【最新決算分析】サイバーエージェントの株価が上がる3つの条件。Abemaは黒字化するのか?

サイバーエージェントは注目度の高い企業です。

日本を代表するインターネット企業であり、AbemaTVの運営やウマ娘の開発などを行っています。

今回はそのサイバーエージェントの最新の決算を分析し、今から投資して良いのか株価が上がるためには何が起きれば良いのか?これらの考察をしていきます。

それでは早速見ていきましょう!

サイバーエージェントの現状

まずは、今期23年9月期の決算内容を見てみましょう。

 

売上高 7,202億円(+1.4%)

営業利益 245億円(▲64.5%)

純利益  53億円(▲78.0%)

()は対前年同期増減率

 

増収ですが、大幅な減益です。

その最大の理由は、Abemaでワールドカップを放映するため約300億円の大規模投資を行ったことです。社長の藤田晋氏は今回の決算を以下のように表現しています。

「成長のための種を巻いた決算である」

では、具体的にどのようなビジネスを行っているのか?事業ごとに今回の決算を深掘りします。

投資が続くインターネット広告事業

サイバーエージェントの広告事業は、googleやYahoo!などの検索連動型の広告だけでなく、

TVCMやYouTubeの運用を行っています。そのほかにも中期経営計画の達成に向けたコンサルティングなど、総合的な経営課題を解決するための事業と言えます。

今期のインターネット広告事業は増収減益になりました。

【インターネット広告事業】

売上高 4,053億円(+10.2%)

営業利益 183億円(▲25.1%)

 

この広告事業は業界の平均成長率を上回るペースで成長している事業です。しかし、大幅な減益となった理由は、DXとAI関連の投資を行っているためです。

特に目立つのはAI関連への投資です。

出典:サイバーエージェント 23年9月期決算説明資料

このAIを用いて広告運用の成果を予測したり、広告クリエイティブなどもAIを使って作成することを目指しています。

サイバーエージェントは、創業から続く広告運用の膨大なデータを持っていることが強みです。それを活かしたAI開発を目指していることから、今期は投資が増加し、減益となりました。

減収減益が続くゲーム事業

ゲーム事業では、主にスマホゲームの制作・配信を行っています。

最大のコンテンツは、2年前に爆発的にヒットした、「ウマ娘 プリティーダービー」です。

今期はそのウマ娘が、通常のヒット作へ落ち着いたことで、ゲーム事業は減収減益となりました。

【ゲーム事業】

売上高 1,729億円(▲21.6%)

営業利益 227億円(▲62.5%)

作期はウマ娘のヒットを継続させるために、2.5周年イベントアニメなど話題を欠かさないための取り組みを行いました。また23年9月にリリースした「FINAL FANTASY Ⅶ EVER CRISIS」も、ウマ娘ほどではありませんが、まずまずのスタートを切りました。

しかし、トータルで見れば、大ヒットのからの反動で減収減益となりました。

出典:サイバーエージェント 23年9月期決算説明資料

そして、ゲーム事業では大きなトピックがあります。

今年5月にコナミがウマ娘による特許侵害に基づき訴訟を起こしている、と報道されたことです。その内容は約40億円の損害賠償などを請求していること、さらにウマ娘の配信停止を求めるという内容です。

コナミはパワプロのサクセスという育成ゲーム特許を保有しており、ウマ娘のゲーム仕様が特許侵害になる、と主張しているのです。

サイバーエージェントは23年9月時点で現金を約2,000億円保有しているため、賠償金40億円は会社を揺るがすほどのダメージはないと思います。

しかし、配信停止の可能性があるだけでも、ユーザーは課金を控え収益性が悪化することは間違いないでしょう。さらに、配信停止ともなれば追加コンテンツ発表などビジネスチャンスの喪失、(仮ですが)ゲームウマ娘2や映画ウマ娘が出しずらいなど悪影響も考えられます。

