日銀が長期金利の変動幅を最大1%まで容認するというニュースが入ってきました。
今後の株式市場に大きな影響を及ぼすものと思われます。
景気後退は起こるのでしょうか。
金利の「これまで」と「これから」
これまでは金融緩和策として金利を低く抑えて、住宅ローンや融資を受けやすくし、経済を潤そうとしてきました。
元々は長期国債金利は0.25%までだったものが昨年秋ごろに0.5%まで引き上げ、そして今回上限を1%まで引き上げるということです。
日本の金利が上がると何が起こるかというと、一つは円高です。
今はドルの金利が高くて円の金利が低いのでドルで運用した方がよいということでドルが買われて円が売られ円安となっていました。
円の金利が上がるということになると逆の動きが起こり円高に傾くことになります。
日本企業は輸出や製造業が多いので円安で利益を出しやすく、それによってこれまでは利益が嵩上げされて日経平均も大きく上がってきましたが、円高になると業績が悪化する可能性があります。
さらに言うと、外国人投資家から見ると円安で日本株が安く買えていたものが円高になるということで今のうちに利益確定しようという動きが出ると想定されます。
したがって、株価に関してはマイナスの側面が大きいということになります。
また、実態経済に対しては貸出金利の上昇が起きます。
そうなると住宅ローンを組んで家を買ったり融資を受けて事業を行うことに消極的になり、景気が冷え込む恐れがあります。
このようにマイナス面がある中でなぜ金利の上昇を容認したかというと、イールドカーブ・コントロールに問題があったからです。
金利0.5%に張り付かせるために日銀は0.5%のところで買いオペを行い、国債の価格を上げて金利を抑え込んできました。
しかし、市場金利としては0.5%に向かっているので次から次へと買わなければならなくなり、国債の半分を日銀が持っているという不健全な状態となってしまいました。
今は景気が悪くないので、今のうちに金利を上げておいて景気が悪くなった時に引き下げてカンフル剤とする余地を残すという考え方もあります。
他の国の中央銀行とはまだ差がありますが、日銀も少し利上げに舵を切ったという見方もできます。
しかし、日本はなお金融緩和政策を続けていますし、短期金利に関しては‐0.1%とマイナス金利を維持しています。
今後、景気が良くなったりインフレが行き過ぎるようなことがあると利上げの可能性も残ります。
インフレが少しは収まったもののなお強いということで、FRBとECB、いずれも0.25%の利上げを行いました。
一方で景気もそこまで悪くないということで強気の姿勢が見えます。
金利が上がることは株式市場にとってはマイナス面が大きいのですが、それ以上に実体経済が強いと見られています。
長期にわたる『逆イールド』
「景気が悪くない」というのは本当なのでしょうか。
今は日本の3月期決算の企業だと第一四半期の決算が出る時期です。
企業によっては厳しいところも見られます。
半導体の設備投資に関連する企業であるアドバンテストは減収減益ということで、半導体市場の冷え込みが明らかになったところです。
マクロで見ますと、『逆イールド』が2022年3月から発生しています。
過去の事例では、逆イールドから半年~1ヶ月後に景気後退が起きています。
通常なら長期金利の方が短期金利より高いので、(長期金利-短期金利)は図の黒い線より上になりますが、短期金利の方が長期金利よりも高くなる『逆イールド』が起こると景気後退のサインと言われています。
2022年7月から逆イールドが発生し続けていて、これほど長期間に渡るのは異例のことです。
表示期間を伸ばしてみると、グレーの帯が景気後退の時ということですが、逆イールドが発生してから1年~1年半後に景気後退が起こっています。
これを見ると、今回の逆イールドも景気後退を招くのではないかと思われます。
製造業では明らかに景気後退の兆候見られていて、例えば信越化学の決算発表資料には「産業や企業が受ける逆風はこれからしばらく強まることはあっても弱まることはない」と書かれています。
これはアメリカの製造業の景況感を表したもので、50を下回ると景気後退と言われていますが、2022年の終わりごろからずっと50を下回っていて、しかも右肩下がりに下がり続けています。
製造業がかなり苦しいということは間違いないようです。
コロナ禍で多くの人がPCやスマホなどを新しくして、その反動減が起きています。
一方でAI向けのサーバーなど最先端の半導体などはそのサイクルを乗り越えてまた好調になるとも言われています。
強い個人消費
製造業を中心に景気が悪いとは言われていますが、アメリカの景気指標は実は好調になっています。
それを支えているのが雇用の状況であったりします。
失業率は過去最低水準で、雇用者数も増えています。
これが多くのエコノミストが予想できなかったことですが、アメリカの個人の消費が強いということです。
アメリカはGDPの7割は個人消費に支えられているので、個人消費が強い限り景気も強いです。
ではなぜ個人消費が強いのかというと、中流層以下の人々がコロナ禍で職を失ったものの給付金や失業保険などで生活し、今では人手不足となり賃金が上がったので、労働者が豊かになっているからだと想像できます。
アメリカのインフレの要因の一つにもこの賃金の上昇がありました。
逆イールドは起こっているものの、この状況なら景気はソフトランディングするのではないかという予想が大勢を占めています。
だからこそ日本株も上昇してきましたし、米国株も7/27まで13連騰となっていました。
やはり景気は循環する。今こそ気を引き締めるべき
本当に景気はソフトランディングするのでしょうか。
これまで示してきた失業率や個人消費は、実際に景気が動いた後に表れる”遅行指標”です。
企業の決算が出て、それが悪いということになるとリストラなどが起きて失業率が上がり、個人消費が減ってくるということになり、そこに数か月から1年ほどのラグが生じます。
製造業の指数はどちらかというと”先行指標”で、今そこが悪いので楽観はできません。
いずれ製造業からのお金が流れなくなるのではないかという懸念があります。
また、中国の状況が良くありません。
コロナ明けに個人消費が回復すると思われていましたが、それがあまり回復しませんでした。
中国では今不動産価格が下落していて、不動産で潤ってきていた富裕層の財布の紐が締まってしまいました。
世界がインフレの中で中国は消費が少なく物価上昇率が0%とデフレに陥ってしまいました。
24歳までの若者の失業率が20%を超えているというのもかなり深刻な状況です。
現状は、今まで景気が悪くなると考えていた人たちが観念して立場を変えたことによって株価が押し上がっているという状況です。
しかし、実際のファンダメンタルズの数字は教科書通りに動いていて、先行指標は悪いです。
私はなお気を引き締めた方が良いのではないかと考えています。
少なくともダウ平均が13連騰していたような状況で無理に株を買う必要は無いと思います。
何か予想外のことが起こった時には反転することになるでしょう。
長期投資では業績を伸ばし続ける良い企業を買うということになりますが、やはり安い時に着々と拾っていくことが王道と言えるでしょう。
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