まだまだ厳しい残暑が続きますが、間もなく秋がやってきます。
あなたの秋は食欲の秋でしょうか?読書の秋でしょうか?
今回はスポーツの秋ということで、スポーツ業界の企業を紹介します!
特に日本のスポーツメーカーの代表格であるアシックスは業績好調です。
その理由は何でしょうか?
ナイキと比較しながら、今から投資して良いものなのか考えていきましょう。
スポーツ市場は成長している
まず、スポーツ用品の市場規模は年々増加しています。株式会社グローバルインフォメーションの市場調査レポートによると、2021年~2027年の間に年率6.6%で市場が成長する見込みです。背景にはワールドカップ、オリンピックなどが若者の心に影響を与え、自分の好きなスポーツに熱中するようになりました。
出典:GII プレスリリース
また、今後は新興国における人口増加と経済発展を受けて富裕層・中間所得層が増加しており、スポーツ関連消費の大幅な増加が見込まれます。一方で先進国ではフィットネス文化定着、健康意識の高まり、余暇時間の増加を受けてスポーツ人口は増加していく見込みです。
では、このスポーツ業界の代表的な企業はどこでしょうか?
最新の売上高で見ると、ナイキ(アメリカ)、アディダス(ドイツ)などの私たちが馴染みある企業の業績の大きさが目立ちます。
出典:SPEEDAより作成
また利益率もナイキがトップです。営業利益率は10%を超え競合他社を上回っていますから、規模と効率の両方の面で考えて優れた会社と言えるでしょう。
出典:SPEEDAより作成
まずは、ナイキがなぜグローバルトップの企業と言えるのか解説していきます。
ナイキはなぜすごいのか?
ナイキ単体の業績推移をみてみましょう。
この10年間で成長していると言えます。目先コスト高などの影響を受け営業利益が低下していますが、売上では成長を続けていることがわかります。
出典:SPEEDAより作成
では、どのような商品が売れているのでしょうか?以下はセグメント別の推移です。FootwearやApparel、つまり靴や服がナイキの収益を支えていることが分かります。
出典:SPEEDAより作成
あなたはナイキの靴といえばどのようなものをイメージしますか?
代表的なものはナイキエアフォースなどAirシリーズ、バスケットシューズをモチーフとしたナイキ ダンクなど。さらに、プロ向けとしてサッカー選手が使うスパイクや、陸上業界で大きな話題となった厚底ランニングシューズなどが思い浮かぶことでしょう。
では、なぜナイキの商品は売れるのでしょうか?
それは、あなたに対して商品を魅力的に宣伝しているから、です。
ナイキの主要ターゲットはトップアスリートではなく、私たち一般消費者です。
一方で、私たちは必ずナイキの靴を履いて生活・運動しないといけない、ということはありません。その中でもナイキのシューズを選んでしまう理由は、トップアスリートがナイキの商品を使っているから、という理由があるでしょう。
ナイキとライセンス契約を結んでいる代表的なアスリートはクリスティアーノ・ロナウド、レブロンジェームズ、ラファエルナダルなどです。日本人選手では冨安 健洋、八村 塁、錦織 圭などがナイキのシューズを着用しています。
世界で活躍している選手がナイキのシューズを着用している=ナイキはかっこいい、というイメージに繋がり、私たちのナイキに対するブランド価値が高まっていくのです。
ブランド価値を高めることを目的としたナイキの広告宣伝費は世界トップクラスです。アディダスも同規模ですが、利益額ではナイキが圧倒的であるため、上手に運営しているのはナイキの方であると考えます。
出典:各社決算資料より作成
このように、トップアスリートを囲い込み、消費者にブランド価値を宣伝する力、これこそがナイキの強みと言えるでしょう。
アシックスの弱者の戦略
一方で、ナイキとは逆の戦略をとっている日本企業があります。
それはアシックスです。
まずは業績をみてみましょう。コロナ禍で赤字となりましたが、ランニングブームに押されて業績が急回復しています。
出典:SPEEDAより作成
さらに今期の業績予想では、売上・利益共に過去最高を更新予定、その好調ぶりがよく分かります。
背景にはスポーツイベントの再開による需要増・昨年の中国ロックダウンの影響があった反動・円安などが挙げられます。
しかし、グラフで気になる点もあります。それは長期間利益が低下し続けた、という事実です。
その背景には広告宣伝費の増加、海外売上の減収などが挙げられます。
詳しくは次の段落、アシックスの投資リスクは何か?で説明しますが、海外競合に押される形で売上が落ち込みました。しかし、現在は競合に対して少しづつ巻き返しを図っていること、コロナ禍で強化したネット販売・ネットサービス向上の取り組みが花開きつつあること。これらが要因となり、売上増に伴うコスト増の割合を抑えることに成功し、利益の大幅拡大という結果に表れているのです。
では、アシックスはどんな商品が売れているのでしょうか?
