これまでPERを中心に株式の価値を説明してきましたが、価値を測る指標はPERだけではありません。株式の価値は、利益(キャッシュ・フロー)以外にも、保有する資産や、将来の成長可能性によって左右されます。いくつかの代表的な指標を挙げてみることにしましょう。
株式の価値評価で用いる代表的な指標
PBR:株価÷1株あたり純資産(=時価総額÷純資産)。企業が持つ資産から外部資本である負債を除いたものが「純資産」であり、帳簿の上では株主が保有する価値とみなされる。帳簿上の価値である1倍を切ると「割安」とされることが多い。
PSR:株価÷1株あたり売上高(=時価総額÷売上高)。時価総額が売上高の何倍かを表す指標。株式の価値は原則として利益によって決まるため、明確な因果関係はないが、利益が出ていない成長企業を評価する際に代替手段として用いることがある。
EV/EBITDA倍率:企業価値(=時価総額+純有利子負債)÷EBITDA(=営業利益+減価償却費)。設備投資が大きく、負債や減価償却費が多い企業に用いられる。将来負債や減価償却費の減少が見込まれる企業には有効だが、常に投資が必要な企業では実態よりも割安な数値が出がち。過去に米国では株価を釣り上げる目的で利用されたこともあり、注意が必要。
PEGレシオ:PER÷EPS成長率。1を切ると成長性に対して割安と言われる。数値に反映しにくい「成長性」を織り込んだ指標として用いられる。EPS成長率は将来のものとなるため、これをどう置くかで数値が大きく変わる。
指標を用いた投資手法の例
このように様々な指標がある中で、投資家はどのように割安・割高を判断すれば良いのでしょうか。投資手法の例を挙げてみます。
低PER投資法:PERが10倍以下など、一律にスクリーニングして割安なものに投資するもの。しかし、PERが低いのには大抵理由があり、単にスクリーニングしただけではうまくいかないことが多い。事業実態の見極めが必要。
低PBR投資法:PBRが1倍を切る銘柄に投資するもの。狭義には、この手法を「バリュー投資」と呼ぶこともある。会計的には合理性があるものの、個別銘柄で見て1倍にまで回復する保証はない。割安なのに上がらない「バリュー・トラップ」を引き起こすのはこのケースが多い。
ネットネット株:PBRをより厳密に考え、保有する現金や有価証券などの換金性の高い資産から負債を引き、時価総額がその2/3よりも小さい割安な銘柄に投資するもの。バフェットの師であるベンジャミン・グレアムによって編み出された手法であり、将来性を全く織り込まない超保守的な手法と言える。かつては有効性が高かったが、コンピュータによるスクリーニングが可能となり、条件を満たす銘柄は滅多に存在しなくなった。
成長株投資法:PEGなどを使い、将来の成長性に投資するもの。高い成長性を見込む銘柄に投資するため、PERが高くても割安と考えて投資する。PEGは不確実な部分が多いため、実際は投資家の「目利き」に依存する部分が大きい。価値よりも割安なものに投資するという観点では、広義にはバリュー株投資と呼べる。
指標にとどまらない「アート」が不可欠
様々な指標や投資手法を挙げましたが、どれが最も優れているということはないと考えます。明らかに優位性があるものなら、すでに皆がその手法を使っているはずです。
私自身は「数年後の利益に対するPERが10倍以下」という観点を中心に見ているものの、時には資産や成長性を見るために他の指標を使います。複眼的に見ることで、本当は割安な銘柄を見過ごしたり、割安ではない銘柄の線引きをするのに役立てるのです。
しかし、指標は結局のところ参考値にすぎません。これまでも説明してきたように、株式の価値は将来の利益によって決まり、指標に表れる数値は過去のものにすぎないからです。
最も重要なのは、これから将来の会社がどうなるかという「ストーリー」だと考えています。その会社がこれからどのような戦略を採り、どれだけ成長(または衰退)していくかを自分の頭で考えることが何よりも役に立つと考えています。
投資の世界は数値が全てと思われがちですが、実際に投資するとなると想像力を頼りに生きていく世界です。もちろん、想像力を働かせるために必要な数値は最低限抑えなければなりません。投資は科学とアートがうまく融合しないと機能しないものなのです。
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