上昇相場はどこまで続くか?MMTの考え方とその限界
株価が上昇を続けています。日経平均株価はバブル崩壊後の高値を更新、ダウ平均は史上初の3万ドルを超え、ナスダックは最高値をなお更新中です。
株価を押し上げる根本的な原因になっているのが、金融緩和であることは間違いありません。企業業績が大きく上向かなくても金融緩和によって株価が上がるのは、以下の公式によって説明できます。
PER=1/(r-g)
※r=金利+リスク、g=永続成長率
金利が下がるとrが下がり分母が小さくなりますから、PERは上昇します。今はどの国も「ゼロ~マイナス金利」ですから、分母は過去に例を見ないほど小さくなっているのです。
この状況下で「リスクの小さい企業」や「成長率の高い企業」のPERは限りなく上昇します。分母がゼロに近づけば、PERは無限大に発散するのです。したがって、金融緩和が長引けば長引くほど、株価にはまだまだ上昇余地があることになります。
だからこそ、多くの投資家はこの金融緩和がいつまでも続くことを望んでいます。FRBは少なくとも2023年末までゼロ金利を続ける方針を表明しています。これはコロナが終わろうと、終わるまいと、そのような方向になりそうです。
金融緩和は、金融商品の値上がりはもとより、実体経済にもお金を回すことを目的とします。こうして経済が元気になれば、多くの人はハッピーになれるでしょう。
金融緩和と財政拡大を続けることでお金をジャブジャブ回し続ければ、みんなハッピーであり続けられる―こう考えたのが昨今経済学で話題になっているMMT(Modern Monetary Theory)です。かつては馬鹿げた理論とされていましたが、近年は「まともな」学者でこの考えに傾倒する人も少なくなくなってきました。
この理論の拠り所となっているのが、日本経済の状況です。日本では、1995年以降長年にわたってほぼ「ゼロ金利」が継続し、同時に国債残高を世界最大級まで増加させてきました。いわば、MMTを実践してきたのです。
お金を配り続けることの最大の弊害はインフレです。従来の理論ではこれが大きいがために、むやみな金融緩和は慎むべきだとされてきました。第一次世界大戦後のドイツや世界恐慌後の日本でも国債増発によるインフレに苦しみました。
ところが、近年の日本ではいくら金融緩和と国債増発を行っても、インフレどころかデフレを脱却するのがやっとというところです。これを見た学者が「うまくやれば大丈夫じゃないか」と考えるようになったのです。
MMT論者も、インフレを無視しているわけではありません。その証拠に、彼らの枕詞にはいつも「インフレが起きなければ」と付きます。要はここが全てなのです。
インフレの弊害―「持つもの」と「持たざるもの」の分断
金融緩和と財政拡大でインフレが起きるかどうかはさておき、インフレの弊害にはどのようなものがあるのでしょうか。
長期的に見れば、インフレはやがて平準化されます。物価が上がっても、同時に賃金も上がればプラスマイナスゼロとなるからです。「昔の100円が今の1万円の価値」などとはよく言います。時間をかけてインフレになれば、困ることはほとんどないのです。
ところが、これが短期間に起きると様々な弊害を生みます。
賃金の上昇は一般的に時間がかかりますから、その間に物価だけが上昇してしまったら、明日のごはんも買えないという状況になってしまう可能性があります。これでは「長期的に見れば」なんて悠長なことは言っていられません。
もっと困るのが年金生活者です。年金もインフレほど上昇しないことがほとんどで、日本でも「マクロ経済スライド」と言って、物価ほど年金が上がらない計算式がすでに組み込まれています。額面は上がっても、買えるものは少なくなってしまうのです。ソ連崩壊後のロシアでは、高齢者は物が買えず家庭菜園でしのいだと言います。
もう一つは格差の拡大です。インフレになれば、株や不動産の額面は大きく上昇する一方、資産の大半が預金の人や労働者、高齢者はその恩恵を受けられません。「持つもの」と「持たざるもの」が明確に分断されてしまうのです。
現時点でもアメリカでは一握りの富裕層と多くの労働者の間の格差が問題になっています。ここでインフレが起きればその格差はさらに拡大し、これが「不況下のインフレ」なんてことになると社会不安を引き起こしかねないのです。
金融相場の終わりは「物価」で見極めろ!私たちが持つべき原則とは?
このように、短期間で起きるインフレには間違いなく弊害があります。だからこそ、金融当局はそうならないように慎重に政策を決定しなければなりません。
FRBも「物価上昇率2%を達成するまでは金利を引き上げない」と言っていますが、逆に言えば2%に到達したら蛇口を締める用意があるということです。
FRBが蛇口を締めるなら、これまでのような「無限の株価上昇」というストーリーは描きにくくなり、金融市場の雰囲気も変わるでしょう。すなわち、これから私たちが見るべきは「物価上昇率」ということになるのです。これが急上昇するようなら、FRBが態度を変えるには十分な理由になります。
もっとも、すでに相当量のマネーが世界に出回っていますから、蛇口を締めても時すでに遅しで、インフレが加速する可能性もあります。そうなると、インフレにあわせて株価も上昇するということになるでしょう。
すなわち、金融政策の転換によって上昇を続けてきた株価が下がる可能性は十分にありながら、抑制がきかずにインフレが加速し、それにあわせて株価も上昇することも考えられます。
そんな中で私たちができる対策としては、やはり「必要以上に割高でない優良株を持ち続ける」ということに尽きるのではないかと思います。これなら金融政策の転換によって受けるダメージも小さいですし、インフレの際は順当に上がることになるでしょう。
市場の先行きはいつも読めません。だからこそ、私たちが安心して生活するには、いつも変わらない原則を持ち続けることが必要です。
時代遅れになるような原則は、そもそも原則ではない。
ウォーレン・バフェット
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入会を考えていますが、買ったら原則売らないとなれば、会員であり続けるメリットは、少ないのではないですか?
一定の資金を投入後は、上がるのを待つという事ですね。
投資姿勢と銘柄には、信頼できそうだから、じっと待つ月日と考えていいですか?
格差拡大対策のために累進課税があるのです。MMTでもかなり前の方に言っていますが。