トランプのコロナ感染で「バイデン有利」に傾く米世論
先週のレポートで「トランプ大統領の新型コロナウイルス感染で市場は不透明に」と言いましたが、早くもその方向性が見えつつあります。世論調査では、トランプ大統領が支持率を落とす一方、バイデン候補が上昇しているのです。
トランプ大統領の感染は、現政権における感染対策失敗の象徴的な出来事であり、世論は愛想を尽かしつつあるように見えます。
もっとも、前回の大統領選挙でも、下馬評はヒラリー候補有利でしたから、事前の世論調査で決めつけることはできません。しかし、確率としてバイデン有利には違いありません。投資家としては「バイデン大統領誕生」のシナリオを考える必要があります。
共和党は法人減税で株価上昇、民主党は・・・
バイデン候補の経済政策は、以下のようなものです。
ただ、これだけでは特徴がいまひとつぼやけてしまいます。そこで考えなければならないのが、「共和党」と「民主党」の違いです。米国ではこの二大政党が代わる代わる政権を担う二大政党制となっています。
共和党はいわゆる「保守政党」に分類されます。白人・キリスト教という昔ながらのイメージのアメリカ人が主な支持層です。経済政策は大企業寄りとされ、トランプ政権では法人税を35%から20%に引き下げました。これが株価上昇の原動力となったことは間違いありません。
一方の民主党は「革新政党」に分類されます。支持者は人種的マイノリティや女性に多く、近年は都市部での支持も高いとされます。経済政策は「大きな政府」を志向し、財政拡大に積極的です。かつて世界恐慌からの回復のために「ニューディール政策」を行ったルーズベルト大統領も民主党です。
バイデン政権で注目すべき「長期金利の上昇」
民主党のバイデン候補が大統領になると、これまでの共和党の政策から一転し、低所得者層を保護する政策を掲げる可能性があります。すなわち、法人税は増税し、財政支出を拡大させるのです。
新型コロナウイルスの影響をより大きく受けているのは、間違いなく低所得者です。現場職である彼らは真っ先に解雇されました。一方富裕層は、未曾有の金融緩和を追い風とした株式市場の回復によりむしろ資産を増やしています。ただでさえ貧富の格差が大きな社会が、さらに分断されつつあるのです。
それを修復するため、法人税の増税あるいは資産課税の強化や、雇用創出のための公共事業積極化などの政策が考えられるでしょう。
法人税の増税や資産課税の強化は、株式市場にとって純粋なマイナスです。企業や資産家の利益に対し、政府の取り分が大きくなることを意味します。ただし、アメリカでは株価が政権支持の生命線であることも確かですから、下手に株価を下げる手を打ってくるとも思えません。
そうなると、この状況下で取りやすいのが財政政策です。公共事業を行い、コロナ禍で職を失った人に対して働く場を提供することになります。困窮する低所得者に対しては支持される政策となるでしょう。
当然これは財政支出を伴います。しかし、ただでさえコロナ禍で未曾有の支出を行っている中で、更に支出を拡大させたらどうなるでしょう。投資家としては、政府の財政状況を不安視し、国債を売るという行動に出ます。
国債が売られて価格が下がるということは、長期金利の上昇を意味します。FRBは短期金利を政策でコントロールしていますが、長期金利はコントロールできません。これは市場原理で決まるのです。
その長期金利ですが、足元でじわじわ上昇しつつあります。これは、バイデン大統領誕生を織り込みにきているようにも見えます。まだレンジの範囲内とも言えますが、今後の動きはよく見ておくべきです。
注目すべきは「テスラ」の株価
金利が上昇すると、株価へも影響してきます。これまでハイテク株を中心に、成長株なら高いPERを無視して上昇する展開が続いていました。金融理論的に考えると、低金利は成長株の高PERを正当化するものとなります。
すなわち、バイデン大統領誕生により「低金利」という前提が崩れると、これまで青天井で上がり続けたハイテク株が勢いを失い、「適正」と考えられる水準まで下落する可能性が大いにあるのです。これが株式市場全体を引き下げる引き金ともなりかねません。
もっとも、GAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)などはまだ冷静さを保った価格に見えます。問題は、話題性や短期利益の追求により上がっている銘柄であり、テスラはその代表格と言えるでしょう。
米長期金利とテスラの株価―これからこのあたりの動きを注意深く見守りたいと思います。
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