LINEが「上場ゴール」ではない合理的な理由

スマートフォンのメッセージングアプリとして有名なLINEがついに上場することになりました。想定される時価総額は約6,000億円と、今年度で最大になるとみられています。一方で昨年度の利益は赤字であり、手放しで投資できる状況でもありません。バリュー株投資の観点から、LINEへの投資について考えます。

前期の業績はまさかの赤字

LINEの事業内容は、以下の東京証券取引所のサイトから読むことができます。

LINE株式会社  上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)

上記の資料によると、昨年度の売上高は約1,200億円、純利益は約80億円の赤字です。これだけ有名なIT企業でも赤字になるというのは意外な感じがします。

2014年度は約120億円の黒字を出していましたが、上場が遅くなってしまい、結果的に赤字決算で上場せざるを得なくなりました。一部報道では上場の絶好のチャンスを逃したとも言われています。

スマートフォンのヤフーを目指せ!

しかし、それで評価が下がるなら、バリュー株投資家にとっては大きなチャンスです。LINEは国内のスマートフォンの約9割にダウンロードされていると言われており、他のアプリを引き離し圧倒的な状況です。詳細については以下の記事をご参照ください。

LINEの強みと儲けのしくみ 上場控え、立ち入り検査の影響は=栫井駿介

インターネットの世界では、最初は無料で使うことができ、そこから広告や様々な有料サービスで収益を獲得していく「フリーミアムモデル」が主流です。LINEも例外ではなく、今はまだ多くのサービスを無料で提供している段階です。

LINEが経済的な優位性を確保するためには、スマートフォンが主流になる社会においてどれだけ人々の生活に浸透できるかが重要です。みんなが引き続きLINEを使い続けるならば、経済学の用語で言う「ネットワークの経済性」が働き、独占的な市場を形成することが可能です。利益を出すのはそれからでも遅くありません。

同じような方法で市場シェアを獲得してきたのが、インターネット黎明期から独占的な立ち位置を築いてきたヤフージャパンです。ヤフージャパンの主な収益源は広告であり、様々な有料サービスも順調に推移してきます。その結果、19年連続の増収増益を達成しています。

LINEが掲げるプラットフォーム戦略が成功するならば、その後は安定した利益を創出し、高い企業価値を実現することが可能です。投資家は、それを見極められるかどうかを問われているのです。

LINEが「上場ゴール」ではない理由

IPO投資において最も気をつけなければならないのは、いわゆる「上場ゴール」です。上場ゴールとは、創業者がIPOで株式を売却して多額の利益を得ることが目的となってしまい、その後の株価は見るも無惨に下落していく現象のことを言います。

上場ゴールでないにしても、多くのIPO銘柄は公開価格・初値が高くなりすぎるため、バリュー株投資には向いていません。しかし、LINEに関してはそう言い切れない側面があります。

LINEの株主は、韓国の大手IT企業である「ネイバー」です。今回のIPOでネイバーは保有している株を売り出さず、上場後も8割以上の株式を持ち続けます。つまり、上場時の株式売却により利益を確保する「上場ゴール」には当たらないのです。

ネイバーは韓国最大の検索サイトを運営しています。韓国ではGoogleを上回るトップシェアを誇っている、世界でも極めて異例な企業なのです。一方で、韓国のドメスティックな会社ですから、収益が伸び悩んでいるのも事実です。

収益が伸び悩むネイバーにおいて、LINEは子会社として重要な役割を果たしています。連結売上高の約4割を占めるLINEは、ネイバーにとって手放すことのできない重要な子会社なのです。

グループの成長を考えると、ネイバーはこれからも責任をもってLINEの成長を見守っていくと考えられます。LINEの上場はゴールではなく、公募増資によって成長資金を確保するための手段なのです。

焦って抽選に申し込む必要はない

バリュー株投資家はLINEのIPOに申し込むべきでしょうか。

時価総額6,000億という数字は、現在の売上高や利益では正当化することが難しい水準であり、PERやPBRで計算できるものではありません。

その他の多くのIPOと違うのは、売却株式数が非常に多いことです。規模の小さなIPOでは、株式の供給に対して需要が大きくなりすぎて割高な初値がつくことが多いのですが、LINEではそのようなことには起こりにくく、抽選に当たってもそれだけで儲けるというわけにはいかないでしょう。

足元の業績が赤字ということもあり、上場後も株価が低迷するかもしれませんが、バリュー株投資家にとってはそのような時こそチャンスです。

業績に表れていないものの、スマートフォン業界では圧倒的な地位を築いていますから、長い目で見て価値が高まる可能性は十分にあると思っています。その成長期待に対して安い株価がつくようであれば、買いの好機が訪れるかもしれません。

上場するからと言って、慌ててIPOの抽選に申し込むことはありません。上場後に参加しても十分に間に合う銘柄です。これからの動向を注視しながら、長期的な目線で戦略を評価していきたいと思います。

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執筆者

執筆者:栫井 駿介

栫井 駿介(かこい しゅんすけ)

つばめ投資顧問 代表
株式投資アドバイザー、証券アナリスト
ビジネス・ブレークスルー(株)「株式・資産形成実践講座」講師

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