絶好調エヌビディアに死角はあるか?冷静な投資に必要な”裏側”を見る視点

エヌビディアがどこまで伸びるのか注目されています。

確かに、生成AIの発達によってエヌビディアの力が大きくなっていますが、果たして今の株価を正当化するほどの楽観をして良いのかと疑問を抱いている人もいるかもしれません。

今回は私から一つの見方を提示したいと思います。

利益5倍!絶好調エヌビディア

出典:Google

エヌビディアの株価は過去1年で3.5倍にもなっています。
OpenAIのChatGPTがリリースされたのが1年ほど前ですが、そこからほぼ落ちることなく上がってきました。
これは業績にも裏付けされていて、売上では四半期ベースで3~4倍、利益は5倍くらいに伸びています。
今後の業績の見通しも非常に良いと示されていて、投資家の期待もどんどん大きくなっています。

過去12ヶ月の利益に対するPERは65倍でかなり高く見えますが、今年の利益が上がるのであれば予想利益に対するPERはもっと下がることになります。
例えば、実績値より利益が倍になるなるのであれば、PERは半分の32倍くらいに落ち着きます。
一部ではPER28倍くらいになるという予想もあります。

株価は上がってきましたが、業績の増加を加味すると必ずしも割高ではないという見方が広がっています。

 

ただこれには、「利益が2倍3倍に伸びる」「利益が継続する」という前提があります。

そう簡単に上手くいくのでしょうか。

好調のワケ

そもそもなぜエヌビディアはこのように利益が何倍にもなるほどの業績を出せているのでしょうか。

生成AIで使われまくっている

生成AIの裏では膨大な情報の処理を行っています。
これまではパソコンなどにも使われているCPUでロジックを組み立てていましたが、元々は画像処理に使われていたGPUが、同時に並行して処理を行うAIに適していたのです。
このGPUを作っているのがエヌビディアです。

シェア100%で生成AIブームの利益を独占

GPUはAMDやインテルなども作っていますが、生成AIで使われるような高度なGPUに関してはエヌビディアのシェアが100%という状況です。
さらに、AIを動かすためのソフトウエアであるCUDAというプラットフォームもエヌビディアが有していて、AI関連の半導体市場を独占しています。

価格が高騰

ChatGPTができて以来、エヌビディアのGPUの需要が増大し、価格が高騰しています。

これは縦軸が価格、横軸が量の需給曲線で、需要曲線と供給曲線が交わったところで価格が決まり、価格×量(長方形の面積)が売上となります。

エヌビディアのGPUの供給曲線が赤線のようになっていて、元々の需要曲線は青の破線のところでした。
しかし、需要が一気に増え、需要曲線が青の実線のところまで右にずれて価格も上がりました。

供給をすぐに増やすことはできないので、実際には上図よりも価格は上がっている状況です。

このような価格の高騰で今エヌビディアは儲けていると言えます。
四半期別の売上高を見ると、1年前の四半期と比べて供給量は2倍くらいになっていて、それに対して売上高が4倍くらいになっているので、価格は2倍以上になっていると思われます。

価格が上がった分に関してはそのまま利益となり、しかもシェア100%ということで、今のエヌビディアは濡れ手に粟の状態となっています。

GPUのデメリット

価格が高い

ここで気をつけたいところは、価格が高騰しすぎているということです。

価格が上がっても買いたいという人ももちろんいるでしょうが、いくら高くても買えるお金持ちの企業はそう多くないと思われます。
例えばスタートアップの企業で、今AIを開発して市場に投入できれば将来儲かるかもしれませんが、何兆円という単位の世界になってしまっているので、普通のスタートアップ企業では太刀打ちができません。

さらに、物を作れば儲かることが確定していれば良いのですが、AIの世界も競争にさらされていて、そもそもAIを使ったことがない普通の消費者や企業がいきなり大枚をはたいてAIを買おうとするとは考えにくく、一旦待つという動きになるのではないかと思われます。

 

GPUは資金を潤沢に持った大手企業しか買えない価格になっていて、OpenAI、Microsoft、GoogleといったところがGPUを買いあさっている状況だと考えられます。

スタートアップとしては、GPUを直接買うよりもOpenAIにAPI接続してChatGPTを使った方が低コストでできます。
今世の中にあるAIのサービスのほとんどはOpenAIのChatGPTと接続してクラウドを使って行われています。
そのクラウドのサーバーにはGPUが使われているのですが、サーバーを買っているのがOpenAIやMicrosoft、Googleという大手企業ということになります。

