今回は花王についてです。
目下、株価が非常に下がっていて、気をもんでいたり逆にそろそろ買ってみようかと考えている人もいるかと思います。
花王の今の状況とこれからどこに向かおうとしているのか、また、株価は割高なのか割安なのかについても解説します。
花王の株価、なぜ下がる?
まず、これが過去5年の株価の推移です。
2017年頃からじわじわ上がって2020年のコロナショックの前に一旦ピークを迎え、その後ずるずると下がっています。
2021年から2022年にかけては大きく下がり、この1年でおよそ30%も下落している状況です。
しかし、花王は実は国内でもかなりの優良銘柄と見られています。
その最大の理由が連続増配です。
一度も途切れることなく現時点で32期連続の増配を達成しています。
これは日本企業で断トツです。
日本に限らず、日用品メーカーはじわじわと長く利益を上げ続けるという特徴があります。
アメリカだとP&Gなどがそれに該当すると思います。
しかし、それだけ強い基盤を持っていても、これだけ株価が下がり続けると、いくら長期投資といっても不安が募ります。
なぜこれほどまでに下がり続けているのでしょうか。
直近で大きく下げたのは決算発表を受けてだと思われます。
利益が減っている最大の理由は原材料価格の変動です。
原油価格の高騰で原材料費や物流費が上がり、利益を圧迫しています。
また、昨年度はコロナの関係で衛生用品の売り上げが伸びて、その反動で今期は売り上げが下がっています。
利益が減った理由として、インバウンドの消滅もあります。
コロナ前には中国人観光客が紙おむつを爆買いすることが多くあり、株価や業績も大きく上がりました。
しかし今ではそれが無くなり、「構造改革」ということで作った紙おむつのための様々な設備が想定していた利益を上げないということとなり、71億円の損失を計上しています。
こういったことがあり、昨年度1756億円あった利益が1435億円となってしまいました。
この1435億円という数字は、当初花王が想定していた利益を下回っているものなので、投資家の失望を招いてしまいました。
改めて長期の業績を見てみますと、2019年くらいまでは順調すぎるほどに伸びていました。
しかし、2020年からはガクンと下がってしまいました。
大きな理由としては、2016~2019年の利益はインバウンドに支えられていたもので、それが無くなって大きく下落したという状況です。
インバウンドが特需であるという認識はされていたものの、コロナショックやその後の原油価格の上昇、インフレによって、売り上げが減るだけでなく原材料費も上がって、結果として大きく利益が減ってしまっているという現状です。
強固なビジネスモデルで問題なし!オーケーの乱は波及するか?
ただし、そもそも花王は強いビジネスモデルを持っています。
「日用品」というものは、急激に大きく伸びるものでもありませんが、一方で”負けにくい”もので、長期にわたって利益を出し続けるという性質があります。
ゆえに、あのウォーレン・バフェットも日用品業界を高く評価しています。
花王は食器用洗剤や洗濯用洗剤といった基本の商品で高いシェアを取り続けてきました。
スーパーの棚の占有率も高くなり、スーパーとのパイプもできて流通も強くなりました。
すると、洗剤だけではなく、商品軸を拡大することができるようになります。
今までは無かったけどこれからの人々の生活に必要だという新商品を生み出し、売り上げを伸ばしてきました。
既存の商品に関しても、より高付加価値の商品を生み出すことで価格を引き上げ、利益率を向上させてきました。
商品軸の拡大と高付加価値商品による利益率の向上、これによって必ずしも成長できていない日本経済の中でも業績を伸ばし続けてきました。
感覚的には、価格を上げると消費者が付いてこないのではないかと思えますが、花王においてはその心配は少なくなっています。
日用品業界は少数のメーカーによる寡占の状態だからです。
スーパーの棚でも、花王、ライオン、P&Gの商品がほぼ占めていて、それ以外のメーカーの商品が入る余地はないと思います。
洗剤なんかは一度買ったら多くの人は次も同じ商品を買うでしょうし、同じブランドで価格の高い高付加価値商品に誘導することで利益率を上げていきます。
寡占市場なので、一社が値上げをすると暗黙の了解で他の会社も追随するということも起きやすくなっています。
よほどの失敗が無い限り、価格を上げやすい環境であるということです。
今回の決算発表会でも、足元の原材料高を受けて値上げを断行すると言っています。
ところが、その値上げに反発した会社があります。
スーパーのオーケーです。
値上げをするならもう花王の商品は置かないという強い態度を示しています。
これほど強く出られるスーパーはなかなか無いと思いますが、こういう動きが出てきたことは花王としても無視できないと思われます。
オーケーはそこまで規模は大きくありませんが、例えばイオンなんかが同じ動きをすると花王も困ってしまいますので、そのあたりのパワーバランスは今後注視する必要があると思います。
想定と選択。あなたはどのシナリオにかける?
