VTuber事務所『にじさんじ』を運営するANYCOLORを分析!

ANYCOLORは『にじさんじ』というVTuberを束ねるプロジェクトを行っている会社です。
6月14日に決算を発表し、なんと利益が2倍になるという大変好調な数字でしたが、株価は下落しています。
なぜこのようなことになったのでしょうか。

利益2倍!オタクを虜に?

こちらがANYCOLORの2023年4月期の決算です。

売上も利益も増えていて、営業利益率は37.1%と非常に高い数字となっています。

ANYCOLORのビジネスは簡単に言うと”VTuber事務所”(にじさんじ)です。
所属のVTuberがYouTubeに動画をあげたり配信したりすることによって、広告収入やスーパーチャット(投げ銭)、YouTubeプレミアムの収益を得ますが、メインの収入は別のところにあります。

売上高が最も大きいのは「コマース」の分野です。
キャラクターの記念ボイスやアクリルスタンドなど、いわゆる”オタクグッズ”をファンが購入するのです。
ファンが増えれば増えるほど利益が出ることとなりますが、特に記念ボイスなどは原価をほとんどかけることなく作れるのでこういうものをたくさん売ることで高い利益率となっているわけです。

業績も倍々に増えてきていて、今期予想では売上が330億円、利益が127億円というとんでもない予想となっています。

VTuber事務所は現状ではANYCOLORの『にじさんじ』と『ホロライブ』の2社の寡占という状態で、ANYCOLORの田角社長がこの分野の成長性に目を付けて一気に伸ばしてきました。

絶好調の決算発表後に下落!なぜ?

しかし、これだけ好調でありながら、決算を受けた株価は下落しています。

決算が発表されたのが6月14日の場が引けた後ですが、15日になって一瞬上がったもののその後下がって終値は前日を下回っています。
売上が約80%増、利益が約2.2倍になっているにもかかわらずなぜ下がってしまったのでしょうか。

考えられる理由はいくつかあります。

日本企業は本決算の時に今期の業績予想を発表しますが、株価が反応するのはこれまでの実績よりも今期業績予想の方です。

売上高が30.2%増、営業利益が34.9%増と、これもかなり高い数字ですが、決算における前年度との比較の売上高78.9%増、営業利益124.5%増と比べると低く、成長鈍化と見られた可能性があります。

株価下落の要因はこちらのデータからも推測できます。

右の「ANYCOLOR ID数」はお客さんの数のことですが、順調に伸びています。
しかし、気になるのは「VTuber数」と「YouTube再生時間」です。
YouTube再生時間は、日本においては(「にじさんじ」表記)2022年をピークにそれほど伸びていません。
VTuber数も同様で、新しい人は入ってきてもその分売れずに卒業する人も出てくるので総数としては増えていません。
見てくれる人は増えているものの、VTuberの数や再生時間は増えていないというのが現状です。

改めてVTuberというものを考えてみると、AKBグループに代表されるアイドルに近いものがあると思います。
AKB48は”会いに行けるアイドル”ということでライブでファンを獲得し、握手会であったりCDを販売することで利益を出していました。
VTuberも、”バーチャル”という仕組みは新しいものの、ライブ(配信)でリアルタイムで会話をすることでファンを獲得し、ボイスやグッズなどの販売につなげるというやり方はアイドルと似ています。
しかし、こういうやり方ではいつかは頭打ちになってしまいます。
一部にファンは増えているとしても、一般に広まっていくとは考えにくく、熱狂的なファンの課金によってある程度のところまでは売上が上がるとは思いますが、そこから伸び続けることはなかなか難しいでしょう。
それがPERにも表れていて、これだけ利益が伸びてきているのにPER29.2倍(6/20時点)と低めで、どこかで成長が止まると多くの人が考えているのではないかと思われます。

UUUMの二の舞?さらなる成長の可能性はあるか

実際にYouTuber事務所のUUUMも伸びる時は今のANYCOLORのように伸びていましたが売上高は頭打ちになり、今ではどちらかというと減少傾向にあります。

VTuber事務所は今は「にじさんじ」と「ホロライブ」の2強で、仕組みを整えるのも難しかったりして参入障壁は低くはないですが、やろうと思えばできないことではなく、これほど儲かるのであればと参入が増えて競争が激化することも考えられます。

今は成長性に対してPERが低いように見えますが、PERというものはその利益が継続する場合に意味を持つもので、利益や成長が続かないのであればあまり意味はありません。

UUUMの株価は2018~19年頃にピークを打ってその後はひたすら下がっているという状況ですが、ANYCOLORもこうなってしまうのかと思ってしまいます。

しかし、ANYCOLORにはUUUMとは少し違う部分もあります。

その一つはコスト意識です。
売上高の成長が止まっていてコストが増えていると利益が減っていくことになってしまいますが、資料を見ると、利益率が重視されていて、コストをいかに抑えていくかということが書かれています。
このことから、これまで調子よくやってきた割には慎重な会社なのではないかと私は思っています。
新興事業でこれだけ利益を出していると、多くの場合は新しい事業にどんどん投資したり人をたくさん雇ったりしてコストを増やしてしまうのですが、ANYCOLORはそういうことはなく、従業員も増えてはいるものの売上高ほどは増えていないのでこれだけ利益が増えているところがあります。
この慎重さは評価できるポイントであると思います。

もう一つ好材料は、海外で成長していることです。
UUUMは日本人が見るYouTubeのYouTuber事務所であり、すでに海外にもYouTuberはいるので、海外で戦える状況ではありませんでしたが、一方二次元の分野では日本は強いです。
海外の声優が二次元のキャラクターを使ってVTuber活動をすることによって、海外、特にアメリカで収益をあげています。

売上も実は既に3割近くをアメリカが占めていて、海外で成功しつつあるという点では非常に稀有な存在で、日本のIPビジネスの強さを改めて感じるところではあります。
もっとも、アメリカにおいてもいずれは頭打ちになってくるとは思いますが、また他の国に進出していけばまだ成長も可能かと思います。

もっと長期的な話をすると、やはり成長はどこかで頭打ちになると思います。
ANYCOLORがさらに成長するためには次の一手を打っていく必要があります。
VTuberの仕組みを盤石なものとして強みを磨きながら、自分たちが勝てる分野に進出することができるのであれば長期的に見ても面白い会社だと思います。

ANYCOLORが描くような展開が実現するようなら次の成長があってもおかしくないと思います。

不確実性が高い銘柄なので決しておすすめするわけではありませんが、面白い分野なので注目してみてもよいかもしれません。


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執筆者

執筆者:栫井 駿介

栫井 駿介(かこい しゅんすけ)

つばめ投資顧問 代表
株式投資アドバイザー、証券アナリスト
ビジネス・ブレークスルー(株)「株式・資産形成実践講座」講師

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