シャープが台湾企業の鴻海(ホンハイ)から7,000億円の出資を受け入れる支援案を優先的に検討しているというニュースが流れました(NHKニュース)。このまま進めば、鴻海が事実上シャープの経営権を握ることになります。
液晶への巨額投資が苦境を招いた
まず、シャープがなぜこのような状況に陥ってしまったのか整理します。
シャープといえば、「AQUOS」ブランドに代表される液晶が有名です。特に2004年に三重県の亀山に工場を建設してから液晶中心の経営へと舵を切りました。売上高に占める液晶部門の割合は3割に上り、自社製品のテレビなどを含めるとさらに高まると見られます。
実は今、この液晶部門が最大のネックになっています。家電量販店に並ぶテレビの値段を見ているとわかりますが、液晶の価格は下落を続けています(ガベージニュース)。液晶には特別な技術があるわけではなく、世界中で大量生産された結果、供給過剰により価格が下がってしまったのです。これを「コモディティ化」と言います。
シャープは、液晶を作れば作るほど赤字を垂れ流すような状況に陥ってしまいました。しかし、それだけなら生産をストップすればいい話です。実は、会計的にもっと厄介なのが「減損処理」です。
価格が下がったら既に作ってしまった在庫の価格を見直す必要があります。ここで発生する損失は営業利益の減少として現れます。さらに、液晶工場が想定よりも利益を生み出せないことが分かると、工場自体の価値を見直さなければならなくなり、このマイナス分が特別損失として現れます。この処理がずるずると続き、2008年度以降の度重なる赤字により債務超過寸前となってしまったのです。
結果から見ると、儲からない液晶事業に巨額投資をしてしまったことが大きな誤りだったということになります。
鴻海の強みはいいものを安く作ること
それでは、7,000億円の出資を提案している鴻海とはどんな会社なのでしょう。
起源は1974年に現会長の郭台銘(英語名:テリー・ゴウ)が設立した会社で、電子機器の製造を請け負います(これをEMSと言います)。代表作は何と言ってもiPhoneで、スマートフォンの普及とともに会社を大きくしてきました。昨年度の売上高は15兆円に及び、これはシャープとソニーとパナソニックを足したくらいの大きさです。
ビジネスモデルは、いいものを、とにかく安く、大量に作ることです。台湾企業ですが、生産拠点の多くは中国にあります。台湾と比べて人件費が安いからです。
しかし、中国の人件費高騰やいつまでもiPhone頼みというわけにもいかないでしょうから、次の一手を虎視眈々と狙っているのも確かです。2012年にもシャープへの出資を打診していますが、この時はシャープの隠れ債務が問題となり、最終的に堺工場の買収のみにとどまりました。今回は再チャレンジということになります。
鴻海がシャープを買収する狙い
鴻海がシャープを買収する狙いは何でしょう。
様々言われていますが、やはり一番大きいのは技術だと思います。シャープの大型液晶は既に競争力を失っていますが、スマホに使われる中小型液晶パネルでは優位性を保っています。この技術を手中に収めることで、EMSとしての鴻海の強みを強化しようとしているのだと思います。
ちなみに、技術流出が問題と騒がれていますが、その議論は的を外していると思います。鴻海がシャープを買収してしまったら、鴻海はシャープから技術を流出させることなく、堂々とシャープの名前(ただし鴻海の資本)で生産することができます。
産業革新機構は二重の敗戦
鴻海の資本力とこれまでに培った低コストでの生産能力があれば、中小型液晶パネルでもこれまでのシャープ以上に利益を上乗せすることができるでしょう。そうなると、技術こそ流出しないものの、利益を得るのは資本を拠出する鴻海ということになります。ニュースで欠けているのはこの視点です。
そうなった時に、一番困るのはどこでしょうか。それは、同じく中小型液晶パネルに強みを持つジャパンディスプレイです。鴻海の資本力とビジネス力を前にして、ジャパンディスプレイは太刀打ちできないでしょう。
皮肉にも、ジャパンディスプレイの筆頭株主は、支援策で競合している産業革新機構です。鴻海×産業革新機構の争いは、今のところ産業革新機構の完敗の様相です。
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