『半導体戦争』を投資家の視点で読み解く!米国が「台湾有事」を煽る理由(前編)

今、半導体ブームということで、半導体関連銘柄の株価が大きく上昇しています。
果たして、これは一時的なブームなのでしょうか。
たしかに、目先では生成AIのブームによって半導体市場に火が付いている状況ではありますが、もっと昔からのことを考えると、戦後の経済は半導体の進化の歴史といっても過言ではありません。
そのことが記してあるものが最近ベストセラーとなっている『半導体戦争』という本です。

この本は500ページにも及ぶ大作となっていますが、今回はその中から内容をかいつまんでお話したいと思います。

「半導体」って何?

まずは、そもそも半導体とは何か、という話です。
イメージするところはいわゆる「チップ」になると思いますが、間違いではありません。
現代のあらゆる電子機器に半導体は使われています。

最近のコロナのパンデミックの影響で、「半導体が足りずに自動車が作れない」という話があったと思いますが、なぜ半導体が足りないと自動車が作れないのかと疑問に思った方もいるかと思います。
コロナで半導体の供給ができなくなったと言われていますが実態はそうではなくて、コロナ禍のDXでPCやスマートフォンの需要が急速に伸びたことによって、半導体の製造会社がPCやスマートフォンの製造に舵を切り、一方で自動車はコロナの影響で売れないから生産をストップして半導体の発注を見送ったりしたため、半導体を作るラインが足りなくなって自動車のところに半導体がまわらなくなったということです。

つまり、半導体というものは、そのバランスが少し崩れるだけで世界のサプライチェーンを大きく揺るがして世界経済に影響を与えるほど重要なものになっているということです。
かつては石油が世界においてとても重要な資源とされていましたが、今やその石油を圧倒的にしのぐくらい半導体が重要な産業インフラとなっています。
だからこそ全ての経済人・投資家は半導体のことを知る必要があると考えます。

半導体とは何かという話に戻ります。
簡単に言うと、一つ一つがスイッチになっているようなものです。
デジタルの世界になるので「0」と「1」しかない二進法となりますが、その0と1が無数につながることによって多くの情報を取り扱うということになります。
数が多ければ多いほど扱える情報の量が増え、高精度化しますが、数を増やすということはその分の空間が必要になります。
しかし、スマートフォンなどはどんどん小さくなっていて、それでより多くの情報を扱おうとすると、半導体を限りなく小さくすることが求められます。
半導体を小さくすることでデジタルの世界は進歩してきたと言えますが、最近の半導体は原子数個というレベルまで微細化が進んでいます。
この小ささを実現するためにはものすごい研究開発と、工場設備を作るためのお金がかかります。
たくさんお金をかけて半導体を作ることによってやがて性質の向上とコストの低減で世の中に半導体が普及してきたということです。
しかし、こういう設備投資産業は、投資したらその分回収しなければなりません。
そのため、わざとたくさん作ることになり、商品としての値段が下がってやがて利益が出にくくなって半導体不況に陥るという「シリコンサイクル」を繰り返してきました。

とにかく半導体というものはお金がかかるものなので、普通の一般家庭や企業が使うのは難しく、最初は軍事用途として開発されたものでした。
しかし、電卓やパソコンなどの民生品用の市場も大きくなって、今やその大部分は民生品ということになっています。
ただし、軍事においても重要な要素であることは今も変わりません。

特に市場が大きく開花したのは直近ではスマートフォンの登場によるものです。
これによって半導体の世界ががらっと変わることとなりました。

半導体市場の中心『TSMC』

今の半導体業界において台風の目となっているのがTSMCです。
TSMCが無いと半導体がまわらない、TSMCと直接的にバッティングする相手はもはやいなくなっているという状況です。
2010年代の半導体の世界はTSMCを中心に回っていたといっても過言ではありません。
その以前はインテルの独壇場で、「86系」と呼ばれる仕組みを独占し、PCに使われるCPUはインテルとAMDしか作れないということになっていました。
そのインテルのチップは汎用性が高く、PCのあらゆる作業をこなすことができ、値段が高くても使わざるを得なかったわけです。
それがPCだけではなくサーバーにも使うということでインテルは栄華を極めました。
半導体を作るのはものすごく難しい技術で、他がコピーしようと思ってもできるものではないので、一度開発のトップに立ってシェアを奪ってたくさん作ることになると、他は離される一方という現実があります。
だからインテルは独走状態を築けたということです。

