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以下、文章化したものです。
今回はJR西日本が9月1日に公募増資を発表したことについてお話ししたいと思います。
公募増資は株式市場にとっては爆弾のようなもので、一気に株価が下がってしまうのがほとんどです。
しかし私の意見としては公募増資は必ずしも会社にとっても株主にとっても悪いものではないという風に考えています。
その理由を説明したいと思います。
公募増資で株価が下がる理由
JR西日本が、9月1日に約3000億円の公募増資を行うということを発表しました。
これは希薄化率27.5%に相当する株数ということになってきます。
この希薄化率というとどういうことかというと、企業は株式をもともと発行しています。
仮に1万株発行しているとしたらさらにここに3千株を発行するとしたら、希薄化率30%ということになってきます。
今回もそのぐらいの水準でJR西日本が株式を発行して、それを投資家に買ってもらうことで資金を調達するというものです。
それを受けて株価は今の時点で15%超下落しているというところです。
15%というとまストップ安にも近い水準ですから、これは余程の衝撃があったということです。
そもそも何故公募増資を発表すると株価がこんなにまで大幅に下がってしまうのかというところを振り返ってみたいと思います。
まずこれがJR西日本の株価です。
コロナを受けて大きく下がっていたのですが、その後コロナがそろそろ終わるのではないかということで上げていた部分もありましたが、ここにきて公募増資によってを大幅に下げたというところになっています。
何故公募増資で株価が下がるのかということですが、これは第一には希薄化というものがあります。
先ほど希薄化率27.5%という説明をしましたけれども、これはまさに分母が増えて一株当たりの価値が減少するということです。
一株当たりというと企業そのものは特に増資によって変わることはないのですが、一方で発行している株式の数が増えます。
すなわちこの場合に一株当たりの価値を計算をする時、例えばいわゆるEPSなどを計算する時に、分母が先程の説明で言うと1万が1万3000になってしまうと結果として出てくる数字というのは、分子が変わらないので小さくなってしまいます。
その分株式の価値が減ってしまうということが端的には考えられます。
配当自体は1株当たり変わらなかったりもするのですが、結局利益が減ってしまうということは、やがて配当に今回せる金額というのも減ってしまうということになるので、これ希薄化によって株価が下がるということが想定されます。
さらにはそれに合わせて需給の悪化というのもあります。
株価というのは基本的には需要と供給によって瞬間的には決まります。
供給すなわち売りが増えると買いが追いつかなくなって、それが均衡するところまで株価が下がるという現象が起きます。
公募増資によって基本的には最初に買ってくれる投資家にこの発行した株を売るのですが、その買った投資家ですぐに売る投資家もいますから、結局需要と供給の供給方が増えてしまって、なかなかマッチせずに株価が一時的にでも引き下がる要員になってしまうということです。
これがあるからこそ増資は少なくとも瞬間的には需給の悪化によって株価が下がってしまいます。
その1株当たりの価値というところを考えても、希薄化によって減じてしまうという定説となっています。
これを見た瞬間に投資家は青ざめて売らなければということで、今のようなある種パニック売り様相も呈してくるわけです。
ところが私は実は公募増資そんなに悪いことではないと思っています。
少なくともやり方によっては企業にとって、あるいは株主にとってプラスにもなり得るものだと実は考えています。
それは何故か説明致します。
【公募増資≠悪】”何に使うか”が大事
そもそも企業が株式市場に上場しているというのは、一つの大きな目的は資金調達です。
お金を調達する方法としては基本的には借り入れがありますが、株式市場に上場しているということは資本を調達出来るというところになってきます。
上場している以上これをしないということは上場の意義を半分くらい失ってしまうことになります。
なので少なくともこれによって経営者が責められるべきではないと思います。
一つの経営の選択肢としてこれが残っているということは、上場企業にとってとても大切なわけです。
もっともそう簡単にやって良いというわけではなくて、あくまでこの増資というのは最終手段だという風に考えてもらった方がいいと思います。
というのも基本的に今は低金利ですから金利が安いので、まずはその安い借り入れを行って、資金が足りないのだったらそちらから使ってもらった方が良いわけです。
一方で企業の健全性というのは、資本金がどれだけあるか、自己資本がどれだけあるかというところで見られる部分もありますから、自己資本が足りないということになると、どうしても増資に頼らざるを得ない部分もあります。
もっとも何故そのお金を使うのかというと、企業がこれからも利益を生んでいく為に増資によって資金を調達するわけなんです。
したがってその調達した資金をもちろん湯水のように使ってしまうというのは言語道断ですが、調達した資金によって例えば100億円を調達したらそれによってやがては100億円以上の利益を産むということになったら、株主にとってはもちろんプラスになる話なのです。
