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以下、文章化したものです。
今回は日本郵政についてです。
日本郵政ですが、2015年にオーストラリアの「TOLL」という物流会社を6200億円で買収しました。
ところがこの4月にその会社をなんと10億円で売却するというとんでもない事態となっています。
わずか6年で6000億円が消えてしまった訳です。
実は私はこの2015年にはまだ大手証券会社の投資銀行部門にいて、なんとこの日本郵政の上場担当として働いていました。
したがってこの辺の実情は比較的よくわかっているつもりです。
そこで何が起きたのかということをお話しします。
予算ありきのお粗末な買収
2015年というと、日本郵政は上場準備をまさに行っていたところです。
日本郵政だけではなく、子会社のゆうちょ銀行やかんぽ生命も上場するというところを決めて準備を進めていました。
証券会社はその上場の手伝いをして最終的に上場の主幹事という形でこの場合は財務省に選んでいただくということになるわけです。
まさにその証券会社で働いていたのですが、2014年の9月に上場の準備段階でゆうちょ銀行から1.3兆円を吸い上げました。
どういうことかというと、正直日本郵政としてはあまりお金がなかったのです。
このグループで儲かっているのはゆうちょ銀行やかんぽ生命などの子会社でした。
お金がない中でゆうちょ銀行は比較的儲かっている会社でした。
これらが上場してしまうと、他に株主ができてしまい、これまで資金の融通は自由に動かせていたところが簡単にはできなくなってしまいます。
そうなってはいけませんから上場前にお金がたんまりとあるこのゆうちょ銀行からお金を吸い上げていく方法で1.3兆円を動かした訳です。
そしてそのうちの6000億円は設備がかなり老朽化している日本郵便への投資に充てられました。
すると単純計算で1.3兆円-6000億円で7000億円のお金が残ります。
ここで何を考えるのかというと、上場するからには投資家に株を買ってもらわないといけない訳で、そのためには当然将来の成長性というものを示さなければなりません。
この成長性のことをエクイティストーリーといいますが、人口が減少してさらにはインターネットの発達によって郵便の減少が進む日本において、日本郵政が成長するというエクイティストーリーは描きにくいですから、何か核となるお話が欲しかった訳です。
そのお話の一つに、この海外事業の買収が考えられました。
さらには、1.3兆円吸い上げたうち7000億円が手元に残っていて、その7000億円を使いたくてウズウズしていたわけです。
そこに投資銀行やМ&Aのアドバイザーの会社が売り込みをかけないわけがありません。
しかも、日本郵政はかなり官僚的な動きをします。
予算が7000億円あって、そしてエクイティストーリーを作り上げるためには、この買収は決定事項だったと見てよいと思います。
買収する会社が良いか悪いかは問題ではありません。
そうするうちに、2015年の2月、担当していた私にとってもポッと出た案件で、TOLLというオーストラリアの物流会社を6200億円で買収するというお話が出たのです。
6200億円というのは金額としてもかなり大きいのですが、利益などに対する比率もかなり高いものです。
М&Aのときに一般的に用いられるEBITDA倍率は、平均で7倍程度のところを11倍、さらにTOLLは上場していたため、買収プレミアムを49%払いました。
買収プレミアムは一般的には30%程度と言われていて、競争相手がいたかは分かりませんが、約50%もの高いプレミアムを払う必要があったのかはかなり疑問です。
しいて言うならば、すでに7000億円というお金が先にあって、むしろそれに合わせて買収金額が決められたのではないかとすら思えてくる金額です。
これを止める人間というのはなかなかいなくて、日本郵政は官僚的に買収するということはほぼ決まっていて、7000億円を消化するのが第一なのでそこの金額が高いか安いかというのはもはや二の次なのです。
当然、M&Aのアドバイザーというのが日本郵政側にもつくのですが、このアドバイザーも買収金額に対して何パーセントという手数料を貰うので、当然買収金額が高いほど高い手数料を貰えます。
すなわちこの買収をこの金額でするということを止める人は誰一人いなかった、そういう事態ではないかと思います。
一方ではこの日本郵政という会社はもともと国の財産で、すなわち皆さんの税金から作られているものなので、その辺からすると遠回りに国民に損をさせていることになります。
この時点では無事に新規株式上場を果たします。
皆さんもこの上場が大々的に行われたのを覚えているのではないかと思います。
この時点ではエクイティストーリーとしてTOLLを用いた海外進出ということが盛んに言われました。
しかしわずか2年後の2017年4月にTOLLの買収を失敗として、減損という形で4000億円の特別損失を発表しています。
そのときの資料がこちらで営業利益の推移です。
買収する直前は4.2億オーストラリアドル、4.4億オーストラリアドルと伸びているように見えて、イメージとしては右肩上がりを予想していたみたいなのですが、結果としては買収を発表してから見事に右肩下がりで悪くなる一方でした。
そもそもこのTOLLという会社はオーストラリア最大ということですが、M&Aによって大きくなった会社です。
そのため経営というのは結構バラバラで統制が効かないような状態になっていたとも言われています。
そこに日本郵政みたいな官僚的な会社が入っていって、成長させられるかというと経営はそう甘いものではありません。
なす術なく利益がどんどん出なくなって減損、4月には6000億円で買ったものは7億円で売却されるというとんでもない状況になってしまいました。
