今回はヤマダホールディングスについてです。
この数か月、株価が下落し続け、ついにはPER5.6倍という非常に割安感のある数字となっています。
これを受けて、バリュー株投資家と呼ばれる人たちが買いを入れていますが、果たして今は本当に買うべき状況なのかということを見ていこうと思います。
ヤマダHD下落のワケ
これがヤマダホールディングスのここ1年の株価ですが、4月頃の600円くらいをピークに下落を続け、いまや392円と、1年の下落率が25%にもなっています。
しかし、株価が下がるということは割安になるということでもあります。
PER5.6倍、PBR0.51倍ということで、PERは10倍を、PBRは1倍を下回ると割安といわれる中でその約半分となっています。
この割安感から、今株を買いたいと思っている投資家も少なくありません。
しかし、PERやPBRを見て投資をすれば儲かるというほど株式投資は甘くありません。
株価の下落には原因があるので、それを探る必要があります。
株価は基本的に需給のバランスで決まります。
買いが多ければ上昇し、売りが多ければ下落します。
株の売買を見るときに、『5%ルール』というものがあります。
5%ルール…その会社の株式を5%以上持っている投資家は、持ち株が1%以上変動する際に財務省に報告し、公表される。
これで読み取れるのが大株主(ファンド)の売買状況です。
ヤマダホールディングスについて見てみると、エフィッシモとブラックロックが大きな売買を繰り返していました。
エフィッシモは村上ファンド系列の会社で、割安な会社に目を付けて増配要求などを行い一時的に株価を押し上げて利益を得るといういわゆるアクティビストと呼ばれるファンドです。
しかし、このヤマダホールディングスに関してはあまり成果をあげられておらず、2021年4月のピークを越えたら大きく売りに転じました。
これほどの売りに対応する買いが出るのはなかなか難しいので株価は下がることとなりました。
ブラックロックも、割安ということで一時は買いを入れたものの、この11月には一気に3.24%も売り、その売り圧力によってさらに株価は下落しました。
この5%ルールによって、どのファンドが何を考えてどう売買しているかが分かるわけです。
では、今回なぜヤマダホールディングスが売られているのかを考えていきたいと思います。
まず、ヤマダホールディングスがMSCI指数から除外されるということがありました。
MSCIに準拠しているファンドも多く、除外されることでさらに売りが入り、どんどん下落するという悪循環に陥りやすいです。
ブラックロックはどちらかというとMSCIに沿うようにファンドを構成しているので、今回の除外によって売りが発生することとなったと考えられます。
コロナ特需の反動というのもあります。
コロナ禍で、「巣ごもり」「テレワーク」「給付金」といった追い風が吹きました。
業績も2020年10~12月期がピークとなっています。
しかし、いくら特需があったとしても、家具家電というものはそう頻繁に買い替えるものでもなく、業績は落ちてきました。
短期の投資家は業績が落ちたら即売りという判断を下す人も少なくありません。
コロナ特需は単なる需要の先食いだった部分もあり、今後数年は大きな需要が生まれにくくなるのではないかとも見られています。
先ほどの業績のグラフと期間を合わせたチャートを見てみると、確かにコロナ特需の時は大きく上がりましたが、その反動が警戒されて下がり続けています。
ここまでは目先の業績を見てきましたが、もっと長期の業績を見てみましょう。
ピークは2011年の3月で、その後は基本的に右肩下がりとなっています。
それまでが好調すぎたと言えるかもしれません。
当時はとにかく規模を拡大し、どこよりも安いをウリにしていました。
しかし、2010年代に入り、アマゾンに代表されるインターネットショッピングが台頭してきました。
同じ電化製品でネットの方が安いとなると、ヤマダで買う必要はありません。
ウリが価格だったので、ECに負けやすいものだったのです。
そもそも利益率は低く不安定だったところにECが台頭してきたことで、業績が押さえつけられていました。
ヤマダの戦略は当たるか?
