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以下、文章化したものです。
今回お話しするのは地方銀行についてです。
なぜここで地方銀行を取り上げるのかというと、今はこれらの銘柄がものすごく指標面で激安になっているからです。
PBRで言うと0.2倍を下回るような銘柄がゴロゴロしています。
果たしてこれらの割安銘柄は買い時なのか、そして買う場合の戦略についてもお話しできればと思います。
激安!!地方銀行
これは地方銀行の投資指標をPBRが低い順に並べたものです。
この通り、栃木銀行0.11倍、筑波銀行0.12倍、山梨銀行、愛知銀行、千葉興業銀行、大分銀行、秋田銀行と、地方の銀行が並んでいます。
PBRが0.2倍未満のものを並べましたがそれだけでもこれだけたくさんあります。
それがどのような分布かというものがこちらです。
地銀というと全国で100行ぐらいありますが、例えばPBRが0.3倍未満、そしてPERが10倍以下というかなり割安と見える指標のところに半分以上の銘柄がなっているという状況です。
単純に数値だけを見たら信じられないほど割安です。
PBRとPERをかけた指標にミックス係数というものがあるのですが、これが一般的に22.55を下回ると割安と言われます。
これをかなり厳しくしたとしてもその半分の11.25ぐらいが割安かどうかの指標といわれるのですが、先ほどの表を見ると、例えば栃木銀行は9.3倍のPER、0.11倍のPBRで、かけるとそのミックス係数はなんと0.9くらいということとなり、11ぐらいというのが割安の一つの指標となると言いましたが、それに対して1を切るというとてつもなく割安な数字となっています。
ではその株価推移はどうなっているでしょうか。
地方銀行のインデックスのようなものは存在しないので、それに該当するような投資信託があったので調べてみました。
UBS地方銀行株ファンドというものです。
これを見ると18年の頭には基準価格がおよそ10,000円あったものが、青のラインを見れば分かるように、直近では5000円というところで、半分近くに下がってしまっているわけです。
そして驚くべきことがさらにありまして、このファンドなんとすでに2021年6月21日に「償還」、すなわちこのファンド自体が終わりになってしまったのです。
それほど地方銀行は人気がないということが言えます。
地銀が不人気のワケ
ではなぜこんなに人気がなくて株価も下がってしまったのかというと、私は大きく3つの要因があると考えます。
1つが成長性の無さ、それからコロナ後における財務悪化懸念、そして稚拙な有価証券運用というところにあります。
まず、成長性の無さについてです。
今、日本では金利がずっと低い状況が続いています。
金利が低いというのは銀行の収益の根本が完全に揺らいでしまっているということになります。
これをわかりやすくするために地方銀行のビジネスモデルを解説します。
地方銀行のビジネスモデルというと、まず皆さんから預金を預かるところから始まります。
その預金を例えば貸出金や有価証券などで運用することで運用収益を得ることになります。
ここに金利が大きく影響してきまして、例えば1兆円のお金があったとしてその1兆円を1%で運用したとし
たら100億円のリターンがもたらされ、その100億円というのが運用収益というところになります。
ここの金利が下がるということはその1%がさらに下がるということになりますから、当然、銀行の損益計算書に大きな影響を与えるわけです。
そしてこの運用収益から例えば物件費や人件費、そして貸し倒れがあった時の損失である与信費用、これらを引いたものから利益が生まれます。
そしてこの利益が純資産という形で戻ってくるわけです。
低金利というのはこの運用収益が減ることを意味します。
一方で物件費や人件費は金利が減ったところで減るものではありませんからその分最終的な利益が削られてしまうということになります。
よって低金利は銀行にとってはマイナスでしかないわけです。
また地方経済の成長性の無さというのもあります。
日本は首都圏への一極集中が進み、地方の経済というのはかなり枯れている状況です。
地方の経済に元気がないとそこに地盤を置いている企業の貸出先がなかなか無いということになり、やがては預金も減っていくっていうことが考えられます。
