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「株式投資で使えるMBAの知識」第3弾です。今回は経済学で勉強する「ゲーム理論」の考え方を使って、今のシャープの状況を分析します。
ゲーム理論とは
ゲーム理論とは、ミクロ経済学の一部を形成する理論で、1994/2005年の2回に亘ってノーベル経済学賞を受賞した研究としても有名です。
端的に言うと、相手の行動を読んで合理的に自らの戦略を策定しようとする学問です。代表的な例に「囚人のジレンマ」があります。犯罪者仲間の2人が逮捕され、司法取引で自白したら刑が軽くなると仮定します。どちらも自白しない方が犯罪がバレずに良い結果をもたらすはずなのですが、相手だけ自白すると自分だけ不利になるので、結局二人とも自白してしまうというものです。
ゲーム理論を掘り下げるとどうしても抽象的になってしまうので、この記事ではゲーム理論「的」な考え方を使ってシャープの現状を分析します。ゲーム理論について学びたい方は以下のサイトがとても良くまとまっているので、ぜひご覧ください。
シャープ経営陣のまずい交渉術
交渉相手が鴻海に絞られる前は産業革新機構も出資に名乗りを上げていました。その額3,000億円です。産業革新機構は、シャープを事実上解体してJDI(液晶)や東芝(白物家電)との統合を目論んでいました。
一方鴻海は、産業革新機構を3,000億円上回る6,000億円規模の出資を提案していました。銀行への支援要請はなく、経営陣も交代なしという破格の好条件だったと伝えられています。
鴻海案は(1)出資額が多い、(2)経営陣残留、(3)シャープの解体なしと、産業革新機構より明らかに有利なものでした。鴻海案を採らないとしたら、株主から訴えられる可能性がある上、自らも経営に残れるというわけですから、採用しないのは事実上不可能だったでしょう。
ただし、鴻海は以前も出資交渉で手のひらを返した「前科」があり、今回もその可能性を踏まえる必要がありました。
鴻海は、本音では少しでも出資金額を抑えたかったはずですが、産業革新機構に出資額で上回らなければ勝つ見込みはありません。何としても産業革新機構を蹴落とすことを考え、3,000億円も上回る金額を提示したのでしょう。一度交渉相手が絞られてしまえば、あとは交渉を優位に進められます。
出資条件の提示を受け、シャープは2月25日に鴻海への第三者割当増資を決議しましたが、これはシャープが一方的に行ったものであり、鴻海との契約はまだ発生していませんでした。デポジットの1,000億円も盛り込まれていましたが、契約自体が白紙のため効力を発揮していません。
シャープ経営陣は、産業革新機構が撤退する時点で、鴻海を何らかの法的拘束力で縛るべきでした。何の拘束力もなく産業革新機構が撤退した時点で、あとは鴻海のやりたい放題です。これではあまりにお粗末と言われても仕方がありません。
最悪は上場廃止
こうしてやりたい放題となった鴻海ですが、直近では「偶発債務」を理由に出資額の引き下げを要求しています。
鴻海は出資を含め総額で6000億円超の支援を予定しており、最大2000億円規模の減額案を提示した。ただ協議の中では減額幅を1000億円にするなど大幅圧縮の意見も出て調整が続いている。出資額が減った場合でも株式の買い取り価格を引き下げ、出資比率は当初予定の66%になる見通し。(日本経済新聞)
偶発債務は恐らく交渉を有利に進めるための難癖でしょう。出資額は抑えながら、議決権の3分の2である66%は抑えたいということで、ケチケチ戦略が幅を利かせています。
議決権比率66%を確保したまま普通株出資分の1,000億円を減額しようとすると、株式の発行価格は88円となります。本日(2016年3月23日)の終値が130円ですから、鴻海は約3割値切って株式を取得しようとしているのです。もちろん、既存株主からみれば株式価値の毀損となります。
さらに言うと、鴻海にとって最も望ましいのは、既存株主を全て排除して債務も減額することです。そのためには、民事再生法(または会社更生法)を適用し、100%減資することが最良の方法となります。その後に出資すれば、出資金額に関わらず両方が達成できるだけでなく、再建もスピードアップが望めます。
民事再生法が適用となった場合、シャープは原則として上場廃止となります。あくまで最悪のケースですが、そのリスクまで頭に入れて投資を考えるべきでしょう。
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