この訴訟に関する新しいニュースは見当たりません。続報を待つしかないでしょう。

黒字の兆しのメディア事業

メディア事業の最大のサービスは、ネットテレビ Abemaの運営です。その他にもマッチングアプリ「タップル」や、公営ギャンブルの仲介サービスのWINTICKETの運営を行っています。

特にAbemaはサイバーエージェントの今後の柱となるべく、育成中の事業です。投資が継続していることから赤字です。しかし、赤字幅を縮小させて着地しました。

 

【メディア事業】
売上高 1,411億円(+25.9%)

営業利益 ▲115億円(+8億円)

2016年から始まったAbemaは、メディア事業の利益を圧迫していました。

出典:各年度決算短信より作成

作期はワールドカップ放映権の獲得のために大規模投資を実施。今後も4年に一度のワールドカップの放映権を獲得し続ける方針です。

しかし、その中でも前年を上回る業績で着地できた理由は、Abemaの周辺事業であるWINTICKETが好調であるためです。WINTICKETは競輪・オートレースのネット投票サービスです。Abema内では競輪・オートレースのチャンネルがあるため、Abemaが成長すればWINTICKETの収益が拡大する関係になっています。そして昨期はこのサービスの収益拡大が、ワールドカップの投資を上回りました。

さらに23年9月期4Qだけ見れば、黒字化する未来も見えてきました。赤字ながらも改善が進んでいるのが、このメディア事業です。

出典:サイバーエージェント 23年9月期決算説明資料

株価が上がるための3つの条件

ここまでサイバーエージェントの最新決算を解説しました。

ここで、業績と株価の推移を見てみましょう。概ね営業利益と株価は同じような動きをしています。

出典:マネックス証券、株探より作成

社長の藤田氏は、決算説明会の中で「低迷する株価を上げていきたい」という発言をしました。そこで、株価を上げるために何が必要なのか(営業利益を上げるために何をしたらいいのか)、事業別に考えてみたいと思います。

インターネット広告事業:利益率改善

広告事業はサイバーエージェントの中で最も安定している事業です。しかし、売上は成長しながらも、利益率が悪化しています。

出典:各年度決算短信より作成

先に述べたAI・DX関連の投資によって、利益率が悪化しているのですが、この投資回収を行って欲しいところです。開発したAIによって、さらなる業務効率化が行われれば、営業利益も伸びてくるはずです。

売上は5~10%の間で成長していくものと考えられます。昨期は売上4,000億円ですから、今期が仮に4,400億円だったとします。

利益率が4.52から5.5%になれば242億円の利益、過去最高の事業利益と同水準です。

広告運用大手であり、1兆円規模の売上を誇る電通Gの利益率が約10%ですから、全く不可能な数字ではないと思います。

継続的な投資を行っているDX・AIを活用することで、利益に好影響が与えられれば良いと思います。

ゲーム事業:ウマ娘リスク収束とヒット作の出現

ゲーム事業は、最大のリスク要因であるウマ娘の訴訟の終着が待たれます。このリスクが消失すれば、業績に影響を与えなかったとしても、株価に対して好影響だと思います。

個人的には損害賠償などで落ち着けば良いと感じます。最悪のケースはウマ娘の配信停止です。この可能性を否定できないことから、訴訟は大きなリスクとなるのです。

一方で新たなヒット作が生まれる可能性も否定できません。

とはいえ、再現性がなく博打のようなものです。今後の新作ゲームで、継続的にウマ娘級のヒットを求めることは、流石に酷だとも感じます。新たなヒット作が生まれることを祈るしかないでしょう。したがってゲーム事業の更なる成長は、自社でコントロールできる要素が少なく、運任せとも言えるでしょう。

 

緊急追記:23年11月21日、人気アニメのゲームである「呪術廻戦 ファントムパレード」がリリースされました。このゲームがアプリケーションストアの2位にランクインしたことから、23年11月22日10時現在、約5.5%株価が上昇しています。