 

今はMicrosoftとGoogleが競って投資をしていますが、もしこの投資がストップしたら、高いGPUを買える人がいなくなってしまい、価格が下がってしまいます。
価格が下がると当然エヌビディアの儲けは続かないということになります。

電力消費量が多い

世の中では”グリーン”が提唱され、電力消費を抑えなければならない状況ですが、GPUを動かすためには大量の電力が必要で、かつ、サーバーを冷やすための冷却装置にも電力を使います。
かつて中国で仮想通貨のマイニングのし過ぎで電力が足りなくなった時と同じようなことがAIの世界でも起こるのではないかと懸念されています。

エヌビディア依存からの脱却

MicrosoftやGoogleからすると、GPUをエヌビディアに握られている状態は決して良い状態ではありません。
どうせ自分たちが使うのであれば自分たちで作った方が良いのではないかと考えるかもしれません。

MicrosoftやGoogleはエヌビディアのお客さんでありながら実はライバル関係にもあると言えます。

AIのマネタイズ問題

今でこそMicrosoftとGoogleでAI競争を繰り広げていますが、その先にお金を稼ぐ手段がないと開発は停滞しがちです。

生成AIが盛り上がって、ChatGPTの導入数も急増していると言われますが、果たしてそれが一般にも広がるのか疑問があります。

出典:東大IPC

新しい製品や市場が現れた時に、いち早く飛びつくイノベーター・アーリーアダプターといった層から、アーリーマジョリティー・レイトマジョリティーという一般層に広がるまでにはかなり時間を要し、途中にキャズム(断絶)があるという「キャズム理論」があります。

今AIが盛り上がっていますが、関係ない人にとっては全く関係ないという状況です。
逆説的ですが、AIを使うためには頭が冴えていなければならず、誰でも使えるという時代ではまだないと思われます。

そうなると、キャズムが発生した時に、生成AIやGPUに対する需要が一度落ちるのではないかと考えられます。

 

インターネットの世界を振り返ると、2000年頃にドットコムバブルということでインターネット関連の企業が大きく期待されて株価も上がったのですが、その後バブルの崩壊で株価は大きく下がりました。
インターネットも当時は急速に普及するかと思われましたが、特に高齢者などはすぐに使うということはなく、20年以上経った今、ようやく高齢者もスマホを持ってインターネットに接しているという状況になりました。

 

AIに関しては、最初の勢いがすごかったこともあり、もっと早く普及するのではないかという期待もありますが、少なからずキャズムが発生することはあると思います。

本当に普及するまでに何が起こるかは分かりません。
ドットコムバブルの時も様々なインターネット企業が勃興しましたが、結局残ったのは一部の企業だけでした。

 

半導体市場に置き換えると、今はエヌビディアの一人勝ちですが、それに対して手を打ってくる企業も出てくると思われます。
消費電力の少ないGPUであったり、話題となった「光半導体」などGPUに代わる物をエヌビディア以外のところが開発したら覇権を取っていく可能性は十分にありますし、GPUに限らずいろいろなものが出てくる可能性があります。

 

目先ではエヌビディアのGPUを使わなければならないことは間違いないですが、本当に盛り上がってくる時に何が使われるのかということは、正直分からないということになるのではないかと思います。

裏側を考える冷静さを持とう

”明るい未来”も十分に考えられますが、今のエヌビディアの株価のように、利益が何倍にも伸びるというのがずっと続くと判断するには慎重になった方が良いと思います。

皆が「良い」と言う時ほど危ないというものは、株式の性質としてあることも確かです。

 

もちろん全てを否定するわけではありませんが、早く立ち上がったものはどうしてもその後の動きも不安定になりがちなので、一度冷静になってみるということも必要なのではないかと思います。

エヌビディアは素晴らしい会社であり、目先では大きく利益が増えることもあると思います。
ただ、長期的に考えた時に100%安全ということではないので、熱くなりすぎず、「裏側」も考えてみることが投資においては重要だと考えます。


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執筆者

執筆者:栫井 駿介

栫井 駿介(かこい しゅんすけ)

つばめ投資顧問 代表
株式投資アドバイザー、証券アナリスト
ビジネス・ブレークスルー(株)「株式・資産形成実践講座」講師

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