企業価値向上に向けた重要なKPI(最重要業績評価指標)となります。
2. ビジネスモデルを把握できる
- ROICツリーがあれば、その企業が一体どうやって儲けているのかというビジネスモデルをすぐに把握できます。
3. 未来の企業価値を決める
- ROICは、企業価値評価における割引率であるWACC(ワック)と一緒に見ることによって、その企業の理論価値を計算するために使われます。
- 【ROIC−WACC】がプラスになるかどうかで、その企業が価値を産んでいるかどうかが判断できるという、究極的に分かりやすい基準があります。多くの機関投資家がこの基準に基づいて企業価値を計算しています。
ROICの確認方法と注意点
ROICの数値を確認するには
ROICは、ROEやROAのように簡単には見つからなかったり、すぐには取れない指標であったりします。しかし、マネックス証券の銘柄スカウターなどのサイトでは、ROICの数字が記載されている場合があります。
例えば、トヨタ自動車のROICは4.24%といった数字が確認されています。
一般的に、優秀な企業は8%〜10%あるいはそれ以上の高いROICを記録していることが多いです。
伸びしろと概念の重要性
現在のROICの数値が低いからといって悪いわけではありません。大事なのは、その企業に「伸び代」があり、いかにROICが改善するかという点です。ROICツリーを分析することで、売上高や利益を伸ばすといった表層的な話ではなく、より深く具体的な改善ポイントを見抜くことができるようになります。この分析は、投資だけでなくご自身の会社の事業にも応用が効く話です。
また、ROICの概念(稼いだ利益をいかに効率的に次の投資へ回せるか)を理解することが非常に重要です。
弱点と概算方法
ROICの弱点として、会計基準によって計算が異なったり、そもそも計算がしづらいという点があります。
もし正確な数字がすぐに見つからない場合、ROICは概ねROEとROAの間の数値になるとざっくりと捉えて把握する、という方法が参考になります(ただし、詳細な分析時には正確な数値が必要です)。
まとめ
ROICは、長期的な企業の成長力、競争優位性、そして最終的な企業価値を総合的に測るための、最も包括的な指標です。
投資を行う際には、このROICを比較し、どちらが高いのか、あるいはこれから高くなりそうなのか、高いまま維持できそうなのかどうかを考えていくことが大切です。
今後、この学習シリーズでは、ROICツリーの各要素を深掘りし、実際の企業比較や、高いROICを生み出すビジネスモデルについても解説していく予定です。
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