従ってそのままこれまでのビジネスモデルをやっただけでは成長は難しいですし、さらに言えば今ITが進んで、銀行もどんどんネットビジネスが浸透してきて手数料も従来の銀行に比べたらかなり安かったりしますから、楽天銀行やPayPay銀行に移せばいいじゃないかという動きも見られますから、よっぽどその地方に根付いていて口座を持っている人でなければ今新たに地方銀行の口座を作る理由は無くなってきているわけです。
もっと言えば、IT企業が銀行を介さない金融取引を薦めてくるとますます必要がなくなってくるというのが銀行の状況というところになります。
コロナ後における財務悪化懸念もあります。
この新型コロナを受けて今政府は政府保証を付けてなんとか銀行にお金を貸し出させようとしています。
何兆円もの金額になっているのですが、政府の信用保証というのは2~3年というところですからこれが終わってしまうといよいよ銀行が自ら貸し倒れリスクを負ってお金を貸さないといけないということになります。
しかし飲食店や観光業などは相当傷んでいるという風に思われますからこれらの企業がバタバタと倒れてしまってその損失を銀行がかぶるということになると、巨額損失が生まれてしまいかねない状況になっているわけです。
これが、株価が下がって割安に放置されている2つ目の理由です。
そして3つ目としては稚拙な有価証券運用というものがあります。
そもそも地方銀行というのはオーバーバンキングと言われていて、各県に2つとか3つとかの地方銀行があったりします。
しかし、正直2つ3つ違う銀行があったところでどれを選ぶかっていうのは特に関係ないわけです。
銀行がたくさんあるということは貸出先がどんどん足りなくなるということです。
貸出先が無いということになると、あとは有価証券で運用するしかないわけです。
有価証券は一般的には国債とか社債というところになるのですが、今国債の金利もほぼゼロですからそれで運用しても仕方がないわけです。
そうなったときに何をするかというと例えばREITに手を出してみたりとかあるいは証券会社が持ってくるような怪しげな為替がらみの商品とか場合によっては大きな損失を被りかねない商品、それらに手を出してしまうということは実は地方銀行では珍しくありません。
というのも地方銀行に入ってくる人というのは基本的には貸し出しのプロではありますが運用のプロではありません。
運用のプロでない人が余ったお金を何とか運用しないといけないということで付け焼刃に行った結果、証券会社からちょっとリスクの高い商品を売られてしまうという現状があるわけです。
これが失敗してしまうとこれもまた大きな損失になってしまうことがあります。
以上3つが地方銀行が割安に評価されている理由という風に考えます。
いつなら上がる?キーマンはSBI
しかしそうは言ってもPBRが0.2倍という数字はかなりおかしいと言えるほどの数字です。
この貸借対照表を見てください。
PBRというのは純資産に対して株価、つまり企業の価値が何倍になるかというものです。
一般的にこのPBRが1倍を下回ると割安と言われるのは、例えばこの瞬間にこの企業を解散したとしたら当然、預金はすべてお客様に返しますが、その上でこの純資産だけは残るという理論からPBRで1倍というハードルが出てくるわけです。
そして、PBRの質というのを判断するためには、資産の質を見なければなりません。
例えばこれがメーカーだったら工場などを多く持っていますが、工場というとそのメーカーが作る商品にしか適用できなかったりするので、いざ売却する時に損失を出して売却するということになりますから必ずしも純資産の質が高いとは言えないのです。
ところがこの銀行というと、純資産は貸出金や有価証券というところになります。
これらは稀に損失を出してしまったり貸し倒れになってしまったりすることはありますが、基本的には貸したお金は返ってきますから、資産の質は非常に高いです。
実際に解散するということを考えたら全部売ってしまえばほぼその金額で売れるわけです。
従って、銀行がPBR1倍を割るというのはやはり一般的には割安と考えて良いというところがあります。
それが今0.2倍ですから、単純に考えたら1倍までには5倍ぐらいの乖離があるということになります。
ではそういった割安な銘柄はいったいいつ上がるのかということを考えてみたいと思います。
過去の経験から言いますと以下のような3つの事例があると考えています。
1つ目は買収、2つ目がアクティビストによる増配要求、そして3つ目が経営改革によるものです。
まず買収というと、いくらなんでも割安すぎる企業があったらその企業を現在の安い株価で買ってしまって
例えばその持っている現金をすべて配当として出させてしまえば少なくともかなりの利益を上げられるということは目に見えているものだったりします。