М&Aの成功要因は?そしてそれを何一つ持たない日本郵政
そもそもこのM&Aというのはかなり難しいと言われています。
ある研究によりますと、買った金額に対してそれ以上の価値を生み出したとされる事例は、わずか全体の3割に満たないという風に言われています。
そんな難しいM&Aの中でも成功要因を強いてあげるならば、1つは買収価格です。
金額が高すぎるとそれ以上の価値を生むというのは難しくなるので、これをやはり低く抑える必要があるということになります。
2つ目がPMIです。
買収後の統合プロセスといって、ただ買収したから良いという訳ではなくて、買収したからには当然そこに手を入れて経営改革を進めたり、成長戦略を前に進めたりしていく必要があります。
3つ目にシナジーというものがありまして、買収する訳ですから、今自分が持っている事業ともコラボして上手くやっていける部分があるのではないかと追求していかなければなりません。
この3つが噛み合って初めてM&Aが成功だったと言えます。
しかしこれを日本郵政の例で見てみましょう。
まず買収価格というところでEBITDA倍率が11倍というかなり高い水準でしたし、プレミアムも50%も払って先にむしろ買収金額の7千億円が決まっているとかいうような段階でした。
そこで誰も高く買うことに歯止めがきかない中で、無駄に高い金額を払ってしまって、しかも後から出てきた話なのですが、このTOLLという会社が買収に買収を重ねて内部の統制が取れていない状況だったというのすら、この買収時点ではもしかしたら理解できていなかったのではないかと思います。
普通、買収するときは「デューディリジェンス」といって、その会社の中に入っても細かく数字からその人的問題から何から何まで見なけれならないのですが、それすらおざなりになっていて、もしやっていたとしてもそれを見る能力すらなかったのかもしれません。
それからPMI、買収後の統合プロセスですが、日本郵政としては世界的に活躍するようなDHLとかFedExとかそういった会社を目指そうと思ったのかもしれません。
けれどもそもそも官僚組織としてやっていて、日本国内だけでしか活動していなかったのにいきなりオーストラリアの会社を買収して、そしてそれを上手く経営していこうという考えが甘かったのではないかと思います。
さらにシナジーというところでは、これはTOLLの内訳なんですけれども、実は売上の71%はオーストラリアとニュージーランドで、ほぼ国内のようなものです。
オーストラリアの経済規模は実は皆さん感じられているほど大きくありません。
人口3000万人程度しかいませんし、この中で物流をやるといっても、世界に出て行くような高度なことが出来るかというと甚だ疑問があります。
少なくとも日本とオーストラリアを結ぶということは考えられるかもしれませんけれども、やはりその数というのは限定的で当然でアメリカやEUと繋がっていたほうがその量は何倍にも違ってくる訳です。
その点からやはりシナジーも見出しにくいような状況ではないかと思います。
つまり日本郵政はM&Aの成功に必要なものを何一つ持っていなかったという訳です。
そればかりか経営がままならない訳ですから、このように横ばいですらなくて、ただただ利益が減るばかりで、直近ではコロナの影響もあって赤字ということになっています。
すなわちこれは失敗するべくして失敗した案件だということが出来ます。
もっとも利益が出ている会社を6000億円で買ったのにそれを7億円で売却しなければならないというのは、本当にとんでもないことだと思います。
反面教師にしては最たる事例だと思います。
ちなみにこのM&Aで上手い会社の一つには日本電産があります。
日本電産はこの3つがとにかくしっかりしています。
買収価格で言えばとにかく安く売り叩かれているものだけを買うということを徹底しまして、PMIに関してはまずいきなり会社に入っていって、コスト削減だと言って確実に削減出来るコストを削減するというところからやります。
そしてこのシナジーに関しては日本電産で強いのはモーターですから、モーターに関連する企業を安く買って、それらを経営改革をして一つにまとめて、そして企業価値を上げるということを徹底してやっています。
成功確率3割ですから逆にはそこまでやらないとなかなか成功しないということになります。
反省なし!?もはや何の期待も持てず
まとめますと日本郵政失敗の要因は高すぎる買収金額で、すなわち適正価格を判断するガバナンスが欠如していた。
さらには買収後の経営能力というのも全く持っていなかったのではないかという風に見えます。
さらにはまともな成長戦略の不在、国内で成長しないと言われているのですが、まずは足元を固めないことにはいきなり海外でやろうと思ってもそんな上手くいきません。
このことから日本郵政は今も何の反省もなく進んでいるような感じがします。
今後にも期待がなかなか持てないのではないかと思います。
こうやって株価を見ても上場から見事に右肩下がりです。
1500円で上場したものが今906円ということになっています。
また業績を見ましても利益が見事に減ってきています。
単純に株価の割安感だけ見たらPERで10倍を下回るような状況だったりしますし、利回りもそこそこあるように見えますが、ダメな企業はとことんダメなので、この後も右肩下がりの業績だったり、何か問題が発生したりする可能性は極めて高いと思います。
私も実際担当して正直この会社は問題だらけの会社だと思います。
経営陣も変わりませんし、さらには日本郵政に連なる郵便局というのは特定郵便局といって、昔ながらのしがらみだらけの人たちで、いびつな組織構成となっています。
正直この会社にわざわざ投資するようなことはお勧め出来ません。
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