5大商社は注目度が高いセクターです。
これらの企業は日本独特のビジネスモデルであり、投資の神様ウォーレンバフェットからも一目を置かれる存在です。
今回は5大商社、それぞれの最新決算を分析します。
すでに商社に投資している人は、投資先の好調な事業・不調な事業がわかります。また、今から投資したい人にも必ず役に立つでしょう。
ぜひ最後までご覧ください!
目次
総合商社とは何をしているのか?
総合商社業界と言っても、そこに属する企業は実は8社しかありません。そして、その業界で特に売上規模が大きい5つの会社があります。
それが
三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、住友商事、丸紅であり、まとめて5大商社と言われています。この5社の23年3月期の売上合計は63兆円です。非常に大きな規模でビジネスを行っています。
では具体的にどのような事業を行っているのでしょうか?
卸売と投資の2つを解説します。
伝統的な卸売ビジネス
総合商社が行っている代表的なビジネスは卸売です。様々な商品を仕入れ、需要がある業者や地域に卸し、その販売手数料・商材の売買差益で収益を得ています。販売先の需要変動に売上が左右されるものの、比較的ローリスクローリターンの手数料ビジネスと言えるでしょう。
この卸売は戦後から現在まで続く、伝統的なビジネスです。まさしくラーメンから戦車まで仕入れることで、世界中の様々な需要や今後の業界動向を知ることができます。
総合商社は伝統的な卸売ビジネスを通じて、時間をかけて世界中にネットワークを構築してきました。
そして、このネットワークを活かして、近年は積極的に投資ビジネスに参入しています。
近年盛んな投資ビジネス
今、商社が行っていることを一言で表せば、投資です。
バリューチェーンの川上分野では資源採掘や電力開発などのインフラ事業などへ資金を出資し、出資先の事業が利益が出た場合、その利益の一部を商社がもらう、(権益を得る)ビジネスを行っています。川中・川下部分ではコンビニや食料品メーカーなどへの事業投資を行っています。
特に川上領域は、卸売ビジネスと比べてハイリスクハイリターンといえます。金属資源や石油事業に投資を行っているため、資源価格の変動の影響を受けます。
つまり資源価格が下がれば、投資先の利益が減ることで減損が発生し、総合商社の業績も悪化します。
昨年は、ロシア・ウクライナ情勢の影響もあり、資源価格が高騰しました。それに伴い、総合商社の業績も拡大しました。
例)石炭コークスの価格推移
出典:GD Freak!
総合商社は投資事業が拡大したことにより、子会社や持分法適用会社、上場子会社など様々な形態の関連会社を持つことになりました。
それに伴い投資先企業の配当によるインカムゲインや、持分法利益による業績拡大などを目指すことで、利益成長を目指しています。
この投資ビジネスは卸売ビジネスとシナジーがあると言って良いでしょう。卸・仲介業のネットワークを活かして投資先企業に自社や関連会社のリソースを提供し、投資先企業の利益拡大に貢献しているのです。
ここまでをまとめると
- 売上規模が大きい5大商社が存在している
- 総合商社は主に卸売と投資を行っている
- 近年は投資先企業に自社のリソースを投入し、持分利益を拡大させる戦略をとっている
この前提のもと、最新の24年3月期第2四半期の決算がどうなっているのかを分析します。
金属資源・都市開発が不調の三菱商事
まずは三菱商事です。
主力事業は原料炭や銅山への資源投資の金属資源事業、北米や東南アジアでエネルギーの安定供給やカーボンニュートラルを目指す天然ガス事業、三菱自動車を傘下に持つ自動車事業などがあります。
24年3月期第2四半期の売上は▲10%(9兆5,610億円)、利益は▲35%(4,660億円)です。第一四半期ではそれぞれ▲13%、▲40%だったことを踏まえると、この第二四半期は業績が回復しているとも考えられます。(※▲はマイナスを表します)
業績の変動要因を見てみましょう。
減益の理由は資源価格の下落によるものです。
特に原料炭の価格下落による影響が大きくなっています。昨年はロシア・ウクライナ情勢の影響で資源価格が高騰しました。しかし、現在は資源価格の沈静化が起きていることから、金属資源事業が大幅な減益となりました。
一方で天然ガスセグメントは、昨期の一時的な損失計上の反動で今期はプラス。また食料品の生産・調達を行う食品産業セグメントは株式売却で好調など、全ての事業が不調なわけではありません。
出典:三菱商事 決算説明資料
そして、通期で見ると天然ガスセグメントや自動車セグメントが業績を引っ張る見込みです。それに伴って当期純利益の通期決算を3%上方修正しました。
出典:三菱商事 決算説明資料
しかし、自動車セグメントの主力子会社である三菱自動車の決算短信を見ると、東南アジアでの販売台数は減少していることがわかります。その減少分を円安の影響でカバーしているにすぎません。
従って、天然ガスが好調であることは変わりありませんが、為替の影響で利益が上乗せされていることにも注意が必要です。
三菱商事は好調な事業もありますが、決して安心できる状態ではないと考えます。
為替の恩恵が大きい三井物産
三井物産はどうでしょうか?
