個人投資家は機関投資家よりも有利!?

株式市場を大きく動かしているのが機関投資家です。多くの個人投資家にとって機関投資家は未知の存在ですが、実際に売買を行っているのはあくまでひとりの人間です。その行動特性を知れば、個人投資家が機関投資家を上回ることは難しくありません。

機関投資家は誰よりも「短期志向」

機関投資家とは、投資信託の運用会社や銀行・証券などの金融機関のことです。しかし、いまや東証で売買をしている投資家のうち6割以上は海外投資家であり、その大部分は顧客の運用委託を受けた、いわゆる「ファンド」です。

ファンドとは、年金基金や富裕層から集めたお金を運用する、日本で言うところの投資信託に該当します。重要なのは、ファンドの多くは「委託勘定」であり、自らのお金を投じている訳ではないと言うことです。

ファンドが利益をあげるためには、運用成績以上に「いかにお金を多く預かるか」がビジネスの鍵を握ります。預かり資産に対する比率で手数料が決まるからです。

運用受託者であるファンドは、委託者である顧客のプレッシャーを受け続けます。投資信託は1ヶ月単位で運用報告書の提出が求められ、パフォーマンスが悪ければ解約も増えてしまいますから、そうならないために目の前のパフォーマンスを上げることに集中します。

そのような特性を持つ機関投資家が「買うべき」なのは、足元でぐんぐん上昇している銘柄です。ものすごい勢いで上昇している銘柄を持っていなければ、委託者から「なぜ持っていないのか」とクレームを受けることもあるでしょう。このプレッシャーが、機関投資家が人気銘柄を買わざるを得ない状況を作り出しているのです。

人気銘柄を買う際は、多くの場合バリエーション(PERやPBR)はさほど気にされません。PERがいくら高くなっていようとも、目の前で株価が上昇している限り、あれこれと理由をつけてはその株を買うことが正当化されます。その行為が、人気銘柄の株価を必要以上に押し上げるのです。

バリエーションが高すぎる銘柄の多くは実態が伴わず、期待が剥がれれば脆くも崩れ去るものです。しかし、機関投資家にとってそれは大きな痛手にはなりません。なぜなら、彼らのパフォーマンス評価は「絶対評価」ではなく「相対評価」だからです。

「相対評価」とは、インデックス(TOPIXなど)をどれだけ上回っているかと言うものです。相場全体が上昇基調の時にインデックスを上回っていた方がいいのはもちろんですが、下落時にはインデックスよりマイナス幅が小さければ良しとされます。要するに、その評価基準は風見鶏でしかないのです。

そのため、相場の雲行きが怪しくなると、機関投資家はわれ先に逃げようとします。仮にその投資がマイナスであっても、逃げ遅れればパフォーマンスはインデックスの下落幅を下回ってしまうからです。こうして売りが売りを呼び、下落相場はいつも劇的な動きになるのです。

このように、機関投資家は誰よりも「短期志向」なのです。扱う金額も大きいため、彼らの動きが相場の振れ幅を大きくするのに一役買っています。

「逆張り」と「バイ&ホールド」が機関投資家に勝つ秘訣

上記のような機関投資家の特性を知っていれば、皆さまのような個人投資家が機関投資家に勝つのは難しくありません。

個人投資家の投資スタイルは自由です。自分の資金を使って売買を行うため、誰からのプレッシャーを受けることもありません。そのため、機関投資家から一歩引いたスタンスを取ることがパフォーマンスを上げることにつながります。

個人投資家全体を見れば、株価が下がったときに買い、上がった時に売る「逆張り」の傾向が見られます。これは機関投資家とは逆の動きです。当社が推奨しているバリュー株投資のスタイルにも比較的似ています。

個人投資家の強みは、機関投資家が売らなければならないような「不祥事銘柄」や「業績悪化銘柄」が安くなった時に買うことができる点です。多くの人から嫌われる銘柄も、誰の許可を取る必要もなく自分の責任において買うことができます。価値が伴っていれば、時間が経つに連れて適正な株価を取り戻し、結果的に大きなパフォーマンスを上げることができるでしょう。

個人投資家のなかには一日中画面に張り付いて取引を行うデイトレーダーもいますが、大部分は買ってから3〜5年以上持ち続ける「バイ&ホールド」のスタンスです。特に、昔からの富裕層にこそ、その傾向が見られます。彼らは気に入った株があれば目の前の動きにとらわれずいつまでも持ち続けるのです。

「逆張り」と「バイ&ホールド」は、バリュー株投資の考え方に合致するものです。短期的な成果を求められないからこそ、本当に価値のある株をより安い時に買い、あとは適正な価値に上昇するまで待つことができるのです。

一方で、短期的な成果を求めると、瞬間的には良いパフォーマンスが挙げられるかもしれませんが、株価が下がる局面では大きく資産を減らしてしまいます。このような人が参入しては敗れていくのが株式投資のイメージを悪くしていますが、うまくいっている投資家の実像は、彼らとは一線を画す長期投資家なのです。

腰を据えて先を見据えた投資を行う正統派個人投資家になり、長い目で見た時に機関投資家を上回ることを目指しましょう。

※本記事は、会員向けレポートの一部を抜粋したものです。

執筆者

執筆者:栫井 駿介

栫井 駿介(かこい しゅんすけ)

つばめ投資顧問 代表
株式投資アドバイザー、証券アナリスト
ビジネス・ブレークスルー(株)「株式・資産形成実践講座」講師

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