ファイザーのワクチンが抱える疑念。コロナ解決の兆しも楽観できない株式市場。長期投資家が買うべきは「成長株」「割安株」のどっちか?

ファイザーのワクチンは本当に「使える」のか?CEOは発表当日に60%の株式を売却

11月9日(日本時間10日)、ファイザーが新型コロナウイルスワクチンに関する中間発表を行い、開発中のワクチンが感染予防に「90%以上有効である」と発表しました。市場の想定以上の開発スピードを受け株価は上昇し、日経平均株価は大統領選の流れを受けた29年ぶりの高値をさらに更新しています。

このワクチンについて少し踏み込んでみたいと思います。

まず、このような「中間報告」が行われること自体が異例なことです。医学的なニュースに関しては、通常「査読」が済んだものが公表されます。しかし、この発表では論文は発表されず、「90%以上」というのが発症を防ぐ効果なのか重症化を防ぐ効果なのかはっきりしていません。また、安全性についての検証も終わっていないことから、本当にすぐに使用できるものなのか、これだけで判断することは困難ということです。

【参考】「9割に有効」のファイザー社ワクチン候補、発表を読み解く(ナショナル・ジオグラフィック)

わかっているのは、11月の第3週には必要なデータが出揃い、FDA(アメリカ食品医薬品局)に緊急使用許可を申請するということです。この段階で本当に「使える」ものなのかどうか、一旦の結論を迎えることになるでしょう。

ただ、これを受けて「コロナ終了」とはならないと思います。ワクチンを世界中に行き渡らせるほどの量を製造するには相当な時間を要するでしょうし、ワクチンの移送・保管についても「マイナス70度以下」でなければならないとされています。その設備を一朝一夕に整備するのは容易ではありません。

さらに不可解なのが、ファイザーCEOのアルバート・ブーラ氏が、上記発表のその日に持ち株の60%(約6億円)を売り抜けていたことです。ファイザーの説明では、8月に売却株数と売却時期を決定していたとのことですが、一方で「イレギュラー」な発表のタイミングが売却日と重なったことには違和感を覚えざるを得ません。

また、発表日が大統領選後になったことも、政治的な意図を感じさせるものです。

【参考】米ファイザー、ワクチン治験結果を大統領選前に公表せず(10/28 日本経済新聞)

いわゆるインサイダー取引には該当しないと思いますが、ワクチンが期待されるほど「世界を救う」ものではない可能性も想定されます。楽観のしすぎは禁物です。

トヨタが利益予想を2倍に引き上げも楽観できない理由

もっとも、ワクチンの開発に進捗があったことは歓迎すべきニュースです。私としても、早くコロナが収束して自由に動き回れる日を待ち望んでいます。

しかし、コロナの終わりが見えただけで上がり続けるほど、株価は単純ではないように思えます。

目下ハイテク株などの「withコロナ」銘柄が軟調となり、従来型企業の「afterコロナ」銘柄が上昇しています。前者は利益確定、後者は下落からの反発というわかりやすい展開です。

日本株をみても、トヨタ自動車が予想利益を当初計画の2倍にまで上方修正したことにより、株価は上昇しています。ワクチン開発とあわせて、このような上方修正の動きも従来型企業の株価上昇の呼び水となっていると思われます。

ただ、業績に関してはあくまで冷静に見る必要がありそうです。トヨタを取っても、業績予想を上方修正したとはいえ昨年度の半分であり、下期を見ても減益となります。つまり、まだまだ「コロナ前」には戻らないということです。

足元では1日の新型コロナウイルス新規感染者が最多を記録しています。これまでは、政府の補助もあり企業倒産や失業は「凪」の状態でしたが、いよいよこらえきれずに倒れてくるところが続発してくると考えられます。経済的な「冬」はまだまだこれからです。

景気が悪くなれば、多くの企業は減益となるでしょう。減益が続けば、いつまでも株式市場が今の高値を支えきれるとは思えません。

すなわち、現在の相場を表すなら「ハイテク銘柄も高いし、従来型銘柄も今後数年の業績を考えると楽観できない」ということになります。

チャンスはない?いえいえ、チャンスだらけです!

それでは、長期投資にとって全くチャンスがないのかと言えば、私は決してそうは思いません。なぜなら、私たちが投資するのは「目先のトレンド」ではなく、「長期的な変化」だからです。

ハイテク株が上昇してきたのは、コロナ禍での好調はもちろんのこと、コロナによって「パラダイムシフト」が一気に進んだからです。マイクロソフトが言うように「今後2年で起こるはずだったことが2ヶ月で起きた」のです。そして、その方向性は逆戻りすることはないでしょう。

したがって、もしコロナが収束するとして、これらの銘柄が利益確定の売りに押されて下がるようなら、十分にチャンスがあると考えます。例えば、DXど真ん中の銘柄がPER15倍などになっていたら、とても面白い投資案件だと思います。

一方で、従来型企業も捨てたものではないと思います。

伝統のある企業がなぜ生き残ってきたのかを考えると、そこには必ず理由があります。数十年も続いた傾向が急に変わることはありません。そこに少しだけアクセントを加える経営ができたら、また成長軌道に乗ることができるでしょう。少なくとも、今ゼロから会社を立ち上げるより圧倒的に確率が高いです。

これらの企業はコロナ禍でかなり売り込まれ、コロナ前の業績で見るとPER10倍を割るようなところがゴロゴロしています。経済情勢が悪化すれば一時的に業績が悪くなることは避けられませんが、景気は必ず循環するものです。

すでに割安で、一時の低迷を経て再び成長するなら、回復時の株価の伸びはとてつもないものとなります。そのような企業をコツコツ買い集めれば、リーマン・ショック後にアベノミクスが来た時のように大きく花開くことになるでしょう。

一般的に前者は「グロース株投資」後者は「バリュー株投資」と呼ばれますが、その本質変わりません。どちらも「良いものを安く買う」ということです。この視点さえブレなければ、あなたも腰を据えて投資に臨むことができるはずです。

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