同社の主力事業は、鉄鋼石や原料炭の開発・加工を行う金属資源事業、電力発電やLNG(液化天然ガス)の輸出入、乗用車の生産販売を手がける機械・インフラ事業が主力です。
24年3月期第2四半期の売上は▲14%(6兆3,774億円)、利益は▲15%(4,562億円)です。第一四半期ではそれぞれ▲15.4%、▲8.1%であったため、利益が伸び悩んでいます。
三井物産の特徴は、金属資源やエネルギーなど資源系の利益割合が高いことです。
出典:23年3月期 各社決算説明資料より作成
従って、資源価格の高騰が起これば業績を伸ばしやすいのですが、価格下落が起こるとダメージを受けやすい事業体質です。現在は主に鉄鉱石関連の価格沈静化の影響で、業績を圧迫しています。
一方で、通期では最終利益を約7%上方修正しました。
しかし、残念ながら主要因は為替の影響によるものです。自動車やLNGの好調ではあるのですが、市況悪化の影響がそれを相殺し、結局は円安頼みの上方修正であることがわかります。あまり喜べる状況ではないと言えるでしょう。
出典:三井物産 決算説明資料より作成
ほけんの窓口が好調の伊藤忠商事
伊藤忠商事の24年3月期第2四半期の売上は▲3.1%の6兆7,440億円。利益は▲14.5%の4,128億円です。
同社の特徴は、非資源分野の利益割合が高いことです。
出典:23年3月期 各社決算説明資料より作成
伊藤忠商事の関連会社を見てみると、繊維セグメントにはconverse・Reebok・デサント・アンダーアーマーが、機械セグメントには国内最大手の輸入車ディーラーであるヤナセが存在しています。
また情報・金融セグメントがあることも特徴的です。このセグメントにはほけんの窓口、外為どっとコムが関連会社となります。このように財閥系総合商社と違い、「え!あそこも伊藤忠なの!?」となるケースが多く、消費者との接点が多いことが大きな特徴です。
今期の決算は他社と状況が同じであり、金属事業は前年同高値で推移していた石炭や鉄鉱石の価格下落によって大幅減益です。さらに、昨年好調だった建材や紙パルプなどを取り扱う住生活事業も、パルプ市況の下落と販売低調によって減益となっています。
一方で情報・金融セグメントは好調です。伊藤忠テクノソリューションズの業績拡大と、人流回復に伴うほけんの窓口は集客に成功しました。またファミリーマートはPBのファミマルなどの拡販があり業績拡大しました。
出典:伊藤忠商事 決算説明資料
通期では最終利益が3%上方修正されました。市況価格の下落によるマイナス影響と円安によるプラス影響があります。
バッファを除いた(上振れの)当期純利益見込みに変更はないものの、下振れ幅が少なくなる見通しであることが修正の要因です。随所に為替の影響が大きいことは他社と同じです。
出典:伊藤忠商事 決算説明資料
私の印象では、あくまで下振れ幅の縮小の上方修正ですから、事業が好調という印象は持ちづらいと思います。
輸送機が好調の住友商事
次は住友商事を分析します。
同社の主力事業は、鉄鉱石や銅の鉱山経営を行う資源化学品事業、北米で鋼材や鋼管などの生産、輸出入を手がける金属事業、航空機や船舶ののリース等を行う輸送機・建機事業です。
住友商事の24年3月期第2四半期の売上は▲0.13%(3兆3,438億円)、利益は▲18.7%の(2,848億円)です。1Qよりも成長鈍化していますが、売上は他社よりは減少幅が小さく止まっています。
利益源の最大要因は資源価格の下落ですが、他社同様に4%の上方修正を行っています。
私は住友商事の上方修正は前向きに捉えています。
何故ならば、修正理由が郵送機と北米の鋼管事業の好調によるものと判断できるためです。
特に輸送機・建機事業は当初130億円の減益予想だったものが270億円の増益予想に変更されています。この400億円のプラスがそのまま通期見通しに上乗せされています。