したがって希薄化以上の価値を生む増資であれば前向きに捉えていいという風に考えます。
大切なのは資金使途であってそれが無駄な使い方さえされていなければ、基本的には問題ないという風に考えます。
そもそも企業というのは利益を生んでそれを再投資することで成長しています。
この利益というのは基本的には株主のものなのですが、それは配当として出さずに内部留保をして再投資することによって、成長しているわけです。
内部留保などを使うことと公募増資という意味ではそんなに大きな差はないという風に考えます。
もちろん1株当たりの希薄化というのはどうしても生んでしまうので、それ以上の価値を生む企業にとっては十分に有用なもので、株主にとっても有用なものであるという風に考えます。
そして何より一時的な苦境を乗り越えて大きく羽ばたくケースというのも見られます。
今回のJR西日本の増資というのはまさにコロナ禍で鉄道運輸収入が大きく減少する中で、財務状況を健全に保つために、やむを得ず行ったものだと考えられます。
この苦境を乗り越えなければ、財務状況が大きく悪化して倒産に近いような状況になってしまう可能性というのも想定されるわけです。
そうなると成長どころではありませんから、そうなる前に増資を行ったというのは必要な手立てだったのではないかと考えられます。
そしてこの苦境の中で増資を行ったのですが、それを乗り越えて今度は大きく羽ばたいたケースというのもあります。
それが日立製作所のケースです。
2009年8年にリーマンショックによって、何千億という大赤字を計上しました。
それで財務が悪化したのでそれを回復するために、この2009年11月に4000億円希薄化率34%に及ぶ公募増資を行いました。
すでにリーマンショックで大きく株価下がっていたのですが、そこからさらに20%下がったというところになってきます。
しかしその後、財務の健全性をなんとか回復させて、そして経営改革を同時に行ったことによって、下落からの上昇率はなんと5年で4倍になったというところです。
したがってここの株価が下がった時に買えて、さらにはそこから経営改革を上手く行えるようなことになれば、むしろこの下落は絶好の買い場だったとも言えます。
だからこそ私はこの公募増資というのを比較的ポジティブに捉えています。
実際に投資を行うとその後の株主からのプレッシャーというのは、これまでにない物となってきます。
そうやってストレスを抱える状況の中で必死で経営改革を行えた会社というのは、その後大きく上場していく可能性がある、すなわち一つの大きなと転換点になる可能性を秘めているという風に考えております。
大事な資金使途が何なのかというところです。
ここにあります通りコスト構造改革に向けた鉄道オペレーションの生産性向上に900億。
広域鉄道ネットワーク磨き上げに向けた車両新製に760億。
地域共生の実現に向けた街づくり、大阪駅周辺に1000億。
広島駅周辺に600億。
そして変化対応力向上に向けたJR西日本グループデジタル戦略推進に200億円ということになっています。
ただこれはどちらかというと後付けだという風に考えます。
何故かというとこの着手及び完了予定年月を見てください。
着手はいずれも2018年、2017年、19年、19年、ここまではコロナ前の時期となっています。
すなわちあくまでこれまで進めてきたプロジェクトに対して、お金を充足するものとして今回の増資を行いました。
それはすなわち新たな成長戦略のためというよりは、これを全部借り入れでやるといよいよ自己資本が足りなくなって、財務の健全性が維持出来ないということから、財務の健全性を回復するための増資だったということがこの資金使途から読み取れます。
これはもちろんコロナ後のものなのですけれども、少し後付感もあるというところではあります。
この財務の健全性なんですが一つの指標として見られるのがこの自己資本比率です。
JR西日本はずっと30%程度を維持していたのですが、このコロナ禍で昨年度2000億円以上の純損失を計上してしまいましたので、34%が一気に24%になりました。
そしてこの第1四半期も赤字でしたから22.9%というところまで落ち込んでしまいました。
これだけですぐに倒産するとかそういった類のものではないのですが、自己資本比率が低いとどうしても債務格付けでお金を借りたいとか社債を発行する時の格付けが下がってしまいます。
そうなると今度は高い金利を払わないといけなくなってしまうので、企業で特にJRみたいな会社は結構借り入れが多いので、ここで金利が上がってしまうと後々首が回らなくなってしまいます。
なのでその為に財務を少しでも健全に保たなければならない、それを回復するための増資だったという風に私は捉えています。
したがって必ずしもそんなに成長するという前向きな投資ではないので、一番良いものではないという風に考えます。
しかしこれをやってしまわないことにはコロナの先に進めないという部分もあるので、そういう意味では必要なものだったのではないかと思います。
少なくとも目先倒産しそうというものでもないのですが、必要なことを行ったというぐらいに捉えていただければいいのではないかという風に思います。
私の所感といたしましてはコロナ禍が継続する中、今年の半ばぐらいには終わるかと思われていたのですが、デルタ株などで終わりそうにないということで、財務状況悪化を回避する為にやむなくを行った増資だということが考えられます。