株式投資では、これからどうなるかということが重要です。
もちろん決まった一つの未来というものは存在しないので、様々な可能性を考えて自分はどの可能性にかけるのかを選ぶというのが投資の一連の流れです。
私の場合はGoodシナリオとBadシナリオを想定します。
Goodシナリオにかけたとしても、想定通りにいかなそうだと考えた時には潔く撤退することも投資家として大事な行動です。
ではまず花王のGoodシナリオを考えます。
目下の原油高を受けて商品の値上げを行います。
しかし、この原油高はコロナの混乱によるものなので、今後落ち着くという見方もあります。
仮に原油価格が下落したとして、その分一度値上げした価格を元に戻すかというとおそらくそうはしないと思われます。
寡占市場のなせる業です。
そうなると、売り上げは上がりコストは下がるので利益が拡大します。
そこから今までの成長戦略を淡々と行うことで成長路線に戻るというのがGoodシナリオです。
一方でBadシナリオです。
値上げを行うところまでは同じですが、その後景気が悪くなったとします。
すると、値上げした花王の商品が売れなくなり、売り上げが下がります。
在庫を抱え続けるわけにもいかないので、今度は値下げをせざるを得なくなると、利益が削られることになります。
このGoodシナリオとBadシナリオ、どちらの可能性が高いかというと、再三言っているように、日用品は寡占市場であり、しかもどうしてもなくてはならないもの、あるいは惰性で買い続けているものであったりします。
景気の良し悪しにかかわらず使うものなので、少なくとも日用品に関しては強い力を持ち続けると思います。
結局花王は「買い」なのか?
では、この株価低迷を受けて、花王は買いなのか、というところを見ていきたいと思います。
PER21.4倍というのは必ずしも割安といわれる数字ではありません。
平均が15倍と言われていますから、むしろ割高に見えます。
逆にこれまではPER30倍とかで取り引きされていましたから、下がったとはいえまだ割高な水準です。
しかし、私は花王のPERは他の会社と比べて高くていいと考えています。
その理由はPERの決定要因にあります。
簡略化すると、あるべきPERはこういう式で表せます。
リスクが高いとPERは小さくなり、成長性が高いとPERは大きくなります。
花王は成長性はそれほど高くはないですが、盤石の基盤があるのでリスクが相当低いです。
低いリスクとまあまあの成長性ということで、結果的にあるべきPERは割と高いものとなります。
これまでは平均して25倍くらいで取り引きされていたので、投資家の見方ではそのくらいが妥当なのではないかと思います。
それに比べて21倍というのは割安であると見えます。
そして、連続増配銘柄ということで、これからも利益を増やしていけるのであれば配当も増えていくと思われます。
現在の配当利回りが2.8%で、増配を続けるとなると、買値に対する配当利回りはどんどん上がっていくことになるので、安定銘柄として持っておくには良い状況なのではないかと思います。
安定銘柄といっても、今のように株価が下がることは往々にしてあります。
そういう時に手放すのではなく、本当にその銘柄に自信があるなら、下がった時に買うことが大切です。
目先の上下動ではなく、その企業が長期にわたって利益を伸ばし続けられるかを判断する能力が長期投資家には求められるのです。
しかし、私は花王の買いを煽るつもりはありません。
皆さん自身で考えて納得して判断していただきたいと思っています。
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