従って、5大商社の中で最も前向きな、自社事業が好調であることが要因である上方修正と言えるでしょう。
出典:住友商事 決算説明資料より作成
全体としては減益ですが、その中でもポジティブな様子が見て取れるのが、住友商事の現状です。
判断が難しい丸紅
最後に丸紅を分析します。
丸紅の特徴は、金属事業に次いで、農業関連の肥料・農薬・種子などの販売などを行うアグリ事業や、豚肉、コーヒー、トウモロコシなど様々な食料品の生産・販売等を手がける食料品事業の売上規模が大きいことです。
丸紅の今期の業績は売上が▲33.3%(3兆7,506億円)、▲20.0%(1,514億円)です。他社に比べて売上が大きく減少していることがわかります。
その理由は、金属資源関係の悪影響は同じですが、利益規模2番手のアグリ事業の業績が悪化しているためです。
今期は農薬および肥料の価格下落の影響を受けて業績に悪影響を与えています。これも昨年のロシア・ウクライナ情勢による飼料価格急騰、そして現在の価格沈静化の影響があると考えられます。
出典:丸紅 決算説明資料
しかし通期で見ると、最終利益が7%の上方修正です。主要因は英国市場で電力卸・小売り事業を手掛ける子会社スマーテストエナジーが、利益を拡大したことによるものです。
出典:丸紅 決算説明資料
業績が厳しい中でも好調の要素もある、総合的に判断が難しい印象を持っています。
総合商社の全体像
いかがでしたでしょうか?5大商社の現状について分析・解説してきました。
総合商社全体の特徴をまとめます。
・資源価格の下落の影響は不可避
・それに代わる自社の強みの産業が好調であれば最悪の状況ではない
・為替の影響も大きく、円高へのリスクは平等に存在している
・絶好調、という企業は見当たらない
これを踏まえて現在の株価の評価を見てみましょう。
参照:マネックス証券より作成 23年11月28日終値時点
私は、この中であれば住友商事が魅力的に見えます。何故ならば、上方修正の要因が為替などの外部環境によるものではなく、事業の好調にあるからです。加えて株価指標的にも相対的に割安になっています。
一方で為替のリスクを考えると、三井物産には注意が必要だと感じます。
総合商社の良いところは、様々な事業を持っていることです。
資源関係が調子を落としたとしても、他の事業で巻き返すことができると考えます。一方で、このような多角化企業はコングロマリットディスカウントという株価が割安(低PER、PBR)のまま推移しやすいというデメリットもあります。
昨年はバフェット効果や為替の影響、資源価格の高騰で総合商社に注目が集まった一年でした。ここから再度注目を浴びるには、金利高解消による市場全体の活性化や、多くの会社が参入する再生可能エネルギーなど新エネルギー関連の注目度が高まることなどが必要でしょう。
反対に(くどいようですが)為替が円安に触れる際は注意が必要です。金利が下がれば円安も解消される可能性もあり、これはトレードオフとも言えます。金利の動向も確認しながら、今後も総合商社の動向を追っていきたいと思います。
いかがでしたでしょうか?
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執筆者
佐々木 悠(ささき はるか)
つばめ投資顧問 アナリスト 1級ファイナンシャル・プランニング技能士
東北学院高校、東京理科大学経営学部卒業。
協同組織金融機関へ入社後、1級ファイナンシャル・プランニング技能士を取得。
銀行勤務時は投資信託を用いた資産形成提案や多重債務者への債務整理業務に従事。
2022年につばめ投資顧問へ入社。
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