実際にJR西日本は第1四半期の決算のところで当初予想していた業績予想を下方修正しています。
このコロナが継続する中でやむを得ない部分があるのではないかという風に思います。
一方で資金使途に目新しいものはないので、大きな成長に対する期待感というのは残念ながらそんなにないかなと思います。
その資金使途の中に大阪駅や広島駅の駅ビルのプロジェクトというものがありましたから、淡々とこれらを完成させていくことによって、コロナ明けでそれが2024年とか2025年になるのですが、それが完成した暁には収益を上乗せする一つのポイントになり得るというところではあります。
しかしそれだけだと不十分です。
すなわち増資に報いる経営変革が出来るかどうかです。
このコロナを受けて出張などがだいぶ減ってしまっています。
それをカバーするようなコスト削減とか、デジタルを使った車両や鉄道の整備だとか、そういった事を淡々とやれるかどうかどうかというのが、今からの復活にかかっているというところではあります。
そしてコロナ前の基準で見た時の希薄化も考慮した時のPERは現在およそ10倍という数字になってきます。
これ自体は比較的安いかなというところです。
もちろんコロナ前に戻ればという前提ですが、とにかくJR西日本としては業績をコロナ前に戻す、人々の行動変容によって状況は変わってしまったのですがそれをカバーするほどコスト削減、そして新しい不動産プロジェクトなどによって、追加の利益の創出を図っていただきたいという、そういった前向きな形で捉えていただきたいなという風に思います。
さてここでJR西日本見てきましたけれども、気になるのは同じような状況のJR東日本です。
自己資本比率は先ほどグラフの赤がJR東日本です。
実はJR西日本より少しは高いですが、これに並行的に沿うような形で自己資本比率下がってきてはいます。
そして今回のJR西日本の連想売りというのもありまして、株価現時点で7%とJR西日本のおよそ半分で7%下落しています。
今後東日本でも増資があるということになったら、一時的な下落は避けられないということになります。
一方でここで下落したのなら一部は既に織り込まれるのではないかというような考え方も出来ます。
いずれにしても似たような状況にあるということはご理解いただけるかと思います。
一方でJR西日本と大きく違うのは不動産含み益のところです。
不動産含み益に関してはなんとこのJR東日本賃貸不動産部分だけでも、1.5兆円もあるということになっています。
これは総資産の15%に相当します。
つまりこの含み益が顕在化することによって、自己資本比率27%というところなんですが、これを実際に時価を反映させるともっと高い自己資本があるとも言えます。
さらにJR東日本は1.5兆円の含み益のある不動産をファンドへ売却して資金をさらに調達するということを検討しています。
不動産の含み益が顕在化することによって、実質的な自己資本はもっと高いと見てよいのではないかと思います。
それでも今後の増資の可能性というのはゼロにはならないかなというところであります。
もし増資するようなことがあったらJR東日本に関しても西日本と同じことが言えます。
しっかりと資金使途を成長にちゃんと向けられているのか、アフターコロナのところにしっかりと振り向けられているのか、そしてコスト削減もそうですが、JR東日本に関しては年1000億円のコスト削減を謳っています。
営業利益が年4500億円くらいの会社ですから、それに対して1000億円のコスト削減というのはかなり大きいです。
これがもし出来るならばのコロナ禍によって運輸収入も減ってしまった分は、このコスト削減によってかなりカバーして、何ならそれを上回ることもあるのではないかという風に考えています。
そしてコロナ前を基準としたPERは現在9倍です。
もともとPER15倍ぐらいで取引されている銘柄ですから、それやって見ればコロナ前に戻れるとしたら、割安感はあると言っていいと思います。
結局どちらでも大事なのはしっかりと経営改革をしていくということではないかと思います。
その本気度が試されている増資というところになってきます。
不動産含み益のランキングに関しては東洋経済にあるもので、三菱地所、住友不動産、三井不動産という大手不動産会社に次いでJR東日本の1.5兆円の含み益があるということになっています。
またこの株価については西日本と同じようにコロナで大きく下げて、そしてここで少し上がったところにまた下落しているというところになっています。
東日本に関して不動産の含み益に表れている通り、首都圏の岩盤の地盤を持っているというところが間違いなくありますし、さらには不動産のファンドへの売却による価値の顕在化ですとか、1000億にも上るコスト削減そういったものを施行しています。
これからどうなるかというのは経営改革にかかっているのですが、少なくともアフターコロナによって、人々もまた動き出した時、あるいはコスト削減が実現して、そして不動産の開発もさらに強気に進められるということになれば、今後の大きな伸びというのも期待していいのではないかという風に考えるわけです。
JR東日本に関してはまた別の動画でも説明しておりますので、是非そちらもご覧になっていただければと思います。
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