カナダの住宅金融機関救済でわかるバフェット投資の真髄

バフェットが、経営難に陥ったカナダの住宅金融機関ホーム・キャピタルに出資し、すでに90%のリターンをあげたとのことです。最近はAmazonやGoogleなどの成長企業への羨望を口にしますが、彼の本質は師匠のベンジャミン・グレアムから受け継いだバリュー投資であり、ホーム・キャピタルへの投資はその真骨頂と言えます。

【参考】「最後の貸し手」バフェット氏が復活、カナダ企業救済で含み益(ロイター)

株主の過剰反応で超割安水準にまで下落

バフェットが救済したホーム・キャピタルとは、カナダで住宅ローンを組成する会社です。厳密には銀行ではありませんが、預金を調達して住宅向けに貸し付けるビジネスモデルは、銀行そのものと言えます。

経営難の発端は、住宅ローンの借り手の所得に関する資料に改ざんがあったとする問題に絡み、株主を欺いたとして現地の金融当局から処分されたことです。

問題が発覚すると、同社の経営が不安視されたことから、住宅ローンの裏付けとなっていた高金利の預金を引き出す取り付け騒ぎに近い状況が起こりました。

資料の改ざんやそれに対する金融当局の指摘は、ただちに住宅ローンが焦げ付いたり、同社の経営を窮地に陥らせるものではありません。同社の財務状況も健全と言えるものでした。

しかし、預金を一気に引き出されてしまっては、金庫からお金がなくなってしまい、「黒字倒産」も免れない状況になってしまいます。この状況を受けて、同社の株価は最大7割近く下落しました。

前述の通り経営そのものに問題があるわけではなく、預金者や株主の反応は過剰と言えるものでした。ホーム・キャピタルは、一時しのぎの現金さえ確保できれば、十分な利益を生むことができる会社だからです。

【純利益(左)とEPS(右)】

株価が25ドル前後から6ドルまで下落すると、前期業績に基づくPERは1.6倍、PBRは0.24倍と、とてつもなく割安な水準になったのです。これが潰れないと分かれば、ものすごく「おいしい」投資です。

バフェット率いるバークシャーは、ホーム・キャピタルに20億カナダドルの与信枠を与えると同時に、最大4億カナダドル(株式の38%)の出資を行うことで救済しました。資金さえあれば潰れないことが分かっているわけですから、バークシャーの資金力に物を言わせた力技の部分があるとは言え、まさにバリュー投資の王道と言えるものです。

バフェットの本質は売り込まれた企業を買うこと

バフェットは、自分の投資を「85%はグレアム、15%は(フィリップ・)フィッシャー」と言っています。

一般的に注目される「いい銘柄を長く(永久に)保有する」手法は、15%のフィッシャー型の投資です。しかし、これはマーケットの強弱や、会社の経営方針など、自分の力ではどうすることもできない要素を多分に含みます。

それに対し、「圧倒的に割安な銘柄に投資する」グレアムの手法(バリュー投資)は銘柄固有の価値に基づくため、マーケットに左右されにくいものです。今回のケースがまさにこれに該当します。

この方法であれば、先の読めないマーケットや将来の業績に左右されることなく、本来の価値を取り戻すことで利益を得ることができるからです。そこで必要なのは先見性よりも、現状を正確に認識し、得体不明の「空気」に惑わされないことです。

この方針に従うからこそ、バフェットのポートフォリオは下落局面に強く、逆にそこで大きく勝負に出ることで高いリターンをあげられるのです。実際にバフェットは、リーマン・ショック後にも金融機関などに莫大な投資をしています。

私が目指しているバリュー株投資も、今回バフェットのように本来価値のある会社が大きく売り込まれたところで買うことを目指しています。

フィッシャーの手法も捨てがたいですが、まずはグレアムの手法を極めたいと思っています。特に、アメリカより潜在成長率の低い日本株は、成長よりも価値が重要だと考えているからです。

Print Friendly, PDF & Email

執筆者

執筆者:栫井 駿介

栫井 駿介(かこい しゅんすけ)

つばめ投資顧問 代表
株式投資アドバイザー、証券アナリスト
ビジネス・ブレークスルー(株)「株式・資産形成実践講座」講師

詳細はこちら
サイト訪問者限定プレゼント
あなたの資産形成を加速させる3種の神器を無料プレゼント

プレゼント①『株式市場の敗者になる前に読む本』
プレゼント②『企業分析による長期投資マスター講座』第一章
プレゼント③『YouTubeプレゼン資料』

メールアドレスを送信して、特典をお受取りください。
メールアドレス *
※送信したメールアドレスに当社からのお知らせやお得な情報をお送りする場合があります。

※個人情報の取り扱いは本>プライバシーポリシー(個人情報保護方針)に基づいて行われます。
※送信したメールアドレスに当社からのお知らせやお得な情報をお送りする場合があります。
※上記は企業業績等一般的な情報提供を目的とするものであり、金融商品への投資や金融サービスの購入を勧誘するものではありません。上記に基づく行動により発生したいかなる損失についても、当社は一切の責任を負いかねます。内容には正確性を期しておりますが、それを保証するものではありませんので、取扱いには十分留意してください。

気に入ったらシェアしてもらえると嬉しいです!

コメントを残す

Popular Article - よく読まれている記事Popular Article

  • 【LIXIL】配当利回り4.75%の裏にあるヤバい現実
    LIXILは住宅設備の最大手である LIXILの中核事業会社、株式会社LIXILは、2011年に国内の主要な建材・設備機器メーカーのトステム...
  • REITの利回り4.65%!今買うべき?
    今、株式市場で流行っているものといえば半導体株です。 半導体株が上昇し、それにつられて日経平均株価も上昇しています。 しかし、今、半導体に投...
  • 日の丸半導体ルネサス 時価総額6倍は達成可能か?AI半導体ブームに隠れたリスク
    ルネサスは、日本を代表する半導体製造メーカーであり近年業績を拡大させています。 一方で、2010年代の初頭は赤字が続く厳しい時期もありました...
  • 【さくらインターネット/住石ホールディングス/三井E&S】売るべきか買うべきか
    今回は「仕手株の流儀」についてお話します。 最初に断っておきますが、つばめ投資顧問では仕手株を推奨していま...
  • 【ソフトバンクグループ】株価急上昇!今からでも買うべきか?ARMの成長はどこまで続く?
    今回はソフトバンクグループについてです。 ついに株価が上昇してきましたが、その背景にはかつて3.3兆円で買収したARM

Article List - 記事一覧Article List

カテゴリから記事を探す