今回は日本を代表する成長企業であるリクルートを分析します。
あなたはリクルートにどんなイメージを持っていますか?
優秀な人が多い、ゴリゴリした営業マンが多い、起業している人が多い、給料が高い…こういったイメージを持たれてるのではないでしょうか?しかし、こういった熱いイメージから進化し、リクルートはITを活かした知的な会社になろうとしています。これまでの変化を振り返り
- これから先どのような企業になろうとしているのか?
- それは企業の成長にどう影響するのか?
- 投資する際の注意点はないのか?
といったリクルートの本質を考えていきます。
目次
Indeedで業績が急拡大した
まずは企業の事業内容を抑えましょう。業績推移を確認します。
出典:マネックス証券
上場以来、売上・利益共に順調に成長しています。特に目立つのは22年3月期の営業利益の増加です。この増加要因はなんでしょうか?
リクルートの事業別の営業利益推移を見てみましょう。
出典:各年度決算短信より作成
グラフを見ると、青線のHRテクノロジー事業の利益拡大が目立ちます。よってリクルートの22年3月期の営業利益が大幅増加した理由は、HRテクノロジー事業の成長が大きなポイントです。「HRテクノロジー事業」とは、主にアメリカ・欧州を中心に、求人検索エンジンのIndeed等を展開している事業です。
では、HRテクノロジー事業の他、それぞれの事業は、どのようなサービスを展開しているのでしょうか?確認してみましょう。
メディア&ソリューション事業
ー創業以来続く事業である。就職、住宅、美容、旅行、結婚、飲食などの分野でユーザーと法人を結びつけるビジネスを展開している。リクナビ、SUUMO、ホットペッパーなどが該当する。
人材派遣事業
ー事務職、製造業、各種専門職など幅広い人材派遣サービスを提供している。
リクルートスタッフィング、スタッフサービスホールディングスなどが該当する。
リクルートの主要な収益源は、企業が支払うサービス利用料です。転職サイトや住宅情報サイトにクライアント企業が情報を掲載し、その際にクライアントから手数料をとっているのです。
Indeedの強みは何か?
それではなぜIndeedは急成長したのでしょうか?まずはIndeedの強みを考えます。
結論から言うと、Indeedの強みは自分に合った求人に辿り着くまでの速さです。
私たちがよく広告で見る転職サイト等は、細かい会員登録を行い、企業の大量の求人広告の中から求人応募を行います。つまり、これまでの転職サイトは求人を調査・応募するまでに時間と手間がかかるのです。
一方でIndeedを経由すれば、会員登録不要であり、ネット検索と同じような感覚で自らの条件に合った求人を検索することができます。
実際にご覧になっていただきたいのですが、非常に簡単、かつ短時間で求人まで辿り着きます。この利便性の良さが、多くのユーザーを集めることに成功しました。
そして、企業側もできる限り効率的かつ安く採用活動を行いたいニーズがあります。Indeedはその両方を満たせるサービスです。企業側へ人材提案もする場合、その企業内で最もスキルを発揮できる人材を提案します。また、サービス利用料は基本的に無料です。
従って、自社で採用ページを持たない会社も大勢の人に求人を周知できるのです。そして、課金すると、求人広告が優先的に表示される・求人広告を見た人の動向をデータ分析できるなど、さらに効率よく採用活動を行うことができます。
さらに、AIと機械学習を用いることでその精度が改善されていきます。
このように、Indeedは今後も求職者と企業の採用・就職活動の効率を高めることが期待されているのです。これがIndeedの強みです。
リクルートはなぜIndeedを育てられたのか?
Indeedはリクルートが開発したサービスではなく、2012年にM&Aによって買収したサービスです。なんと当時は赤字の企業でした。しかし、リクルートは1,000億円を投じ買収します。
その後、現在はセグメント利益で、3,400億円を稼ぐまでに成長しています。
Indeedの強さがあることはわかりましたが、リクルートはなぜIndeedを成長させることができたのでしょうか?
最大の理由は、リクルート流のM&Aのノウハウを持っていたことが大きいと考えます。
実は、リクルートは2000年ごろM&Aを通じた海外進出に失敗しています。その時は、中国で人材派遣事業の拡大を試みました。当時は、現地の商売の文化や特徴を考慮せず、リクルート本社が多くの指示を出していたようです。そして結果的に中国事業は撤退となります。
この失敗から、リクルートは「買収先に過度に干渉せず自由度を与える方針」を心がけています。一方で、リクルートは資金は潤沢ですから、買収先企業に広告宣伝費を投入したり、追加システム投資を行うことがことができます。
つまり、Indeedがリクルートのもとで成長した理由は、リクルートが過度に干渉せず、Indeedの強みのビジネスモデルをそのまま活かせたこと。そして積極的に広告宣伝やシステム投資を行えるリクルートがこれまで積み重ねた利益等の自己資金が投入されたこと。
これらがうまく作用し、現在のIndeedの姿になったのです。
リクルート社内で起こる変化
ここまで主にリクルートの事業とIndeedの分析を行いました。あなたはこれを聞いてどう感じましたか?
「いやいや、リクルートの強さは営業力や企業文化じゃないの?そっちはどうなっているの?」と思われるかもしれません。
当然、リクルートで働く社員の方が優秀であることは間違いないと思います。しかし、「優秀」の定義が変わってきているのです。
ここからは、社員の質や会社の仕組みがどう変わったのか?
