日立1兆円買収!高値づかみ?金額の妥当性とこれからの見通し

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以下、文章化したものです。

 


今回は日立製作所についてお話ししたいと思います。

日立製作所がアメリカのIT会社グローバルロジックを買収するのですが、その金額がなんと1兆円という非常に高い金額となっています。

この1兆円というと日本の電機業界では過去最大級の数字という事になっています。

日本企業が海外企業を買収するというとやはりなんとなく嫌な予感がします。

何故かというとどうしてもかなり高値づかみしてしまう傾向があるからです。

過去には日本板硝子が自分の会社よりも大きなピルキントンという会社を買ってしまって、その結果財務的にもとても苦しんだというのが過去にありました。

そう考えるとやはり投資家としてはちょっと心配な案件という事になります。

1兆円は高い?

ただ金額だけで判断してもいけないのでその中身についてよく見ていく必要があります。

日立が買ったのがこのグローバルロジック社というアメリカのITシステム開発会社です。

この業績がどの程度のものなのかというと、今期の予想で売上高が12億ドル、日本円にしておよそ1300億円、そして調整後EBITDAが2.49ドル、日本円で260億円という数字です。

これに対して買収金額1兆円という事ですから売上高のおよそ10倍近い金額を払っているという事になります。

一般的な企業だったら売上高ぐらいの金額で売買されるという事が多いですし、ITでは利益率が高いという事を考えても、やはり高いという事になります。

それをもっと具体的な数字で見ると、EBITDAという数字を用いる事が多いです。

特に買収の場合は負債も含めて考える事が多いですから、負債を含めた買収金額をこのEBITDAで割った倍率というのがあります。

今回この数字が37.4倍という数字が出ています。

一般的にこのEBITDA倍率というのは8倍から10倍程度が平均的と言われます。

確かにIT企業で成長性も収益性も高いとは言うのですが、一方ではプラットフォームを提供している会社ではなくて、人の手を使ってシステム開発なんかを行っている会社です。

平均の10倍程度というところに対して37.4倍とおよそ4倍近い金額を払ったというのは、冷静な数字で考えるとやはり割高と言わざるを得ません

この日立の社長は会見で割高だとは思っていないという事を言っているのですが、出しているプレスリリースを見ますと、二十数パーセントの成長が今後何年も続くというようなシナリオを描いています。

そんな急速な成長はなかなか続くものではありません。

更にはそもそも今期の予想数値というところにも疑問が残ります。

公表されている1年前の2020年3月期ですが、ここは売上高が7.7億ドル、それからEBITDA1.8億ドルという数字です。

これが何故かこの2021年3月期には売上高が12億ドル、EBITDAが2.4億ドルになるというかなり高い成長を描いています。

19年から20年にかけての成長を見てもおよそこれに関しては、1億ドルほどしか増えていないところが、いきなり5億ドル近くも増えていて、それからEBITDA関しても3000万ドルぐらいしか増えてなかったのが、急に6000万ドルも増えるという数字になっています。

正直この予想数値というのはグローバルロジック社は上場企業でもないので、結構を自由に作れてしまいます。

今期の予想に関しても結構高い印象は受けましたが、確かにコロナでDXが流行ったという事はありますが、それだけではかなり調子のいい数字ですし、ましてそこから先年率二十数パーセントもの成長を続けていくというのは、なかなか現実的ではないという事が考えられます。

ファンドと投資銀行に高く”買わされた”

では日立が何故こんな高い買収を行ったのかというと、この案件の詳細というのを見れば見るほど明らかになってきます。

このグローバルロジック社の株主が誰かという事を見ますと、一つはこのカナダ年金制度投資という事で、日本でいうところのGPIFみたいなもので要は投資ファンドです。

更にはこのパートナーズグループというのは投資ファンドですから、要はファンドが持っていた訳なんです。

ファンドというと上場企業を持っていたのだったら、その株価変動によってやがて売却する事によって利益を得る、あるいは配当を貰うという事が出来るのですが、未上場企業を買うとどこかでやはり売却しないといけません。

それがIPOになる場合もあるのですがそうではない場合は、どこかの会社に売らなければなりません。

ではどこが買ってくれる会社はないかというのを常に探していたと思われます。

そういう時に間に入ってくるのがいわゆる投資銀行と言われる会社です。

外資系で言うとゴールドマンサックスとかモルガンスタンレーとか、日本でいうと野村証券、大和証券こういったところがこれらの会社の株式をいかにどの会社に売ろうかと、しかも投資銀行としてはより少しでも高い金額で売ろうとしてきます。

当然売り手としてもより高い金額で買ってくれるところを探している訳です。

実は私自身がこの投資銀行にかつて所属していた事もありまして、その辺は手に取るように分かるのですが、高く買ってくれるところないかなと探していた時に、この日立の中期経営計画を見てみます。

