中国で景気減速の兆候…「スタグフレーション」が起きるかもしれない。石油ショックに学ぶ「ニフティ・フィフティ」と「株式の死」

現在の金利低下が示すのは「景気後退懸念」

今週の日経平均株価は軟調な推移となりました。中期トレンドとしてはこの数ヶ月弱含みで、年初から3月頃の上昇分がほぼ帳消しとなりつつあります。

【出典】Google

株価が軟調な要因は、米国における長期金利の低下にあると言われています。

【出典】三井住友銀行

「おいおい、これまで金利の『上昇』を警戒していると散々言ってきたじゃないか。下落しているのに株価が下がるのはおかしいだろう。」という声が聞こえてきそうです。

確かに、FRBが金利の引き上げ、すなわち金融緩和を終わらせるなら、株価は下落する可能性が高いとこれまでも度々申し上げてきました。その考え方は今も変わっていません。

しかし、今回の金利低下は、FRBの動向とは別の要因で発生したと見られています。市場は新たなリスクとして景気後退を懸念し始めたのです。景気後退懸念は、安全資産への逃避という観点で国債価格の上昇=金利の低下をもたらします。

中国で景気腰折れの兆候「今日の中国は、明日の米国」

ここのところ、新型コロナウイルスのデルタ株流行により、世界で再びパンデミックへの警戒感が高まっています。特に日本ではワクチン摂取が欧米各国に後れを取り、東京オリンピックに向けて再び緊急事態宣言が発出されるなど、ネガティブな要素が多くあります。

ただし、株価が下がったのは日本だけではありません。米国も同様です。その米国では、ワクチン接種を希望する成人のほとんどはすでに摂取したとみられます。ワクチンの効果が低いとされるデルタ株は依然として脅威ですが、なお一定の感染予防効果があり、重症化も緩和するとされています。以前ほど恐れるべきものではないのです。

問題となっているのは「本当に期待されているほど景気が回復するのか」という点です。その試金石となるのが、中国の状況です。

中国は、新型コロナウイルスの発生源であると同時に、世界に先駆けてパンデミックが収束した国でもあります。一定の制限はあるにせよ、いち早く通常の経済状況に戻った国です。

その中国で見られるのが、景気減速の兆候です。中国のサービス部門のPMI(購買担当者景気指数)は、国家統計局発表の6月同部門PMIは53.5と前月比1.7ポイント低下、財新/Markitの同数値は50.3と前月比4.8ポイントの大幅低下となりました。また、金融当局は1年2ヶ月ぶりの「金融緩和」を行い、景気を「下支え」しようとしています。

【参考】中国人民銀行「預金準備率」引き下げへ 17兆円規模市場供給か(NHK)

米国をはじめ、現在の世界的な株高を支えているのは、金融緩和による溢れるマネーと景気回復への期待です。しかし、先んじてコロナの収束を迎えた中国では、すでに景気が腰折れしている可能性があるのです。

今日の中国は、明日の米国。米国でもコロナの収束で景気が盛り上がりつつありますが、これがいつまでも続くのでしょうか。人が飽きるのは案外早いものです。これまで抑えつけられていた反動でぱーっと騒いだあとは、何事もなかったかのようにもとの生活に戻っていくでしょう。そうなると、少なくとも今年想定されている「年率6.9%」のような高成長が継続できないことは明らかです。

「スタグフレーション」は起きるか?石油ショックの1970年代に学ぶ

ここで問題となるのが、インフレの状況です。現在のインフレは、需要よりも供給側の要因によって引き起こされています。生産や物流の混乱によって、企業間取引の価格が上昇しているのです。これはやがて消費者物価にも反映されるでしょう。

さらに状況を悪化させるのが、米中対立やESG投資です。米中対立では、世界の大手企業が世界生産の2割を占める新疆綿を調達するのが難しくなっていますから、供給不足により衣類の価格上昇をもたらす可能性があります。また、ESG投資では石油が目の敵にされているので、多くの企業が油田開発や生産に及び腰になるでしょう。これも原油価格の上昇の可能性を引き上げます。

供給側からくる物価上昇は、景気回復とはリンクしない形で起こります。すなわち、景気が回復しないのに、物価だけが上がる「スタグフレーション」が発生するリスクがあるのです。

実際にそれが起きたのが、1970年代の石油ショックです。原油価格の上昇により、景気が悪化する中で高率のインフレが発生しました。同時期の株式市場には冬の時代が訪れ、先週も解説した「株式の死」が到来します。

現在の相場は当時と非常に似通っていると感じます。当時は、ポラロイド、Kマート、デジタル・エクイップメント、コカ・コーラ、マクドナルド、GE、IBMといった「ニフティ・フィフティ(素晴らしい50銘柄)」がもてはやされ、高バリュエーションをつけていました。

しかし、インフレの高進によりこれらの銘柄の成長も鈍化し、バリュエーションは低下しました。この行き過ぎたバリュエーションが「株式の死」の要因となっています。

以下のコラムは大変参考になるので、ぜひお読みください。2007年(リーマン・ショックの前年)のものですが、現在でも示唆に富みます。

【参考】ニフティ・フィフティ相場の再来(大和総研)

私はこれで世界の成長が止まるとは思っていません。しかし、期待が高まりすぎた相場はどこかで必ず調整が入ります。そのきっかけが何になるか、今はそれだけが焦点になっているのです。

もちろん、そうすぐに危機が訪れるわけでもなく、もしかしたら今後バブル的に株価が上昇する可能性もあります。しかし、それは人々の期待という儚いものに乗じた「砂上の楼閣」であり、慎重な投資家なら無理する局面ではないということは、口を酸っぱくして申し上げておきます。

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2 件のコメント

  • 日本株は下落トレンド中ですか?8月9月迄続きそうな予感がします。保有する株はどの様な銘柄が良いのでしょうか?それともノーポジで転換点待ちが良いのでしょうか?
    高配当安定銘柄を保有するのが良いのか?

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