最近私が経験したケースでもユニゾホールディングスという不動産会社があったのですが、その不動産会社は不動産の価格よりもかなり安い株価でした。
従ってその安い株価でより高いです不動産を買える、つまり1万円が入った財布が2千円で買えるといった状況だったのです。
不動産ですから簡単に売ることができますから、そういった時にはやはり少し高いお金を払ってでもその株を買いたいという人がやがて現れてくるわけです。
これによってユニゾホールディングスは最終的に3倍くらい株価が上昇したというケースがあります。
2つ目はアクティビストです。
よく名前が挙がる村上ファンドなどですが、彼らはこうやって割安に評価される一方でお金をいっぱい持っているような企業の株を持って、株主総会とかでうるさく言うことによって配当を支払わせて、株価の上昇によって売り抜けるというような事をしてくるわけです。
3つ目は、純粋に今までダメだと思われていた企業が経営改革によって良くなって株価が上がるパターンもあります。
割安銘柄が上がるのはこういったパターンがありますが、地方銀行に関してはこれがうまく機能しないと考えられるとも言えます。
なぜかというとそれは銀行法における問題があります。
銀行法においては株主規制というのがあり、特にこの2番目の銀行の20%以上の主要株主になるときにはあらかじめ金融庁長官の認可を受けなければならないとされています。
例えば外資の会社がこの銀行を買いたい、20%以上を持ちたいということを考えると、金融庁の認可を受けなければならないわけです。
認可自体には外資制限などがあるわけではないのですが、認可を受けるということは逆に言うと認可を取った後でもいつでも取り消されてしまう可能性もあるということです。
これが金融庁の気に入らないことだったりするとすぐにその認可を取り消されてしまう、あるいはもう簡単には認可を取れないということになってしまいます。
そしてその基準というのははっきり言って分からないわけで、金融庁のさじ加減一つです。
そういったリスクを負ってまで外資のファンドやアクティビストが地銀を買収する必要があるのかということを考えると、リスクとリターンが必ずしも合わないというところがあります。
銀行としてもこの株主規制があるからこそそう簡単には20%以上、つまり議決権に影響を及ぼすほどの株を持たれることはないだろうと考えてしまいますし、何かあったら金融庁に泣きつけばいいというところがあるわけです。
これは昔から銀行というと護送船団方式といってすべての銀行が大蔵省の名のもとに横並びの仲良しクラブでやっていたところを引き継いでしまっているのではないかと思います。
これがあるからこそ買収やアクティビストによる株価の上昇という可能性がだいぶ減ってしまっているというところがあります。
一方でそこで現れた救世主というのがSBIグループです。
SBIグループが多くの地銀に出資を行い始めました。
確認できる限りで6つの銀行があります。
島根銀行、福島銀行、じもとホールディングス、筑邦銀行、清水銀行、大東銀行です。
特に島根銀行に関しては20%を超える出資を行っているわけです。
当然これは金融庁の認可を受けたということになります。
SBIホールディングスが他のファンドと違うのは、SBI自体が証券業や銀行業などいろいろやっていますから
すでに金融庁とよく通じているというところがあります。
だからこそその勝手知ったる仲ということで地方銀行に出資しても齟齬なくやっていけるというところがあるのではないかと思います。
SBIグループとしてもこの地方銀行の連合によって大きな地方銀行グループを作ることを目指しているというようなことを社長の北尾さんは言っています。
例えば買収されるようなことがあると、その買収価格の上昇だったり、一般的に買収する時にはプレミアムといって、現在の株価に30%ぐらいは上乗せしないと買えないというようなことを言われています。
また、このSBIが入ることによって先ほどの3つ目の経営改革が行われる可能性というところにも期待が高まるわけです。
実際に2019年9月6日にSBIが島根銀行への出資を発表した時には、596円だった株価が一気に842円まで上昇しました。
こういった事象が起きるならば地方銀行に投資する可能性というのも見えてくるわけです。
ただ、現時点でこの可能性を生んでいるのはSBIくらいで、他のファンドなどはあまり積極的に動いている様子は今のところ見えないというところがあります。
地銀への投資戦略は?
