これからしばらく、基本に立ち返り「バリュー株投資とは何か」について順を追って解説したいと思います。これを読んで理解を深め、資産形成の一助としていただければ幸いです。
ものの価格は基本的に需給で決まる
バリュー株投資は、「本質的な価値よりも割安な価格のものを買い、価格が本質的な価値にまで上昇するのを待つ」手法です。わかりやすく例えるなら、「500円で売られている1,000円札を探す」ということです。市場には、様々な理由で本質的な価値よりも割安な価格が付いている株式が存在します。
ここで最も重要となってくるのが「本質的な価値とは何か」ということです。世の中のあらゆるものには価値があります。「お宝鑑定団」ではありませんが、それを金額に直すことは経済活動においてとても重要な側面です。
ものの価格は、基本的には需要と供給で決まります。「需要>供給」となっているものの価格は上がり、逆のものは下がります。そのため、同じものでも価格は変動します。例えば、台風被害でりんごの収穫がままならなくなれば、今年のりんごは去年よりも値上がりするでしょう。
株式も同様の側面が少なからずあります。人気のある銘柄は需要の増加により上昇し、人気のない銘柄は需要の減少により下落します。スーパーのりんご以上に常に売り手と買い手が自由な価格で取引を行うため、株価は刻々と変化するのです。
りんごは「使用価値」、株式は「経済的価値」
しかし、りんごと株式では決定的な違いがあります。りんごを買う人は、それを食べたいと思うから買うのであり、価格は「使用価値」によって決まります。一方で、株式は食べることも使うこともできず、使用価値はありません。
株式をはじめとする金融商品の価値は、それを持っていることで得られる「経済的価値」によって決まります。例えば、交換所に持っていけば1万円が得られる金融商品の価格は1万円となります。
それでは、毎年1万円もらえる金融商品を考えてみましょう。5年間続くとすれば5万円の価値となりそうですが、少し違います。なぜなら、将来本当に1万円がもらえるかどうかわからないからです。
そのため、すぐに貰える1万円は1万円だとしても、来年もらえる「はず」の1万円は、例えば9,900円に割り引かれてしまいます。同じように2年後は9,800円、3年後は9,700円・・・という具合です。これを合計したものが現在における金融商品の価値で、5万円より安くなります。
将来もらえるお金をどれだけ割り引くかは、状況によって異なります。お金をくれる約束をした人が信頼できる人なら割引率は小さくなりますが、これまで何度も約束を破った不届き者なら割引率は大きくなります。
金融の世界では、上記で毎年貰えるお金を「キャッシュ・フロー」、割引率を「リスク」と言います。金融商品の経済的価値はこの2つの要素によって決まるのです。
経済的価値以上の価格で買っても損をするだけ
ここで、先の説明と矛盾が生じます。ものの価格は需要と供給によって決まるはずでしたが、経済的価値の観点では違うと言っています。「価格」と「価値」の違いがありますが、実はこれが短期投資と長期投資の視点の違いとなって現れます。
短期の視点で取引をする人は、将来の「キャッシュ・フロー」や「リスク」を予想するのではなく、目の前で人気が出そうな銘柄を探します。株価も短期的には需給によって決まるからです。
これがりんごだったら、例えばりんごパイを作るのにどうしても必要だったら多少高く買っても「価値があった」ということになるでしょう。使用価値は利益を受ける人によって異なるのです。
ところが、株式はそうはいきません。持っているだけでは何の価値もないからです。
毎年1万円が5年間もらえる株式を100万円で買ってしまったら、どう考えても損してしまいます。経済的価値の観点では、利益は万人にとって共通であり、「私にとっては高く買っても価値があった」ということにはならないのです。
株価は最終的に本質的な価値に収束する
長期の投資家は、持っていれば損をすると分かっている金融商品を買うことはありません。
短期の投資家は一刻も早く売り抜けようとし、需給バランスが崩れる結果、いずれ価格は適正な水準に戻ります。
価格が時間をかけてあるべき経済的価値に落ち着くメカニズムが、私が「株価は最終的に本質的な価値に収束する」と言う大きな根拠です。
このように、りんごなどの「もの」の価値は使用する人によって異なる「相対的な価値」なのに対し、株式の価値は「キャッシュ・フロー」と「リスク」によって決定される、万人に共通の「絶対的な価値」です。
この絶対的な価値を、バリュー株投資では「本質的な価値」と呼び、投資決定における最重要指標と考えています。(次回へ続きます)
※本記事は、会員向けレポートの一部を抜粋したものです。
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