その状況に大きな変化をもたらしたのがスマートフォンです。
実はインテルはAppleからスマートフォン用の半導体を作るよう依頼をされていましたが、PCやサーバーで大きく利益をあげていたので、売れるか分からないものを開発するリスクを取る必要はないと判断したようです。
そこでAppleは86系のシステムからすら脱却しようとします。
それがArmです。
設計まではArmの仕組みを使って行い、製造は台湾にあるTSMCに委託することにしました。
TSMCは依頼を受けて製造のみを行うファウンドリーというビジネスを専業で行っていて、技術を盗まれる心配が無かったのです。
その後、スマートフォンの需要が爆発的に伸びて、物を作れば作るほど開発能力・製造能力は進化していくので、やがてインテルに追い付き、ついには追い越したというところまで来ました。
今や世界の最先端を走っているのはTSMCです。

TSMCという、純粋に物を作るだけの会社が最先端の技術を獲得したことが、他の会社にもプラスの影響を与えました。
それが、AMDやNvidiaの台頭です。
あるアイデアがあってそれを実現するためには自分の会社で最先端の技術を使える工場を持つ必要がありましたが、ファウンドリーであるTSMCがその技術を獲得したことにより、AMDやNvidiaなどの新興企業が工場を持たずに最先端の製品を作ることができるようになりました。

こうして、気が付けばTSMC無しでは最先端の半導体は作れないという状態になっているのです。

米中の攻防

TSMCの台頭をよく思わなかったのが米国政府です。
半導体は軍事的にも非常に重要なものなので、米国政府としてはその技術は手元に置いておきたいです。
今は台湾から輸入できる状態なので不自由なく手に入れられますが、TSMCが台湾にあるという状態は米国政府にとって非常に大きな問題です。
台湾は厳密に言うと国ではなく、建付けとしては中国の一部となっていたりもします。
中国というと、一国二制度の下で民主主義も維持していくと言っていたもののその約束を破って事実上一体化してしまっています。
台湾でも同じことが起こる可能性があり、もしそうなってしまうと、TSMCの工場ないし技術をまるまる持っていかれてしまうことになります。
そういう事態を米国は非常に危惧しているのです。

ではどうしたかというと、とにかく技術を手元に置いておきたいということで、TSMCに補助金を出してアメリカに工場を建設し稼働させました。
これによって、形の上ではアメリカ国内で半導体の製造ができることになりました。
しかし、発展途上国である台湾で製造した方が経済的効率性は高く、台湾人の勤勉さも相まって、台湾人が台湾で製造した方が良いということになってしまい、アメリカに工場が定着しないとなると、生命線を台湾に握られているという状態は変わりません。

また、中国も半導体が軍事的にも重要なことが分かっているので、採算度外視で半導体の生産・製造を強化しています。
当然、中国は台湾の半導体を狙うことになりますが、アメリカとしてはそれは絶対に阻止しなければなりません。
だからこそアメリカは「台湾有事」を煽って常に中国をけん制し、禁輸措置なども行っています。
中国が半導体の技術を握ること、TSMCを中国に持っていかれてしまうことをアメリカは最も恐れています。


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執筆者

執筆者:栫井 駿介

栫井 駿介(かこい しゅんすけ)

つばめ投資顧問 代表
株式投資アドバイザー、証券アナリスト
ビジネス・ブレークスルー(株)「株式・資産形成実践講座」講師

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