以上を踏まえて今とても割安な地方銀行への投資はどのような考え方なら良いかということを考えてみます。
1つはバルクで買うということです。
バルクとは要するにかご買いです。
先ほどUBSの地方銀行に投資するファンドを紹介しましたけれどもすでに募集を停止していてファンドとかインデックスで地方銀行を買うというのは今はできない状態です。
しかしこのバルクの考え方を使えば、少しずつ地方銀行で有名なところを適当に分散させていくつか買っておくということをすれば、同じ地方銀行ファンドのようなものが自分でもできるということになります。
今は一株から株を買えたりもしますからそういった戦略で、とにかく今は割安で、割安なものは明確な要因がなくてもなんとなく上がっていくということもあったりするわけです。
少なくともそこから下がる余地は限定的な部分もあると思います。
従って、インデックスを目的としてバルクで買うという方法はありだと考えます。
2つ目はもうちょっと踏み込んでみて、SBIが狙いそうな地銀を探すことです。
SBIの出資ないし株の購入によって株価が上昇するという短期的なリターンが狙いやすくなる可能性があるわけです。
SBIが狙う銀行は結構明確で、すでに財務状況が苦しいところに狙いを定めています。
なぜそうしているのかというと財務状況が苦しいところに、じゃあ私がちょっとお金出してあげますよという風に言えば、その銀行としては飛びついてきやすく恩も売りやすいのです。
SBIとしては、地方銀行に対して例えば有価証券運用商品を売ったりだとか、あるいは地方銀行というと地方のおじいちゃんおばあちゃんや地元企業などの優良顧客を抱えているのでそこにSBIの投資信託などの商品を地銀を通じて販売するということもあるでしょう。
SBIが顧客を紹介してもらって直接販売するということもあるのではないかと思います。
これがあるからこそSBIとしては買った地銀株が上昇しないでも十分にこの事業によって利益を得ることができるのです。
餌をやるためにはまだ余裕がある銀行に出資を行ったところで大して感謝されないので立場の優位性はないわけです。
一方で今資本が足りないという銀行だったら十分に感謝されてその後の付き合いもやりやすくなるわけです。
従って狙うべきは自己資本比率の低い、財務の弱っている銀行ということになります。
これは自己資本比率ワーストランキングです。
これを見れば分かる通り、自己資本比率が低い銀行に明らかにSBIが出資しています。
これらの苦しい銀行を優先的に買っていればもしかしたらSBIに拾われて、瞬間的にかもしれませんが株価が上場する銀行も現れるかもしれないというところがあります。
3つ目に砂金探しです。
地方銀行と言うとやはり先細り感が非常に強く、しかも経営としては必ずしも洗練されているとは言えない状況です。
今後、利益を増やしていくとか株主還元を強化するとかそういったことは正直あまり考えていない人たちです。
というのも私自身が証券会社時代に地方銀行の担当をしていて、そこの経営企画の方とお話しする機会もかなりあったからです。
地方経済を活発化させるというようなことはよく言うのですが、株主に還元するために銀行をどう経営していくかということに関しては正直かなり能天気な人たちが多かった印象です。
だからこそ割安に評価されているのですがそんな中でキラリと光る砂金を見つけることができれば、今は割安でもそこから経営を伸ばすということになれば、例えば今0.2倍で評価されているPBRが1倍くらいまでは伸びるかもしれないという期待が持てます。
この一つとして挙げられたのが、実はかつてのスルガ銀行だったわけです。
スルガ銀行は他の銀行が手を出さない個人向けローンを積極的にやった結果、地方銀行ではまれに見る高収益体質でした。
しかし、皆さんご存知の通り不動産ローンに関して、預金残高の改ざんなど不祥事がありました。
それによってこの成長戦略も取れなくなったというところもありますし、その他の地方銀行にとっても変わった戦略をとるのに及び腰になる事例となったのではないかと思います。
もちろん、そんな中でも気を吐く銀行があればということで私は探していきたいと考えております。
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