そして、その変化とHRテクノロジーはどのように作用するのかを考えます。
リクルートの歴史は変化の歴史と言っても過言ではありません。私はこれまで大きく3つの変化があったと思います。順番に解説します。
第1の変化:紙からネットへ
1960年リクルートは求人情報に特化した広告代理店として創業しました。
その後「ユーザーと企業を繋げる」というビジネスモデルのもと、SUUMOやじゃらん、ホットペッパーなどを生み出します。そして2000年代に入ると、紙で得ていた情報がネット検索に移り変わります。
この変化に乗るべく、紙媒体の就職情報誌を廃止しインターネットに切り替えました。この変化は自社の紙媒体の市場から自ら撤退する戦略でもあったため、売上高は10分の1にまで縮小しました。
しかし、インターネットユーザーが増えた事や、従来の強みであるリクルートの営業マンが力を発揮したことで業績が回復します。
結果的に、紙からネットへの移行は、利益率の向上や業績の拡大などをもたらしました。
第2の変化:国内から海外へ
インターネットの波に乗れたリクルートは更なる成長を行うために、M&Aを加速させます。まずは2007年に人材派遣会社スタッフサービスホールディングスを買収しました。当時リクルートは国内人材派遣業界では5位でしたが、M&Aによって一気に頂点に立ちました。
また、国内で事業基盤の強化を推進した後、2010年以降の海外へと視野を広げていきます。同年にはCSI、2011年にはStaffmark HoldIngsと、米国の派遣会社を次々と買収します。
そして、先ほども述べたように2012年には現在の稼ぎ頭であるIndeedを買収します。
このようにM&Aを用いながら、海外進出を加速させ、事業領域が拡大したことが大きな変化です。
第3の変化:個人の強さから組織の強さへ
そして、今起きてる事が第3の変化です。
それが「個人の強さから組織の強さへ」という変化です。
あなたのイメージ通り、リクルートの強みは営業力です。
特に第1の変化の時代、主に国内で「ユーザーと企業を繋げる」ために、リクルートの営業マンが企業や不動産屋、美容院、飲食店を直接訪問し、自社サービスを使用するように営業をかけていました。
そして現在は、インターネットやAIの普及により、デジタル技術やデジタルを活かして新たなビジネスを生み出せる人材が必要とされています。
つまりIT技術を使いこなせる人材や「0から1」を生み出す力がある人材がより重要となったのです。実際にリクルートに勤めている方の話を聞くと、
「採用基準が変わったように思う。10年前はガッツと情熱がある人が多かったが、最近はスマートな人が増えてきた。業務のIT化を進める雰囲気があり、社内起業システムも充実している。」
「社内で営業の成功体験を共有する仕組みがあり、営業が苦手な人を作らないように、会社がフォローしてくれている。ある部署の営業社員の98%は契約社員だが、正社員と同じ成果報酬型であるため、モチベーションが高い。」
私はこの話を聞いて、リクルートは従業員が力を発揮するための仕組み作りが上手だと感じました。そしてこの仕組み作りを支えているのが、スマートで賢い人材であり、IT技術を活かした業務改革ができる人材です。
リクルートで起こる人材の変化
この第3の変化の話をまとめます。
10年ほど前、リクルートを支えていたのは、飛び込み営業を苦としないガッツある社員でした。しかし、現在は営業の成功体験を社内で共有する仕組みを確立させ、リモートで自社サービスの説明をできるようになりました。
従って、現在は効率的な営業を行うための仕組みを作る技術がある人や求職者やクライアントの満足度を高められるビジネスを想像できる人が必要となったのです。
これが個人の強さから、組織の強さへの変化です。
HRテクノロジーでどう変わる?
さて、このように知的な人材が増えているリクルートですが、今後はどのような成長を遂げるのでしょうか?
可能性として考えられるのは、HRテクノロジー事業と他事業のシナジーです。
具体的にはIndeedのテクノロジーを人材派遣事業で活かしていく動きがあります。
例えばIndeed Flexというサービスがあります。(アメリカ向けのサービスであり、日本では使えません)
日本の一般的な人材派遣は説明会を聞き、求人を紹介、各種申し込み資料を記入し、企業担当者と面接…と働くまでに多くの過程が必要です。
しかし、Indeed Flexを使えばシフト決定、給与の振込口座の指定まで、すべてをスマートフォンアプリ上で完結することができます。スキル、勤務可能な場所や曜日・時間帯、希望の時給などの条件を入力するだけで、条件に合った求人が瞬時にリストアップされます。
こういったIndeedの仕組みはリクルートのミッションである
「まだ、ここにない、出会い。より速く、シンプルに、もっと近くに」
を実現できるものだと感じます。
リクルートの収益状況は、人材派遣事業が他の事業に比べて利益率が低いという課題があります。Indeedのシステムを活用することで労働集約型の業務がデジタルに置き換わり、更に成長する可能性を感じます。そして、この事業間シナジーの成功を最も高める要素が、先に述べたIT技術を活かせる人材、新規ビジネスを創造できる人材だと思います。
リクルートは常に変化してきた会社です。時代の潮流と自社の事業をうまく組み合わせながら、ここまで成長してきました。この変化に対応できる人材とそれを実現する会社の仕組み作りが、リクルートの本質的な強みだと感じます。
今後のリクルートの成長について見守っていきたいと思います。
執筆者
佐々木 悠(ささき はるか)
つばめ投資顧問 アナリスト 1級ファイナンシャル・プランニング技能士
東北学院高校、東京理科大学経営学部卒業。
協同組織金融機関へ入社後、1級ファイナンシャル・プランニング技能士を取得。
銀行勤務時は投資信託を用いた資産形成提案や多重債務者への債務整理業務に従事。
2022年につばめ投資顧問へ入社。
プレゼント①『株式市場の敗者になる前に読む本』
プレゼント②『企業分析による長期投資マスター講座』第一章
プレゼント③『YouTubeプレゼン資料』
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