アシックスの主力事業はランニングシューズの開発・販売です。
出典:SPEEDAより作成
中でもトップアスリート向けの厚底ランニングシューズ「METASPEED」が好調です。
出典:アシックス
このシューズはなんと1足30,000円近くの値段ですから、業績に大きく貢献しています。
また、アシックスの主要な顧客はアスリートであり、彼らに向けた早く走れる良いシューズを作る、という商品の質に強みがあります。
実際にアシックスの社員の方から聞いた話ですが、ナイキのシューズはレース中に壊れてしまったケースもあるようです。
アシックスは日本企業らしく、海外企業に負けない商品の質で勝負している、と考えられます。
アシックスの投資リスクは何か?
業績は好調であり、強みを持っていると言えるアシックスですが、リスクもあります。
それこそまさに、ナイキなど海外競合の存在なのです。アシックスの本社は神戸にありますが、海外売上比率は80%を超える超グローバル企業です。
出典:SPEEDAより作成
だからこそ、ナイキの動向には注意する必要があります。
そう考える理由は、度々出ている厚底シューズの話があります。
日本人が最も馴染みある陸上大会である、箱根駅伝の例をとって考えましょう。
2017年の箱根駅伝ランナーのシェアはアシックスが31.9%と1位でした。
しかし、その年にナイキが厚底シューズを発売し、長距離業界に大きな衝撃を与えます。結果、2021年にはナイキが箱根駅伝のシェア96.7%。ほぼ全員がナイキのシューズを走るようになり、競合他社を大きく出し抜きました。
出典:東洋経済オンラインより作成
2023年の箱根駅伝のシェアは、アシックスが15%まで回復し、ナイキは60%までシェアを落としました。とはいえナイキの存在は、アシックスの最大市場であるランニングシューズ販売において、これ以上ないほど大きなものとなっています。
従って、アシックスの業績の好調はランニングブームや経済活動の再開によって、市場そのものが拡大している恩恵が大きい、と考えます。トップアスリート向けの良いシューズを作る、という本来の強みが、ナイキに先を越されてしまった印象を受けます。
あなたはどちらに投資したい?
いかがでしたでしょうか?
最後にアシックスとナイキの株価の評価をみてみましょう。10年間の株価推移を見ると、今年に入りアシックスの株価が急上昇していることがわかります。
背景には、業績の急成長があるでしょう。(今期売上は28.9%増、営業利益は75%増 。為替除くと売上19%増となる)
出典:Yahoo!ファイナンス
ナイキの株価が低迷している理由は、商品在庫増加が進み収益性が落ちていることや(それでも競合他社よりも優れていますが)中国経済の回復が思ったよりも遅いことがリスクと考えられています。
また、面白いことに、同じ中国における販売でもナイキが苦戦しているのに対し、アシックスは好調であることです。ナイキの中国における販売チャネルはさらに深堀が必要ですが、少なくともアシックスはアリババなどECを活用して中国における売上を強化してきました。こういった戦略の違いが、現在の売上状況に影響を与えているのかもしれません。
目先利益が低調だが、業界内で圧倒的な地位を持っているナイキ。
業績は好調、株価も伸びているが、外部環境による影響が大きく競合他社に市場を独占された経験があるアシックス。
23年9月11日15時現在のアシックスのPERは39.2倍、NIKEは30.2倍です。
あなたはどちらに投資したいと思いますか?
つばめ投資顧問では、会員の皆様と投資についての議論を行っています。私のナイキとアシックスに対する意見は会員サイト内でお伝えするので、これを機につばめ投資顧問への入会をご検討ください。
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執筆者
佐々木 悠(ささき はるか)
つばめ投資顧問 アナリスト 1級ファイナンシャル・プランニング技能士
東北学院高校、東京理科大学経営学部卒業。
協同組織金融機関へ入社後、1級ファイナンシャル・プランニング技能士を取得。
銀行勤務時は投資信託を用いた資産形成提案や多重債務者への債務整理業務に従事。
2022年につばめ投資顧問へ入社。
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