株式市場の代表的な理論に、「効率的市場仮説」というものがあります。これは、株式市場におけるあらゆる情報は、公表された時点で瞬時に株価に反映され、その結果株価はいつも適正な価値を反映しているという考え方です。
この考え方に基づくと、株価は常に合理的であり、市場の「ミスプライス」を利用して利益をあげ続けることはできないとされます。それにもかかわらず、現実の市場においては、株価が適正な価値を大きく上回る「バブル」や、その反対である「ショック」がたびたび繰り返されてきました。
私は、効率的市場仮説には一定の正しさがあるものの、同時に不完全な部分もあると考えています。バリュー株投資は、その不完全さを利用して利益をあげる考え方です。つまり、チャンスは頻繁に訪れるわけではないものの、必ず訪れるものと考えます。
不完全な効率的市場仮説
効率的市場仮説においては、市場参加者の全てが株式の価値に基づいて取引し、市場でやり取りされる情報が価値にどのような影響を及ぼすかを全員が知っているという前提が置かれます。
この前提は、物理科学で言う真空状態のようなものです。真空状態を前提とした物理公式が、空気や重力の存在する地球上では成立しないのと同様に、効率的市場仮説も現実の世界にそのままあてはめることはできません。
空気や重力を計算することで物理公式は修正できますが、株式市場は人間が介在するものであり、それを計算することはまだ難しいと考えられています。もしそれができたとしたら、ノーベル賞ものでしょう。
現実の市場では、様々な考え方をする投資家が存在します。株式の価値に基づいて合理的な判断を行うとする投資家もいれば、ただ単に株価の動きだけを目標とする投資家、あるいは配当や株主優待目的の投資家も少なからず存在します。
公表された情報も全ての人が瞬時に認識するわけではない上、その受け取り方もさまざまです。ある企業が会社を買収したとしても、それがその企業の業績にプラスなのかマイナスなのか、受け取る人によって評価が分かれます。
さらに、「価値に基づいた合理的な判断」と言っても一筋縄ではありません。株式の価値の原則は、簡単に言うとその株式を発行する企業の将来の利益を足し合わせることですが、将来のことは正確に予想することはできません。それゆえに、完全に正しい適正価格というものは存在しないのです。
理論を心理で補完する
「正しい適正価格」が存在しない中で、あえて答えを見出そうとすれば、唯一の正解は市場で付いている株価です。あらゆる種類の市場参加者がいる中で、合意点として形成されるのが株価であり、それ以上の答えを見つけるのは難しいと言えます。トレーダーの間では「市場は常に正しい」という格言もあるほどです。
株価が常に正しいとすれば、株式市場で利益を出し続けるためには、いくら情報を調べても無駄ということになります。したがって、一般的な情報からは見抜くことのできない並外れた洞察力を身につけるか、公開前の情報を得なければなりません。
後者はインサイダー取引として犯罪ですから、決して手を出してはいけません。「並外れた洞察力」は、ごく一部の天才的な能力を持っている人を例外として、多くの投資家は備えているものではありません。勉強して身につけるのにも限界があり、私もそれができるとは考えていません。
しかし、私のような凡人でも、株式市場でミスプライスを見つけて、継続的に利益を上げる方法が1つあると考えます。それは人々の心理を利用することです。
すでに述べたように、株価は多くの人の様々な考え方の合意点として形成されるものです。しかし、まれにその合意点が大きく動く場合があります。それは、ほとんど全ての人が同じ方向に動いた時です。
例えば、企業のスキャンダルや業績不振が伝えられると、多くのマスメディアや市場関係者がその企業に対するネガティブキャンペーンを行います。それを見た人々は、多くの場合その企業に対する悪い印象を抱きます。人々がその企業の株を一斉に売却した結果、株価は本来の価値から「明らかに」割安になることがあるのです。
しかし、時間が経って人々が冷静さを取り戻すと、株価の動きが行き過だったことに気が付きます。そうすれば、効率的市場仮説に基づいて「正しい」株価に戻っていくのです。この戻りを利益に結びつけるのが、バリュー株投資の基本的な考え方です。
人々が合理的な判断を通り越して一斉に同じ方向に動くことは、群集心理の1つとして心理学ではよく知られています。群集心理を逆手に取ることで、普通の人でも市場に起きるミスプライスを見つけることができるのです。
※本記事は会員向けレポートの一部を抜粋したものです。
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