このように、ゲーム事業はアプリをリリースしないことには、成果がわかりません。

仮に、今後呪術廻戦のゲームがヒットするとして、ゲーム事業にどのような影響を与えるのかチェックしていきたいと思います。

メディア事業:事業黒字化

今回の決算解説の中で「Abema単体での黒字化はまだ時間がかかる」という話がありました。したがって、当面はWINTICKETやAbema広告など周辺事業がメディア事業を支えることになるはずです。

仮にAbema単体で黒字化を目指すならば、月額課金かPPV(有料コンテンツの配信)を伸ばすほかありません。では一体何人の月額課金ユーザーを獲得すれば、Abema単体の黒字化を目指せるのか、計算してみましょう。

(様々な前提条件をおいた上での仮説ですから、あくまで参考程度になさってください。)

22年9月期のWINTICKETの最終利益は約2億円。ここから営業利益がいくらだったのかを考えます。同年のサイバーエージェントの全体の営業利益:当期純利益=2.8:1ですから、この比率をWINTICKETにも当てはめると、営業利益は約5.6億円だったと予測できます。

同様の計算をタップルでも行うと、22年9月期の営業利益は14億円となります。

 

全体としては124億円の営業赤字だったため、Abema単体の赤字は約145億円であったと想像できます。これを、月額課金ユーザーで穴埋めする場合、年間で約130万人の有料登録者が必要です。

しかし、東洋経済の記事によると、有料会員数は130万人前後とされています。したがって、この仮説が正しければ、単年で黒字転換する可能性は低くはないと考えられるのです。

それでも藤田社長が「黒字化に時間がかかる」と述べる理由は、追加コストが必要であるためでしょう。具体的には、新規コンテンツの作成費などが想定されます。これは1時間作成するのに、5,000万円~1億円のコストがかかるとされています。

 

とは言え、メディア事業全体で見れば、AbemaのコストをWINTICKETやタップル等の収益が上回ることが予想されます。したがって、メディア事業黒字化の道は、もう手が届くところまで来ていると考えます。

本当に株価は上がるのか?

サイバーエージェントの現状と、未来についてイメージできましたか?

今後業績が拡大し、それに伴って株価も上がるのであれば、上記3つのシナリオが想定されます。

これを実現可能性が高い順に並べると、

メディア事業の黒字化、広告事業の利益率改善、ゲームのヒット、だと考えます。

 

その中でも最も可能性が高いと考えられるメディア事業のリスクを考えます。それは投資が拡大する可能性です。現状、投資を弱める方向性ではなく、更なる投資が継続される見込みです。

出典:サイバーエージェント 23年9月期決算説明資料

この投資は、成長性を促すためには必要な投資です。しかし、目先の株価や業績に対しては悪影響を与える可能性もあります。だからこそ、業績拡大に向けて、WINTICKETのなど周辺事業の成長が継続するのか?ということがポイントになりそうです。つまり、Abemaの投資資金をWINTICKETが回収できるかが焦点になるでしょう。

出典:サイバーエージェント 23年9月期決算説明資料

仮に営業利益が伸び、株価が上昇するのであれば、24年9月期の営業利益300億円(前年比+22%)では物足りないかもしれません。

投資が膨らんでいることは理解できるのですが、利益率が1%改善されれば、営業利益が375億円です。この数字はAbema開始前の、2016年と同じ規模です。

メディア事業の黒字化達成と、インターネット広告事業の利益率改善が上手く組み合わされれば、達成可能だと考えます。ゲーム事業のサプライズもあるかもしれません。今後もサイバーエージェントの動向を追っていきたいと思います。

 

いかがでしたでしょうか?

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執筆者

執筆者:佐々木 悠

佐々木 悠(ささき はるか)

つばめ投資顧問 アナリスト 1級ファイナンシャル・プランニング技能士
東北学院高校、東京理科大学経営学部卒業。
協同組織金融機関へ入社後、1級ファイナンシャル・プランニング技能士を取得。
銀行勤務時は投資信託を用いた資産形成提案や多重債務者への債務整理業務に従事。
2022年につばめ投資顧問へ入社。

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