裸の投資家は誰か?~下落局面で資産を守るために

バフェットの名言に「潮が引いた時に、初めて誰が裸で泳いでいたかわかる」とあります。相場の下落局面にこそ、正しい投資をしていたかどうか分るということです。

上昇局面で利益を上げるのはさほど難しいことではありません。しかし、長期投資で重要なのは、下落局面で資産を守れるかどうかです。資産を守れなければ、それまでの利益が吹き飛んでしまうばかりではなく、焦って行動することによりさらに資産を目減りさせてしまいます。

あなたは水着を穿いているか?

バフェットの言う「潮」とは、相場全体の盛り上がりのことです。相場が好調で、株価が上昇を続けているときは、銘柄の良し悪しや割安・割高の区別なく上昇します。このような状況では、その銘柄の株価が実力なのか、それともただの思惑なのか判断するのは難しいように見えます。

好調が続く「上げ潮」相場では、多くの投資家は銘柄の実力を見極めるのではなく、明日どの銘柄の株価が上昇するのかということばかり考えます。人気を集めそうな銘柄の「噂」ばかりを気にして、その企業のありのままの姿を見ようとしません。まさに美人投票の様相を呈するのです。

このようなとき、短期志向の投資家は、自分が水着を穿いているかどうかを忘れてしまいます。もしかしたら、最初から穿いているかどうかもわかっていないかもしれません。上げ潮にまみれて自分の銘柄選定能力を過大評価し、次々にリスクの高い投資に乗り出します。

しかし、上昇を続ける潮はありません。どこかで必ず上げ潮は引き潮に変わります。自分が水着を穿いていないと認識している投資家は、潮が引く前にいち早く逃げようとします。特に機関投資家はこのような傾向が強いでしょう。

最も悪い状況に陥るのは、自分が水着を穿いていないことを認識していない投資家です。特に、投資を始めたばかりの個人投資家に多いように思います。潮が引いても為す術なく、裸をさらすことになってしまいます。

その後で慌てて逃げようにもあとの祭りで、どうしたらいいかわからずに損失を膨らましてしまいます。マイナスが膨らむと多くの個人投資家は株式投資に絶望し、市場から退出してしまうのです。これが、個人投資家の裾野が広がらない要因でしょう。

個人投資家が裸を晒さない方法

引き潮相場で裸をさらしてしまわない方法は2つあります。1つは自分が水着を穿いていないと認識し、引き潮になった瞬間に逃げること、もう一つはきちんと水着を穿くことです。

水着を穿いていない状態から逃げ切るのは容易ではありません。これは完全に瞬発力の勝負となります。四六時中モニターを眺めている機関投資家に個人投資家が勝つのは現実的には不可能と言って良いでしょう。その機関投資家ですら、逃げきれずに多額の損失を出してしまうことがほとんどなのです。

デイトレーダーでもない個人投資家に残された道は「きちんと水着を穿くこと」です。それはどういうことかと言うと、思惑で株価がついている割高な銘柄には手を出さないということです。

思惑で動く銘柄の株価は軽く、簡単に利益が出るためつい手を出してしまいがちです。そのせいで人気化しやすく、実力からかけ離れた高い株価に押し上げられてしまうことも少なくありません。企業の実力を認識していない投資家は、「この銘柄は上がる銘柄だ」と勘違いしてしまいます。

一方で、引き潮でも底堅い動きをする銘柄の株価は動きにくいことが多いものです。ビジネスとしては古臭かったりして、あまり明るい未来を描けるものではありません。しかし、このような銘柄こそ確固たる競争基盤を持ち、安定したキャッシュ・フローを生み出し続けるのです。

長期の株価研究でも、華々しい新規ビジネスにより成長性が大いに期待されて高いPERで取引される銘柄よりも、地味なオールド・エコノミーの低PER銘柄に投資した方が高いパフォーマンスが得られることが示されています。

もちろん、成長銘柄が悪いというわけではありません。成長性は株式の価値の重要な要素です。問題なのは、投資家が成長性に過度に期待した結果、実力以上の株価で購入してしまうことです。それにもかかわらず実力以上の株価で購入してしまうのは、ビジネスの実態ではなく株価ばかりを見て取引してしまうからでしょう。

賢明な投資家は、株価の動きではなく企業の実力を見つめ、常にそれよりも割安な株価で取引されている銘柄に投資することを心がけましょう。

※本記事は会員向けレポートの一部を抜粋したものです。

執筆者

執筆者:栫井 駿介

栫井 駿介(かこい しゅんすけ)

つばめ投資顧問 代表
株式投資アドバイザー、証券アナリスト
ビジネス・ブレークスルー(株)「株式・資産形成実践講座」講師

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