しかし、ヤマダも手をこまねいているわけではなく、大きく3つの戦略を行っています。
1つ目は「SPA商品」です。
いわゆるプライベートブランドです。
冷蔵庫や洗濯機といった割とシンプルな家電を比較的安価で販売しています。
既存の日本のメーカーの商品は機能を盛り込みすぎて高くなってしまっている部分が否めませんから、ジェネリック家電という形でシンプルで安く提供しています。
自社で製作することで余計なマージンも省けますし、供給者への力も強いので価格も抑えやすいです。
2021年3月期には、売り上げの12.6%、粗利の23.5%をSPA商品が占めています。
トータルの売り上げは変わらなくても、利益率を向上させることで利益を拡大することができます。
このSPA商品戦略は、ニトリやイオンがそうであったように、戦略として間違いはないものと思われます。
2つ目に「暮らしまるごと」という戦略です。
ヤマダは元々電器屋さんですが、今は特に住宅分野に強く乗り出しています。
ヤマダ・エスバイエルでは家を作っていますし、2020年に買収したヒノキヤも住宅メーカーです。
記憶に新しいところで言うと大塚家具も買収しました。
家の外身だけでなく中の家具まで提供しようということです。
電化製品以外にも売り上げを広げようという戦略です。
3つ目に、売り場面積を拡大しようとしています。
店舗数を増やすといってもいいかもしれません。
店舗数は2011年をピークに、減らしてきていましたが、ここにきてまた増やそうという動きを見せています。
今度は電化製品に限らず、住宅に関する幅広い商品を売っていこうとしているのではないかと思われます。
ここからは私の意見ですが、このヤマダの戦略はあまり洗練されたものではないと考えています。
SPA商品については異論はないですが、ではそれがどういう人に売れているのかを考えなければいけません。
今時、ヤマダ電機の店舗へ行って、実績もない無名のSPA商品を買う人はどんな人かを考えると、高齢の方が多いのではないかと思われます。
シンプルで安くて、動けばそれで良いという人たちです。
しかし、若い人たちにはネットがありますから、ネットで比べて買えばいいですし、シンプルで安くというのであればアイリスオーヤマで良いということになってしまいます。
今のヤマダの顧客は高齢者なのです。
ではその高齢者が、今からヤマダ・エスバイエルで家を建てて家具一式をヤマダで揃えて、ということがあるでしょうか。
広い売り場をうろうろして商品を選びたいでしょうか。
買うとしたら店員さんが付いて提案してくれる方が良いのではないでしょうか。
このあたりは大塚家具の失敗と似ているところがあります。
顧客が見えていないこのヤマダの戦略は、私は評価していません。
もちろん、この戦略がうまくいく可能性もありますが、投資家としてはそういった目線が必要だということです。
本当に割安なのか
株価の話に戻ります。
PER5.6倍というのはかなり割安に見えますが、この基準になっている純利益がコロナ特需の時のものです。
特需がずっとは続かないことを踏まえて、仮に過去5年の平均の純利益で対比してみると、約12倍という数字になります。
これでもまだ割高ではないですが、ECの台頭で苦しい状況は続くでしょうし、将来性を考えるとそこまで割安でもないと見えます。
一方でポジティブなシナリオも考えなければなりません。
中長期計画の水準で、2025年3月期の目標を達成したとすると、PERは約5倍となり、かなり割安な数字です。
同時に、業績が良かったのはコロナ特需のためだけではなかったということになります。
しかし、この中長期計画は楽観的なもので、今のコロナ特需で下駄をはいた状況がずっと続くとは思えませんし、戦略も洗練されたものではないというのが私の意見です。
株を売買するときに考えるシナリオ
最後に、ヤマダの株を売買しようとしたときにどういうことを考えるべきかということを解説します。
株を売買する時には、期間、買いの視点、売りの視点のマトリックスに当てはめると、今の考えと行動が明確になります。
ヤマダを当てはめるとこのようになります。
もし売買を考えるなら、自分がどのシナリオに賭けているのかを明確にしなければなりません。
今ヤマダを買っている人は、おそらくこの中期の割安感の是正を見込んで買っていると思われますし、一方でコロナ特需の反動も常に警戒していなければなりません。
もっと長期で持とうと考えているなら、成長戦略の実現性を分析する必要があります。
少なくとも私は3年や5年の長期で買える銘柄ではないと考えていて、もし買うとしたら短期中期のシナリオを検討するでしょう。
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