ここで2021中期経営計画という中で2兆円から2.5兆円の買収をするというような事を既に言っています。

およそ1兆円は既に使ったのですがまだ1兆円の枠が残っています。

この1兆円の枠というところに対して投資銀行はいかに企業を売ってねじ込むかという事を考えます。

これを実際の具体的な数値まで公表しているというような、もはや日立は隙だらけだったという事が出来ます。

しかも大企業ですから一度決めた計画をそう簡単に動かす事は出来ません。

そんな中でこのファンドと投資銀行というところが一緒になって、日立というところを見つけ出して買い手として選んだのではないかと思います。

もちろん日立だけではなくて色んな会社を実は競争させたと思います。

しかし日立がどうしても欲しいという事になったからこそ、これだけ高い金額につり上がってしまったのではないかと思います。

正直な妥当な金額で見たら3分の1ぐらいの値段であってもおかしくないような案件ではないかと思います。

ちなみに売ったのは実は投資ファンドだけではなくて、ここにある通りその他個人、経営等が10%を保有していました。

彼らも日立に株を売って現金が入って万々歳という事になりました。

おそらくしばらくは経営陣として残るかもしれませんが、やはりそういう人達はやがて出ていくものです。

そうやって経営陣を失って果たして日立が上手くコントロール出来るのかという疑問もまだ残っています。

事業の効率化は必要。しかしあまりに高い

ではそこまでして日立がこの会社を買う必要性があったのかという事について見ていきたいと思います。

日立の最近の動きを見ますとかなり”選択と集中”を進めてきていました。

ここにあります通り上場子会社である日立工機と日立物流、日立キャピタル、日立国際電気、この辺の一部をほかの企業に売却したりして、その直接的な自社のシナジーのないところを売って整理を行なっています。

この整理というのが重要で、日立というと沢山の子会社を持っている会社です。

逆に言えばそれだけやはり多くの会社を抱えていると、非効率になる事は間違いありません。

それを整理してきたというのがこれまでの流れという事になります。

一方で強めるべき事業というのは買収を行っていまして、例えばこのスイスのABBのパワーグリッド事業だったり、アメリカのオートメーションテクノロジーズ、更には上場子会社であった日立ハイテクノロジーズを完全子会社化しています。

そしてこのグローバルロジックが今回加わった訳ですが、要するに日立はITとか海外というところにこれから集中しようという戦略を立てています。

何故そうしているのかというとこの財務指標を見ればわかるのですが、これがセグメント別の業績です。

ITに関しては売上高は2割そこそこなんですが、利益で見ると36%と4割近いところを占めます。

利益率も11%と他に比べてもかなり高い水準となっています。

この日立ハイテクノロジーズは直近で子会社化したので、これを合わせるともう半分近い利益はITから上げているという事になっています。

他の事業はどうしても物を作るというとコストがかかるので、利益率はそんなに上がりません。

一方でITは値段に関しては言い値の世界だったりするので、利益率は上がりやすいというところがあって、更には社会的にもDXとかが求められているところで、今後ITを強化しようという流れだと思います。

日立としてはルマーダだというブランドを立ち上げて、ここでITとかDXをやっていくという事を積極的に謳っています。

そのルマーダをより高度化させる為、あるいは海外での売り上げを拡大させる為に今回の買収を行ったという風に見えます。

その戦略の流れという部分では決して間違ってはなくて、むしろあるべきレールに乗っかった流れだと思います。

ただこれに1兆円の金額を払ってしまうというのは、やはり高すぎると言わざるを得なくて、この1兆円も払ってしまったという事で、やがてはそこまで想定したほど成長しなかったという事になると、この1兆円はのれんという形で財務諸表に乗っているのですが、それを損失として計上しなければならなくなってきます。

将来的に数千億円の損失が発生する可能性があるという風に見ておいた方が良いと思います。

まして多くを借り入れによって行なっているので、財務状況も締め付けるのではないかという風に思っています。

ただ戦略としては間違ってはいないと思うので、これから淡々と戦略を進めていくのを見守るしかないという事になります。

もっと言えば日立の従業員数というとおよそ30万人います。

その30万人の中にはとても優秀な人たちが入っていると思います。

なのに売上高1300億円そこそこの会社を買わないと手に入れられなかったのか、今いる人材で出来なかったという事になると、やはり能力が足りてないのではないかという風に思える訳です。

未だに国内売上高が50%超で国内偏重で海外に少しでも軸足を置く為に海外を買収するという事はわかるのですが、同時に国内にいる日立の優秀な社員というのをもっと上手く使えない事には、日立の大きな成長というのは見込みにくい、今の段階ではその力強さが感じられないという事になります。

方向性としてはこのITの集中、それから海外売上の拡大、そしてソフトとハードの融合、IOTなど物を作るのが得意ですから、作った物に対してこのITのシステムを入れていくというのが一つのない強みだと思うのですが、そこをいかに伸ばせるか、そしてそれを日本だけでは市場が限界があるので、それを海外に売れるかというところが、これからの一つの注目点という事になります。

投資対象になる?

さて業績の推移ですが、これまで選択と集中を進めてきた事によって、売上高はゆるりと右肩下がり。

一方で利益率が向上した事によって利益は全体として見れば右肩上がりというところになっています。

直近ではコロナの影響もあって下落しているというところはあります。

株価は直近の買収を受けて下落しているのですが、この6ヶ月で見ると上昇基調という形になっています。

こんな中でPERはここだけ見ると12.9倍と安いという思えるかもしれませんが、ここで注意が必要です。

実はこの予想利益に関しては子会社売却の影響で、特別利益計上されています。

なのでPERはこのまま受け取ってはいけません。

その利益を除いて考えなければなりません。

とはいえコロナの影響も受けて現在少し分かりにくくなっているところがあるので、過去5年ぐらいの業績からPERを見積もると、およそ15倍から20倍程度のPERであるという事が出来ます。

実はこのぐらいの水準というのが過去10年くらいで見た時、ずっと15倍ぐらいの水準で推移してきました。

今後の成長性を考えても決して割安という状況ではないという事です。

割高でもないんですけれどもそんなに急に成長するような会社でもないので、無理に買うような状況ではないという風に思います。

もちろんこの成長戦略が功を奏するようだったら、面白いのですが、そこまで旨味がある状況では必ずしもないというのが私の捉え方です。

もちろん今後の戦略については注意深く見守っていきたいと思います。

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